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16/12/10

フツーの女子大生だった私の転落の始まりと波乱に満ちた半生の記録 第28話

Image by Olia Gozha

知られざる顔

《ここまでのあらすじ》初めて読む方へ

あることがきっかけでショーパブ「パテオ」でアルバイトをしている大学生の桃子は、少しずつ頭角を表し店の売れっ子へと上りつめていく。そんな矢先、恋心を抱きつつあった店のチーフマネージャー佐々木が店を辞めショックを受ける。やけ酒を飲んだ帰り元恋人の拓也に、振られた腹いせに桃子が売春していると噂を流したと告白されたり、実家の母の急な訪問で、桃子の心は揺れ動き、ついにパテオを辞める決心をする。ところがその時が、佐々木から電話があり予期せぬこと明かされるのだった。




無数の手は様々な色形をしていた。


筋肉質だったり、細く白かったり

ゴツゴツして毛むくじゃらだったり



私は必死で逃れようと、もがき、喘いだ。




でも力尽きた時

私の体は


無重力状態にいるみたいに宙を浮いた。


そして、私は再び暗闇の中に深く堕ちていくのだった。



私はハッと我に帰った。


暗闇の中でも私の部屋だと分かった。


あの夢を見るのは久しぶりだった。



私は起き上がりベッド脇のスタンドの電気をつけた。



時計をみると、佐々木との電話を終えてから

まだ20分しか経っていなかった。



薄明かりの中で無意識に、私はベッドを降り床を這い回った。


きっとどこかに転がっているはずだ。

あのネックレスを床に投げつけたのは

つい昨夜のことなのだ。


 ない。フローリングの床の隅々にも、溝にも


私はベッドの下を覗き込んで


ホッとした。


手を伸ばして、それを掴んだ。


青い石はやはり綺麗だった。




「玲子には気をつけろ」


受話器越しに佐々木はそう、はっきりと言った。


最初、私は何のことだかわからなかった。


「え…それどういうことですか」




「初めてお前にあった日」



佐々木は勝手に喋り続けた。


「ほら、駅前の喫茶店で待ち合わせただろ、玲子と。

俺は少し遅れて行ったけどよ。お前にあいつ言ったよな。

携帯電話拾ったのは俺だって」


私はあの暑い夏の日のことを思い出していた。


財布と携帯電話を拾ってくれたという女性に会うため

私は緊張と不安でいっぱいだったっけ。

拾ったのが柄の悪い佐々木だと知り

私は、不信いっぱいで彼らの前に座っていた。



「玲子さんはそう言ったけど…

アキさんが拾った…んじゃないんですか?」




「拾ったのは、玲子だ…

ついでにお前の財布を拾ったのもあいつ」



「え…」



少し間を置いて私は、ハッとした。



「財布って……だって、携帯電話しかなかったって…」



「確かにお前にはそう言ったな。拾った時

   携帯電話だけで財布はなかったって。

でも、だいたいよお、財布だけ別の人間が持っていくなんて

おかしい話だろ?それとも、携帯拾った俺がそのまま財布だけ

パクったとか思ってたか?」



半分図星だったので私は、はいと答えた。



「バカやろう!俺がするかよ!」



「アキさん」



「ん?」



「本当は玲子さんが盗ったってことだよね、私の財布。」



佐々木は、ああそうだ、と答えた。



「何で… ? 何のために?私、あの夜本当に困ってたんです。

仕送りしてもらってて全額引き出した直後だったから。

手持ちのお金もなくて。もう、慌てて、パニックになって!

そのおかげでに変な店で怖い目にもあったし…っ」



次に言った佐々木の言葉で、私はもっと驚くことになる。



「ついでに言うけど、あいつ見てたんだよ。

お前が電話ボックスに入るところも出るところも。

すぐ側に停まってた車に中から。

もちろん、お前が電話の上に財布と携帯置き忘れてくのもな」



「嘘…」


信じられない気持ちで頭がいっぱいになりそうだった。



「おかしいじゃん!玲子さんお金持ちでしょ!どうして私みたいな

平凡な貧乏学生のお金を盗ったりするの!?何のために?」



「人材だよ」



「え?」



「玲子は黒服のスカウトして連れてくる女どもが

気に入らねえって、よくぼやいてた。たまに時間があると

自らスカウトすんだよ。って言うか物色みたいなもんだけど

街頭とかじゃなくてバーとか、他のホステス引き抜いたりな。

それで、どっかの店と揉めたこともある」



「私は、スカウトでも何でもないじゃない!

ただお金騙しとられただけなんだから」



「いや、あいつの言い分としては、こうだ。

車の中から偶然お前を見かけ、悪くないと思ったそうだ。

でも、身なりや風貌からして生真面目そうに見えたんだろう、

誘ってもホステスになるわけないと思った。

が、その直後お前が携帯電話と財布を忘れて出て行く瞬間を目撃した玲子は

そこにつけ込んでお前を店に引っ張ろうと考えたんだ」



佐々木は、一呼吸置いてから言葉を続けた。



「何でこんなこと今更お前に教えるかわかるか?」




「置き土産ってわけ…せめてものお情け?」




「そう言うなよ…確かに俺はそれを玲子か直に聞いてた。

ずっと今までお前に黙ってた。共犯って思われても仕方ねえよな。

でも、そんな情けとかじゃねえ。お前にはlこれからもっと

パテオで上目指してほしいからよ、玲子って女の本性を教えときたかったんだ」




「アキさん…」



「いいか?玲子は金と権力のためなら何だってする女だ。

   欲しいものがあればどんな手を使っても手に入れる。

   お前はまだあの女のほんの一部しか知らない。

   あいつにとってお前は、大切な稼ぎ頭だ。

   当分はお前を手離さないだろう。でも、覚えとけ。

   あいつは油断ならない女だってこと

   そのうちお前も知ることになる、あいつの本当の顔を」






佐々木の声が今もまだ、耳元でこだましているようだ。


私は膝を抱え、薄暗い明りに照らされて


どこかに遠くを見つめていた。

鋭く睨みつけるように。




翌日、私はデパートの化粧売り場で

メイク道具を一式、新しいものに買い替えた。


婦人服売り場でパーティドレスを2着新調し、その足で靴も買った。


全て今まで、買ったこともない一流ブランドの高価な品々だ。



夜が来るのを待っていたかのように

私は、闇の中に飛び出した。


家を出る直前に開けた冷蔵庫の中に


私の好物と母が買いおきしてきれた


地元で定番のお菓子が視界に入り、ほんの少し胸が痛んだが



今は迷うのは止めにした。




やっぱり、私の今の場所はあそこしかない。


夜風が心地よく頰を撫でる。


負けない。

私は、負け試合なんかまっぴらだ。



私は



絶対ナンバーワンになる。





何度、こっぴどく素通りしても懲りずに声をかけて来る

馴染みのキャバクラのスカウトマンの前を通り過ぎ



私は雑踏の中を颯爽と歩きパテオに向かって行った。




思えば、この日を境に私、篠田桃子のホステスとしての

第2ステージが幕を開けたのだった。


そして

この日、この瞬間、

さらなる迷宮と暗黒の闇へと繋がっていくのを


私は薄々感じていた。






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