さて今回は立場が逆転して、暴力を振るう女性、叩かれる夫に注目します。
暴力を振るう女性?
妻を殴る夫について聞くのは珍しくありませんが,
妻にたたかれる夫は多いと思われますか。
暴力に訴えて,家庭内暴力の問題を大きくしている妻は大勢いるのでしょうか。
その通りなのです。
社会学者のスーザン・ステインメッツはこう語っています。
「報道されることの一番少ない犯罪は妻を殴ることではない。
それは夫を殴ることである。……
平手打ちをしたり,たたいたり,押したりするなど,
ちょっとした実力行使をするという段になると,
男女間の実質的な相異はないようである。
たたかれる妻という現象の見られるのは,男性のほうが攻撃的だからではなく,
ただ男性のほうが身体的にもっと力があるようであり,
より大きな害を加えることができるからである」。
夫がたたかれたという話をあまり耳にしない理由はここにあります。
警察署へ行って(あるいは電話をかけ),がっちりした巡査部長に,
「家内に殴られた」などと口に出せる夫はどれほどいるでしょうか。
しかし,多くの妻たちはまさにそうした暴力を振るっているのです。
夫は妻よりも小柄だったり,年を取っていたり,虚弱だったり,
病気でさえあったりするかもしれません。
また,たとえ自分を守るだけの力があったとしても,
騎士道精神から,あるいは本気になってしまうと妻を
ひどく傷付けかねないという恐れから,自分を守ろうとしないのかもしれません。
夫の暴力を声高に非難する妻の中には,自分の落ち度を見過ごしている人もいます。
例えば,妻は夫が夫婦名儀の口座ではなく,夫名儀の口座に入金したことを知ります。
その結果生じた言い争いの際に,妻は夫を平手打ちにします。
数週間後,夫をののしったり,性関係を拒んだりして,
今度は妻のほうが悪いように思え,夫は怒りにまかせて妻を殴ります。
確かに,体にあざが残っているのは妻のほうかもしれません。
しかし,双方とも暴力を振るったという罪があるのではありませんか。
妻の暴力は,爆発を引き起こす火花のようなものとなることがあります。
自分よりも力のある夫が,自分を虐待した場合,
妻はどのような反応を示すでしょうか。
多くの場合に,深なべ,花びん,ナイフ,あるいはアイスピックなど,
手近にある武器をつかんで,それを使いますが,それは悲劇的なことです。
身長157㌢,体重50㌔のロクサン・ゲイの身に起きた事を考えてみましょう。
1977年の新聞各紙によると,この婦人は夫が自分を荒々しくたたくと言っては,
幾度も警察に電話を掛けました。
その夫は,フィラデルフィア・イーグルズというフットボールのチームの
守備側エンドを務める,身長195㌢,体重120㌔のブレンダ・ゲイでした。
とうとう,けんかの最中に,この小柄な妻はナイフをつかみ,
夫の首筋を刺してしまいました。
警察はその夫が血の海の中で死んでいるのを見付けました。
何ができるか
たたかれる妻やたたかれる夫という問題の
背後にある幾つかの点を今まで考慮してきました。
不和の根源は人間の不完全さにあり,
それは,暴力を振るうようになる傾向はだれにでもあるということを意味します。
現代の生活でわたしたちの直面する数々の欲求不満のために,
その可能性はまぎれもないものになります。
嫉妬や憤りなど自分の感情を制御する能力に欠けることも,
暴力行為へと人を走らせます。家庭内暴力は大抵,
アルコールの影響の下で起こります。
また,配偶者虐待の罪は,男女双方にあるということも見てきました。
家庭内暴力の原因に関するそのような洞察も大切ですが,
さらに多くの事柄が必要とされます。
この問題は広く行き渡っているので,
わたしたちは断固として,この問題を未然に防ぐか,
解決するよう努めねばなりません。
次のような質問を考えてはいかがでしょうか。
腹が立ったときどのように行動したらよいだろうか。
アルコール,金銭,あるいは自分の職業に対する
自分の見方が関係しているだろうか。
すでに家庭内に暴力が君臨している場合,離婚するのが最善の策だろうか。
人の人格や反応を本当に変化させるのに,聖書は役立つだろうか。
「夫と妻にかかわる殺人事件のうち,52%は妻が被害者であり,
残りの48%は夫が被害者であった」―FBI犯罪統計。
「夫を挑発する妻も確かにいる。必ずしもそうだとは言えないが,
大抵の場合がそうであると思う。妻が繰り返し夫を殴り,
夫がたまりかねて殴り返すというような夫婦を私は数多く見ている」
―マーガリート・フォーゲル博士。