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16/10/17

素顔10代な平凡OLが銀座ホステスとして売れっ子になるまで(10)

Image by Olia Gozha

出会いは思いがけない時にやってくる

その夜、私は黒地に大柄な赤いバラの花をあしらった派手なドレスを身に着けていた。


木曜日の夜は週末でもないのに混みあっていて、客は席からあふれてカウンターで待っているような状況だった。


その客は丸顔でフチなし眼鏡をかけ、黒いスーツの前をきちりと着たやや大柄の男性だった。隣に細面の狐目の男を連れて例にもれずカウンターに座って席が空くのを待っていた。

マヤ「いらっしゃいませ!お席が空きましたのでご案内します。」

私が務めて明るくそういうと、二人は振り返ってこちらを見上げた。

大柄の男性と目があった瞬間、彼は何か言いたそうな顔をしたのだが黙って私の後ろからついてきた。

後で聞いた話によると、このとき彼はとても驚いていたらしい。私の声色、表情が以前にお付き合いしていた女性とそっくりだったというのだ。


席につきおしぼりを手渡すと、上司である大柄の男は大島、と名乗った。彼の狐顔の部下は小林で、プラネットの常連だった。大理石でできたテーブルの反対側に、小林の担当である店のお姉さん、サキさんが座った。

サキ「小林さん、今日は大事な上司の方お連れいただいて有難う!」

小林「うんうん、すごいやり手の部長を連れてきたよ~」

サキはやはりお姉さんで、話がうまい。サキが席に座ると、彼女の独壇場になることが多かった。

そんな時は、私は自分からでしゃばらないように努めて空気になるよう心掛けていた。

あたりさわりのない1時間が過ぎ、大島と小林は次の予定があるからと店を早々に後にした。

まだ入店したばかりで担当の客もいない私にとっては、彼らはサキ姉さんのお客で、無事に粗相なく接客が終わったことに一安心していた。

サキ「マヤちゃん、今日のお客さんね。」

マヤ「はい?」


街灯の向こう側に消えてゆくお客の後ろ姿を見ながら、サキがこちらを見ずにそう言った。

サキ「大島さん。マヤちゃんのこと気に入ってたみたいよ」

????私にはわけがわからなかった。

マヤ「でも、大島さんほとんどお話ししなかったですが・・」

サキ「そうなの?彼でもお気に入りって言ってたわよ~」

男性って、わからないなと思いながら、私は首を傾げた。大島部長からメールが来たのは、その3日後の昼間のことだった。


大島「元気?今日、店に行こうと思ってるけど・・・」

マヤ「こんにちは!お久しぶりです!え!本当ですか??お待ちしています!」

銀座の店には担当制という考え方があって、一般のキャバクラの指名制とは大きく異なる。

店によっては永久担当というものがあって担当客の枝客も永久に自分が担当するという、お客と一連托生のシステムも存在するのだがプラネットはまだ優しく、お客が来店の連絡をくれた女の子に対して担当、というように呼んでいた。もちろん、その成績は給料にも影響してくる。


そのころの私はネットワークビジネスからも足を洗い、自分のやりたい事を模索していた時期だった。

マヤ「何時ごろにいらっしゃいますか?」

大島「そうだな・・・早い時間に。小林と一緒に飯食ってから行くけど、マヤちゃんも来る?」

あっという間もなく、私の初の同伴が決まった。

プラネットに入ってから2か月。ただお酒をつくり場の空気になる立場から、お店を支える仕事ができるということに対して私は大きな使命感を感じた。

マヤ「もちろん、行きます!」



いまは、目の前の仕事を精一杯やろう。私はそう決意した。

静かな闘志にきらめく銀座の通りにも寒風が吹く、24歳の冬だった。



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