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17/1/14

【11話】正しい社畜の落とし方

Image by Olia Gozha


美人女子高生からのLINEを既読スルーして、詰められる元社畜の僕。そして彼女から思いもよらない言葉を耳にする。

あやか「好きです...」


自分の耳を疑った。人生生まれてから、僕宛にこの単語を耳にするのは初めてだった。

「好きって言われても....」

戸惑う僕。恋愛ドラマのような度重なるドラマティックな展開に追いつけない。

でも、僕は彼女の思いに答えられそうになかった。

なぜなら彼女とはまだ知り合ったばかりだし、よく知らない。僕はカオの事が好きになっているし...

(彼女には悪いが、カオとの関係も短いのだけど...)

しかも彼女の思いは僕を操りたいように感じた。愛より物欲に近いエネルギーに思える。僕は子供の頃、欲しいオモチャがあるときは自分の感情をフルに表現して、親に買ってもらっていた。彼女の示した行動はそれによく似ていた。

僕は大人だ。彼女にはその行為は駄目だと伝えなければならない。

僕は彼女の肩を鷲掴みし、目をしっかり見てこういった。彼女が少しビクッとした。

「僕は君の思いに答えられない。ごめんね。」

あやか「....」

彼女は僕の答えに少し驚き、口を少し開けたものの、それ以上は反応はなかった。

そして少しの沈黙の後、言葉を吐息を吐くように出した。

あやか「(男らしいんだね....)」

予期していなかった彼女の小声に、僕の頭は混乱した。

彼女は笑顔を見せて、「わかった。時間を取ってごめんなさい。」と言って、自分の部屋の方向に歩いていった。

僕の方が彼女の対応に拍子抜けしてしまってやりきれい思いを抱えながら銭湯に向かった。

彼女とは次の日も何事もなく、普通に接した。少しどこか、違和感を感じたが。

それから時が過ぎた。仕事やBBQも普通に一緒に楽しんだ。

そして彼女との別れは唐突にやってきた。

数週間後、彼女は夏休みを終えるため、仕事を退職することになった。



退職日当日

夏も終盤を迎えに近ずいてきたその日、あやかは再び僕の前に現れた。

彼女はペンションを出る前に、警戒心もなく僕の部屋に単身で訪ねてきた。

部屋をノックして、声がしたのでゆっくり扉を開いた。少し薄化粧をしていて、彼女の整った顔をより一層際立せていた。いきなり僕に抱きついてきた。彼女の耳元から香水の匂いがする。

少し長めのハグだったが、もちろんそれ以上の事は何もなかった。僕は彼女を静かに抱きしめ返していた。

そして丁寧に僕にお礼を述べて、ペンションを去っていった。

彼女は僕との出会いを喜び、別れを惜しんでくれた。もう彼女の目は僕を試すような目をしていなかった。もはや始めにあった時の軽いノリをしていた彼女とは同一人物とは思えない。

本当の彼女は一体どれだったんだろうか?

実は僕よりよっぽど大人で、僕がどういう人間か見定めていたのだろうか。

これ以上の事は解らない。だが気になって仕方がない。

そのことで頭がいっぱいになる。

「高校生」という彼女の仮の姿に騙されて、実はすごい良い女性だったのかもしれない。

社畜の時代の僕は、仕事が終わらないと残業してずっと職場にいた。

そのクセで問題は最後まで解決しなければいけないと頭にプログラミングされている。

悪いクセだ。猪八戒に似た憎たらしい上司の忌々しい笑顔を思い出した。

彼女の事を、彼女の行動を、何度も何度も考えた。正解がない問題の答えを探し続けた。

僕はいつの間にか、あやかの事を思うと酷く寂しくなり、正直にいうと...結果的に少し好きになってしまっていた。カオがいなかったら僕は...彼女を本気で好きになっていただろう。

僕は実に単純なやつだということに気が付いた。彼女の魔力にいつの間にか落とされている。


一人の女性を愛し続けることは難しい。


僕は自分の意思の弱さを憎んだ。


そしてあやかだけでなく、シオンと出会った仲間達との別れが徐々にやってくるのであった。

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