「私は、自由でいたい。」
クラスメイトにそう告げて。
私は早速グループを抜け
自由気ままに一人で行動するという
行動にうつした。
クラスメイトは、「わかった。」
と、言った。
だからといって、
その人達との関係性が悪くなるとか、
そういう事にはならなかった。
その後も普通に話したりした。
ただ、グループという所属の
《枠組み》を取っ払っただけなのだ。
私の意思を持って。
《枠組み》
この言葉はその後、私の人生において
実に多用する言葉となった。
家族、恋人、友達、学校、会社、社会、国、地球、宇宙、
私達は常に《枠組み》の中で生きている。
悪い事ではない。
ただ、選べる枠組みもあるという事。
選択肢は自分の手の中にある。
選ぶか選ばないかだけ。
私は、枠組みを取っ払えたことで
絶望的だった学校生活に
少し希望が見えた気がした。
次に、隠れ家となる場所を探した。
図書室、校舎の裏。
これらは私が一人で楽しく過ごすことの出来る
自由な空間だった。
幸い私の教室はすぐ隣が図書室で、
授業終了の合図が鳴り止むや否や
しゃがんで教室を抜け出し、
まず図書室の机の下に隠れていた。
何故ならば、
クラスメイトが私を探しにくるからだ。
あまりに自由な人間の行動は、
人を気にさせてしまうのだろうか。
とにかく私は、
私を呼ぶ声を無視して
息をひそめて、机の下に隠れていた。
そのうちクラスメイトは私を探す事を
諦めた。
とっても小さな図書室だったけど、
私には充分事足りていた。
図書館は校舎が幾つかある中の
とてもへんぴな場所にあり、
そのため一授業の合間の休憩時間なんて
ほぼ誰も来ない。
窓も広くて、風通しも良い。
医学書や最新のベストセラー、
文庫や詩集、絵画に哲学書。
数は少ないながらも、
本のセレクトが私的にとても良いものだった。
今もだが、
私は書店で大々的に広告される、
ベストセラーなるものにあまり興味が持てない。
偏見があるわけではないが。
しかし隠れ家の空間は、
普段しない事もしてみようと思わせる
何かがあった。
ベストセラーも、読んでみた。
とはいえ、他に比べるとやはりあまり
数は読めなかった。記憶にない。
そういえば、こんなものもあった。
世界の数少ない病気を、
症例とXY染色の配列がどうとかで説明してある
医学書の様な分厚い本。
高校生の私は何を思ったか
プリントの端を小さく切ったものに
小さい字で必死にそれを書きうつした。
それは
染色体の異常で、性別が途中で変わってしまうという
短命な病気だった。
そこから何年もその紙を大切に保管していたが、
前々回の引越しの際、とうとう紛失してしまった。
はじめて知る事がたくさんだった。
ハードカバーより
文庫サイズが好きだと感じたこと。
新書と文庫の違い。
詩集に興味を持ったこと。
好きな作家の傾向。
文字が好きな事。
哲学書をすんなり受け入れれたこと。
私は、新たな私を知っていった。
司書に、
「あれはいつ入りますか。この本をいれて欲しい。」
なんて、得意げに言ってみたりもした。
ありがちな行動であるが、
小説を書いてみた。
即座に挫折した。
起承転結がない。
そもそも、小説として書きたい事がないという致命的落ち度。
私は小説家を目指す人、
小説を書ける人を心から尊敬する。
スポーツでも、音楽家でも、料理人でも、
どんな仕事でも、趣味でさえ、
取り組んでみることでわかる難しさは、必ずあるなと知った。
次に、詩を書いてみた。
詩に関しては一言でもいいわけで
挫折も何もないのだけど、
作品としては不完全だと思ったし
世に出そうとまでは思えなかった。
何より気持ちが完結出来なかった。
この、文章と私とのやり取りが、のち
に作詞作曲という方向に繋がっていった。
(その話はまたいつか)
とにかく、私は夢中だった。
本当に唯一の楽しみな、楽しみな時間だった。
今でも本を読む時間は、とても大切に
している。
さて、私は周りに対し、あからさまに
自由を表明していたので、行動や発言
に一切の制限を設けなかった。
私は、私として生きれた。
教室の移動も人に合わせる事もなく、
昼食も気ままで、一人校舎裏で食べた。
時にはその日話が弾んだクラスメイト達と食べてみたり、
教室でこれまた一人で食べたりもした。
クラスメイトには、「自由でいいね」と、
何度言われたろうか。
その都度私は、
「あなたもそうしたかったらいつでも出来るよ。
選択するのは自分なんだし。」
と、口ぐせのように、笑って返していた。
クラスメイトは
「勇気がない」
と言っていた。
私は誰の事も、好きでも嫌いでもなかった。
高校生の私の中の
好きという感情の評価レベルはとても高くて
だからクラスメイトというだけで
好きになるような事もなかったし
嫌いになるような事もなかった。
ただ
「クラスメイト」
それだけの存在。
友達が嫌いと言えば
別に自分は何かをされたわけでもないのに
嫌いになったり、
仲間外れにされたくないから
思ってもいないのに周りに合わせたり、
そんな芯のない生き方を
絶対したくなかった高校時代。
私はこの高校生の間に
揺るぎないアイデンティティを確立したかったのだ。
Next