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16/10/18

フツーの女子大生だった私の転落の始まりと波乱に満ちた半生の記録 第20話

Image by Olia Gozha

逆襲

《これまでのあらすじ》初めて読む方へ

大学生の桃子はあることがきっかけでショーパブでアルバイトをしていた。次第にそこに居場所を見つけ野心に燃える桃子。ナンバーワンのミサキが店をやめたことで、ついに桃子が店の看板売れっ子へと上りつめる。そんな矢先、突然大学のゼミの担当教授、苗代が店に顔を出し桃子にたかるようになる。そしてある夜アフターを付き合わされた桃子は、苗代から脅迫まがいにホテルへ行こうと誘われる。



苗代は何食わぬ顔で店員を呼んで会計を頼んでいた。

たった今、教え子に対して吐いた言葉など、まるでなかったかのように。


私は、そのまま目をそらすことなく彼を見続けていた。

正真正銘、最低教師を糾弾する眼差しだった。


しかし、苗代は物ともせず店員に代金を渡すとタバコに火をつけた。


「君は仕事以外は吸わないのか?ほら、一本どうだ?」


目に前に差し出された一本のタバコを

振り払いたい衝動を抑えながら

私は受け取った。


苗代が火を近づけてきたので

そのまま口をすぼめて煙を吸い込んだ。


タバコの先端がパチパチとオレンジに光る。


苗代は、そんな私を面白そうに見ている。


「先生」


「ん?」


「もし私の答えがノーだったらどうする気ですか?」


苗代は、フンと鼻で笑った。


「俺はどうもしない。篠田、お前が困るだけだよ」


「なぜですか?」


「おいおい、今更なんだよ。わざわざ言わせたいのかい?

   俺が君のゼミの担当教師だからだよ。そして君の秘密を知っている。

   1年生の時だっけ。言ってたな。いいところに就職したいって。

   そのために経済的に無理して大学へ通っているって」


驚いた。

そんな前に言った言葉まで覚えているんだ。


いや、その事情を覚えていて

こんなことができることにはもっと驚かされた。


「つまり、先生の言いなりにならなきゃ

   私に未来はないって言ってるんですね…?

   私…  脅迫されてるんですよね、先生に」


「人聞きが悪いな」


苗代は、はははっと笑ってから 


「でも、ま、そう解釈してもいいさ。俺は構わないよ。」


苗代はタバコをもみ消すと立ち上がった。

そして私を見下ろして言った。


「どうするかは君次第だよ。これから一緒にホテルへ行くか

   それとも僕に逆らうのか。ただ、これだけは言っておく。

   僕の言うことを聞けないなら

   残念だが君は大学進学の目的を見失うことになるだろうね」


そう言うと苗代は席を離れ背を向けたまま言った。


「さ、行こうか」


私は、座ったまま硬直したように俯いていた。


「そんなに緊張することない。今更、処女ってわけでもあるまいに」


私は顔を上げ、店の出口へと向かおうとしている苗代の背中に言った。


「行きません」



苗代が、私を振り返った。

冷静さと余裕を取り繕っているが

眉間にはシワが濃く刻まれていた。


「どうしたの?」


「私…行きません」


苗代は呆れたような笑いを浮かべた。


「まだ分かってないみたいだね。自分の立場」


「分かってないのは先生の方です」


「なんだい?僕が何を分かってないって言うんだ」


苗代はちょっとうんざり気味に笑った。

私はその顔を見つめて言った。


「ご自分の立場です」


「僕の立場?」


「そうです。助教授の身でありながら教え子にたかったり

   お金を無心したり、挙げ句の果てにはホテルに誘う。

   そんな非人道的な行いが許されるとお思いですか?」


苗代は一瞬、顔を強張らせたが

なぜかゼミで見せる穏やかな顔に戻って


「なんだい、どうしたんだよ急に」

と笑って私のそばまで歩み寄った。


でも次の瞬間、その顔が一瞬で青ざめた。


苗代はの視線は私の手に釘付けになっていた。


「これが何か分かりますか?」


私の手には佐々木に渡された小さなテープレコーダーがあった。


苗代は、ゆっくりと視線を私に戻した。

その目には、もはやさっきまでの威勢と余裕はなかった。


「君、まさか…」


「これに今夜の会話、全部録音させてもらいました」


「何だって?!」


「夜な夜な私にたかり、お金をせびり、体の関係を強要する。

   これは大学を懲戒免職じゃ済まされないですよ。

    立派な脅迫罪です。つまり犯罪」


「犯罪だと、馬鹿を言うなよ。ただ僕は君をからかったに過ぎない

  教え子のアルバイト先に顔を出すことが犯罪なのか!?」


「そのアルバイト先であなたがいくら使ったか教えてあげましょうか?

   39万円です。全て私が脅されて立て替えましたけど。

   それから先生、離婚されてませんよね?別居中でしょう。」


「何でそんなこと知ってるんだ!」


「調べました。お子さんは12歳と6歳、まだまだお金がかかりますね。

  どうして別れたなんて言ったんですか?

   奥様にバレたら困るから?こんな最低な行いが」


苗代は愕然として席に腰を下ろした。


「篠田、悪かったよ。俺はどうかしていたんだ。

   毎日、大学では大御所教授たちの顔色ばかりうかがって、

   青二才と馬鹿にされ…

   家ではカミさんが気が強くて、給料のほとんど持ってかれてなあ。

   言っただろ、助教授の給料なんて雀の涙だよ」


「だから、教え子を、私を脅すんですか?」


「君は、優秀な学生であるとともに側から見ると

   ウブで世間知らずに見える。だから、俺の言いなりに

  なると思ったんだ…」


「…最低…」


私は怒りに肩を震わせながら立ち上がった。


「もう、店に来ないでください。それから

   立て替えた分のお金、全部返してください」


苗代はうなだれたまま微動だしない。


「今後のことは私が決めます」


そう言い残すと私は店を出た。


時計を見ると終電はとっくに終わっていた。


私はため息をつき

都会の夜空を見上げた。

星の一つも見えはしなかった。


私は自嘲気味に笑った。


自分を居場所を壊すものを、やっつけたと言うのに

この虚しさは何だろう。


私は誰を信じればいいのだろう。



人気のない路地を横切った時だった。


背後から、すごい力で羽交い締めにされた。


そして細い路地に引きづられ倒された。


覆い被さる男は、ほかでもない苗代だった。


酒臭い息が私の顔に吹きかけられる。


私は顔を背けながら、彼を睨みつけた。


苗代に目は本気だった。

我を忘れたかのような目だった。


「出せ!!テープレコーダーを出せ!

   渡さないと、何するかわからないぞ!

   何ならここでやってやろうか。

   ホテルに行く手間が省けていいや、ほら出せよ!」


私は地面に思い切り頰を押し付けられた。

無数の小石が肌を突き刺し傷つけられた。


「早く出せって言ってんだ。

  この、カマトトぶったアバズレ小娘が!ナメんじゃないよ」


苗代は私のジーパンのファスナーを乱暴に下ろした後

脱がそうとするがうまくいかず、今度はセーターを捲り上げてきた。


「まあ、いいや。先にお楽しみと行こうかな」


私は悲鳴を上げた。


「やめて!!やめてよ!!」


「うるさい!!」


また地面に頭を打ち付けられた。



意識が朦朧としてきた。


何…これは

私…なんでこんな目にあうの?


去年の今頃は私はバイトとサークルに励む普通の女子大生だったし

私に今、乱暴しているこの鬼畜は

私の慕ういい先生だった…


どうしてこうなったの?


それとも

これが本当の私と彼なの?


私が見えてなかっただけ

いや見ようとしてなかっただけで


あの日


公衆電話の上に財布と携帯電話を

置き忘れていなかったら


見なくてすんだだけなのだろうか…


見たくなかった…こんな先生を


こんな目に…誰があいたいものか…


あの日の戻りたい


雨の夜の日に



カエリタイ…




遠くで微かに

聞き覚えのあるこえがした。


「オラ!!」


ドスの効いた殺気立った声だ。


でもなぜか懐かしさが胸に広がった。



その時


私のセーターを鷲掴みする手がほどかれた。




   





 

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