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16/12/28

私たちは馬鹿になっていないだろうか?という話

Image by Olia Gozha

児島 襄(著)『天皇』第1巻-第5巻を読了。

本作は昭和天皇が存命であった昭和40年代に執筆されたものであるが、かなり微妙な問題にまで切り込んでおり興味深い。作者の苦労が伺われる作品。

明治末期に誕生し、「大正デモクラシー」の自由な空気の下で当時最高の教育を施され、リベラリストとして成長した昭和天皇がその後、どのように苦渋の決断を迫られていったのかが克明に記述されている。

興味深かったのは明治憲法下における天皇の立場と「輔弼」という概念。

「君臨すれども統治せず」の原則のもとに、昭和天皇は明治憲法下では、日本国の主権者でありながらも、政治的な決定権は一切なかった。内閣が所定の政治的手続きによって決定した事項については、天皇は本心ではそれに反対であったとしてもその決定を「嘉納(喜んで之を収める)」することを求められた。(こういう機能的な面では明治憲法はそれほどひどいものではなく、当時の水準からすれば至極まっとうな代物であったことが推察される。)

これが「輔弼」であるという。

天皇は国内のあらゆる立場・利害を超越した日本国の象徴であり、そのためには無謬でなければならない。また、天皇自身の主体的な政治的決断による失政のリスクから天皇自身を護り、その責任を内閣の「輔弼」が引き受ける。

よく知られているように天皇が主体的に政治的決定を下した唯一の例は終戦の詔勅であったらしい。

ところで司馬遼太郎が生涯かけて追及したテーマは、列強の野心が渦巻く世界情勢の中、独力で明治維新を成し遂げた日本人が、なぜ先の大戦のような愚かな失敗を犯したのか?ということだった。

もっと言えば、「昭和に入ってからの日本人は、なぜこれほどまでに馬鹿になったのか?」ということだった。この問題についても、本作品は一つの答えを提示しているように思われる。

満州事変、日中戦争、太平洋戦争などの全てについて、当時の天皇、政府、あるいは軍首脳の立場は「不拡大」であったとこの作品は述べている。

この3者全てが「不拡大」方針を定めていながらも、結局は国軍の佐官を主体とする中堅層を統御できずに現場の一線部隊の暴走を追認する形で戦争に突入していった。

では、なぜ政府・軍部首脳はこの中堅クラスを統御できなかったのか?

そこには、いわゆる「統帥権」の問題があったにせよ、根本的な理由は世界恐慌下における国内経済の行き詰まりを背景にした軍民を挙げた膨張主義に為す術がなかったということではないかと思う。

だから司馬が提示した「なぜ日本人が馬鹿になったのか?」という答えの一つは、当時の世界恐慌下における日本国の困窮と行き詰りによる短絡と錯乱の結果であったのかもしれない。

大正デモクラシー下の軍縮政策から、国土が焦土になるまでわずか20年。この間に「日本人は馬鹿になった」。

振り返って、今年から遡った過去の20年。そして2036年までのこれからの20年。

もちろん自分自身の含めた現在の私たちは、「馬鹿になっていない」と言えるだろうか?困窮と行き詰まりの中、短絡と錯乱状態に陥っていないだろうか?

本作が提示する歴史の詳細と司馬が生涯をかけて追及したテーマ。これは極めて現在的な問題である。

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