ある日、僕は桜の木の下にいた。
昨夜、友人から電話があり「明日の朝、いつもの木の下で待ってる!」
それだけ言うと、電話が切れた。場所は僕たちがよく遊んでいるあの大きな木の下だとすぐわかった。
でも、時間が全く分からない。朝って何時のことを言っているんだろうか…
電話をかけなおしても全く出る気配がない。
しかし、電話を切る前の迫った感じの声によっぽど大切な用事なんだろうと、起きてからすぐ行き待ってればいいかぁ~と思った。とりあえずメールだけ送ってその日は眠りについた。
今日、メールは返ってきていなかったので、とりあえず朝ごはんを食べて待ち合わせの場所に向かった。目的の場所が近くなると、人影が一つあることに気づいた。木の下につくとそこにいたのは友人の妹だった…
その子とは、1度親友の家で挨拶を交わした程度で面識がそこまでなかった。
「おはよう」僕たちは挨拶を交わし、僕はその子に「お姉ちゃんははまだ来てないの?」と聞いた。
その子は、俯いてしまった。その子に悪いこと知ってしまっただろうかと考えてると、その子は突然僕の目を見て「ごめんなさい!」と言われた。僕の頭の中はもう何が何なのかわからなくなった…
その子は、戸惑う僕を気にせず言葉を紡いだ。「今日先輩に話があるのは私なんです。」
「私…私は先輩のことが好きです!付き合ってくれませんか?」
僕は、驚いた。女の子に告白されるなんて初めてのことだし、ましてやあまり面識のない子に…
「どうして僕なんかを?」
その子は、顔を赤くし照れたように話してくれる。
「僕なんかじゃないですよ、先輩は輝いてるんです!私、お姉ちゃんと一緒に先輩の陸上大会を何度も見に行ってるんですよ?一生懸命に走る先輩を見ました。楽しそうに走る先輩を見てきました。終わった後の清々し顔をした先輩を見てきました。お姉ちゃんにも、先輩の話をいっぱい聞きました。先輩の努力も聞きました。どんな姿を見ても先輩は輝いてるんです!私はそんな先輩が好きです!大好きです!」
僕はその言葉を驚くように聞いた。僕をそんな目で見てくれる人がいるなんて…
真剣な彼女に僕も真剣に答えを言いました。
「ごめん、キミとは付き合えない。」
彼女は先までとは違い、大粒の涙を溜めて聞いてきた。
「どうしてか理由を聞いてもいいですか?」
「僕は、キミの心がわからない。人と付き合うのが不安なんだよ…」
彼女は驚いていた。意味が分からない理由でフラれたんだ当然だろう…
彼女は突然笑顔になりこう言った。
「よかった~嫌われたわけじゃないんですね…
一つだけ聞いていいですか?先輩に今好きな人はいますか?」
「いないよ」
「でしたら、私と付き合ってくれませんか?5年後私は海外に留学したいと考えてるんです。
それまでに、先輩を好きにして見せます!ですから、先輩の5年を私にいただけませんか?」
僕の頬を春風が心地よく過ぎてゆく。
僕は彼女とその5年を一緒に過ごした。一緒に笑い、一緒に泣いて、一緒に歩き、一緒に同じ空を見て、同じ時を刻んだ。その5年で僕は彼女に惹かれていった。
5年後僕はまた、初めて告白されたあの大きな木の下にいた。
その木は、鮮やかに花を咲かしていた。
「先輩、私は先輩のことが大好きです。一緒に過ごして、好きって気持ちが大きくなる一方です。先輩の気持ちを聞かせていただけませんか?」
僕の気持ちはもう決まっていた。
「僕も好きだよ、これだけ楽しい日々をくれたキミが愛おしいよ。」
彼女は泣いていた…
「先輩…大好きです」
桜が舞う木の下で、僕たちはそっと唇を重ねた。
春風が僕たちを祝福するかのように心地よい風を運んできた。
僕たちは今までも、これからも一緒に過ごしていく。
足りない時間を惜しむように…