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16/10/20

世界旅後手持ち300ドル、家族も友人・恋人、時間もお金もすべて失い失意のまま帰国したバックパッカーが自分の夢を叶えてきた記録(6)

Image by Olia Gozha

鉄板焼き職人への道

シェフダルウィン「君をずっと待っていたんだよ!もう、僕たちは君は来ないものと思っていた」





日本食レストラン、BENIHANAの小奇麗なキッチンでシェフ・ダルウィンは少し茶目っ気をふくめながらそう言いました。小柄で童顔なので、実際の彼の三十二歳という年齢よりも若く見えます。フィリピン人なのですがどちらかというと日本人のような顔だちをしているのでとても親近感がわきました。ケイシーは初日から温かくBENIHANAのスタッフに迎えられていることにほっとひと安心しました。



シェフダルウィン「こっちはシェフメッシ、ヨルダン人だけれど寿司アーティストだ。こっちは洗い場担当のジェラール。給仕の女の子達。左からジェジェ、カトリーン、メリッサだ」

ケイシー「よろしくお願いします」





シェフメッシと呼ばれた背の高く黒いシェフ服に白いシェフ帽子をかぶったかなりイケメンのヨルダン人はパチッとこちらに向かってウインクをしてきました。ジェラールと呼ばれた細身の男性は大き目の目をくるんとさせわずかに猫背を後ろに伸ばして、好奇心の目でケイシーを見つめました。女の子達は皆、一様に黒いスーツ姿でこちらに向かって笑いかけました。



シェフダルウィン「僕はここで二年間、鉄板焼きのシェフをやってる。その前にはクウェートのBENIHANAにいたんだ。その前はマクドナルドで働いてた。妻が一人に子供が三人。みんなフィリピンにいる。」

ケイシー「私はケイシー、日本人です。仕事を早く覚えたいので、よろしくお願いします」





ケイシーが言うと皆は優しく笑いました。



シェフダルウィン「BENIHANAは全世界日本食レストランチェーンだけど、日本人がそこで働くのを見たことがない 笑」

ケイシー「そうなのですね、じゃあ私は珍しい日本人ってことですね!」

シェフダルウィン「ああ、その通り。それから君のユニフォームだけど」






ダルウィンはそう言ってケイシーの着ているダボダボの制服を見てふふっと人懐こそうに笑いました。



シェフダルウィン「どこで借りたの、それ?」

ケイシー「下のランドリーです」

シェフダルウィン「じゃあ、今日仕事が終わったら僕の寮の部屋に来るといい。余ってるユニフォームをあげよう」

ケイシー「あ、アリガトウございます!」


思いがけぬ優しいダルウィンの行動に、ケイシーは嬉しくなりました。





シェフメッシ「君、靴は何センチ?」



横からずっと話を黙って聞いていたシェフメッシが聞いてきました。



ケイシー「えっと・・Mサイズで、日本の定規で行くと三十五センチです」

シェフメッシー「よし、靴は僕が明日もってきてあげよう」




正直なところ、あれだけ上層部の人間ともめていたことが嘘のようにBENIHANAのスタッフは優しく、ケイシーはまるで別世界に迷い込んだような気持ちになっていました。



ケイシー「有難う、みんな有難うございます」




-まるで、新しい家族ができたみたい。


ケイシーは心の中で思いながら初日の夜を埃っぽいベッドの中で過ごしました。


-そうだ、明日になったら部屋の掃除をしよう。


むわんと長年積もった埃っぽい匂いに、真っ暗闇の中鼻の奥がむずむずとします。


そんな夜でも、ケイシーの中にはワクワクとした一つの希望があったのでした。




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