まだ小学生の頃、50年ぐらい前。遠足の行き先は千葉の姉ケ崎にあった三井造船だった。広い敷地に多くの鉄の塊がゴロゴロしており、ドックでは大きな船が溶接による火花を上げて組み上げられていた。人も大勢があっちに行ったり、こっちに行ったり。勢いが見て取れた。
大学を卒業して外航海運会社に就職。
初めて見た会社の船は国内航路の小さな数千トンのものだったが、その時はそのおおきさに圧倒された。
そして製鉄所に新人研修に行った時見た原料を運ぶ専用船は、幅50m近く、長さは300m以上。
岸壁から見上げると大きなビルが立ち上がっているように見えた。
煙突に描かれている会社のマーク、ファンネルマーク、が誇らしかった。
その後、専用船を建造している造船所に足を運んだ際にはドックには大型クレーンが設置され、地上で溶接された小山くらいの大きなブロックを持ち上げて組み上げていた。
その頃書いた修士論文には、「世界の造船建造量の内、日本が4割、韓国が2割。この2国だけで6割以上を占めており、この2国の造船受注量を見るだけで世界の船腹供給量をかなり正確に予想することができる。」とある。
ところが皮肉な事に、この頃から日本の造船建造量シェアは低下を続ける。
2000年には初めて韓国に抜かれ、2009年には中国にも抜かれる。
最近のシェアは中国が3割強、韓国が3割、我国は2割台。
韓国の造船所を訪問したことがあるが、タンクのあるガス船も作っており、人の姿も多く勢いが感じられた。
一方、最近の日本の造船所は構内がきれいに片付いているのは良いのだが人の姿が余り見られない。
言ってはなんだが休日?と思う程の静けさだった。
聞くところによると溶接などの熟練を要する作業も最近ではの研修生名目で働きに来ている外国人無しには成り立たないらしい。
ロボットの導入も進んでいるようだが、船首部分の波を切って走る部分の曲線は未だに木型とプレス、ハンマーを使っての手作業に依拠するそうだ。
従って高齢の熟練者がリタイヤするに従って、その様な技が失われている。
三菱重工が2隻で1,000億円で受注した豪華客船は、その受注額の2倍に損失を計上する惨状。
客船独特の内装関係についてのノウハウが無く外国企業に頼る必要があった他、IT対応に代表される初物への対応力が無くなっていたのが、信じられない損失と、客船事業からの撤退検討に繋がっている。
一方、我国の造船会社は日本鋼管の造船部門と日立造船が統合したユニバーサル造船と、IHIと住友重機の艦船部門が統合したIHIマリンユナイテッドが更に統合したジャパンマリンユナイテッドになった他、白紙に戻ったものの今年の年初に川崎重工と三井造船の統合のニュースが流れるなど、生残りをかけた再編への取り組みは益々強くなっていくものと思われる。
技を持った人材が枯渇する前に有効な手を打てるのか、持ち時間はそれ程残ってはいない。