東京の片隅の居酒屋で体験した不思議な出来事
カミさんと子供たちが親戚の家に泊まりに行ったので、自宅の近所で一人呑みでもでもしようかと白山通りを歩いていた。
どうせなら入ったことのない店に入ってみようと散策していると、こじんまりしたカウンターだけの店を発見。中を覗くと時間が早いのかまだ客は一人しかいない。八海山などの日本酒や久米島の久米仙などが並んでいて酒とつまみがうまそうな雰囲気。
ここにしてみようと引き戸を開けて入って見ると、気の良さそうな店主が明るく迎えてくれた。歳は30代後半というところか、
L字のカウンタの角に座り。まずはと生中を頼み、枝豆とポテトサラダを注文。
店主の愛想も良くなかなかいい店を見つけたと、さらに2、3品のつまみを頼み日本酒に切り替えた。
そうやって飲んでいると徐々に客が入り始め気がつくと12名ほどの席は満席。
来店の雰囲気で私以外は皆さん常連の様子。
特に聞き耳を立てていたわけでもないが、カウンターだけの店なので普通に会話が聞こえてくる。
「久しぶりに来れた。」「元気?」などとたわいもない会話がなされていたが、しばらくして隣に座った二人組の女性が
「マスター店どうなった?」と店主に話かけた。
「それがまだ見つかってないんだよ。」と店主。
どうやらこの店は何かの理由でもうすぐ立ち退かねばならず、巣鴨近辺で物件を探しているのだがなかなか見つけられないようだ。
「そうなんだ。」と女性
「外国人だとなかなか貸してくれるところがなくて、、、」と店主。
えっ?外国人。どう見てもそこらにいるちょっと色黒の日本人と思っていたら、なんとマスターはミャンマーの人だという。
「酷いよなぁ」とカウンターの端っこに座っていた20代と思わしきサラリーマンは中国人で
「じゃあ 私たちのいる新大久保にくればいいのに」と言っている隣の2人組は韓国の女性らしい。
全くそこに気がつかないで呑んでいた私は耳ダンボにして客の会話を聞き始めた。
すると逆隣の男性はフィリピンの2人組で、その隣はベトナム、韓国女性の隣はマレーシアの若者でその隣はシンガポール。中国人サラリーマンの横のちょっと渋めのおじさんはタイ人らしい。そのほかインドネシア2名。
気づいたら日本人は私一人だった。
外国人に店を貸してくれない話から始まって、日本人は意地悪だとか白人にはへーこらするけどアジア人には横柄だとかどんどん日本に対する不平不満が出てくる出てくる。
うわぁ、なんかこの状況いづらいなぁ、自分が言われているみたいだなぁ、と思い会計して帰ろうかどうしようかと考えていると、そこで気がついた。
なんで言葉の内容わかるんだろう?
自慢じゃないが英語も全く喋れない私が、アジアの言葉などわかる訳もない。
そう。みんな流暢な日本語で喋っている。
ミャンマー、韓国、中国、フィリピン、ベトナム、マレーシア、シンガポール、タイから来ている彼らの共通言語は、
日本語なのだ。
こんな不思議なシチュエーションは滅多にないと思い直し、八海山をお代わりして本腰入れて呑むことにした。みんな一見さんの客には話しかけて来ない。やはり私が日本人だからか、、、、バレてるよなぁ。でももうちょっと呑ませてね。
すると店主が
「お客さんに言ってる訳じゃないからね。」と声をかけてくれた。
それから周りのお客も気がついて気を使って話しかけてくれ出した。
隣の韓国女性は「キムチ好きですか?」などと、私も「大好きですよ。」と答え、逆に気を使わせてしまったことを詫びた。
そこからだいぶ酔って調子が出て来てしまい
若い頃にタイの離島を巡った話やバリ島の知り合いの話などでそれぞれの国の人たちともりあがった。文化の違いの話を聞いたり、おかしいと思うところなどなど、、、
ひとしきり呑んで会計をして店を出た。
「店早く見つかるといいね。引っ越したらまた飲みに行きますよ。」
そう言って店を後にした。
どう見ても普通の居酒屋でなんとも不思議な経験をさせてもらった。カミさんたちがいなかったからの偶然の体験。
ちょっとドキドキしたおじさんの小さな国際交流の話。
それから本駒込にあるアジア文化会館のお祭りには毎年遊びに行くようにしている。
アジアの国々から勉強に来ている若者が自国の料理を振る舞ってくれるお祭。
秋にやっているので皆さんもぜひ。