top of page

16/10/5

素顔10代な平凡OLが銀座ホステスとして売れっ子になるまで(8)

Image by Olia Gozha

マヤ「ちょっと、伊藤さん、ヨウコちゃんはどうなってるんですか??」

私はたまりかねて、閉店後の店で皆が帰ったしんとした店内で伊藤につっかかった。

伊藤「どうって、なんのこと??」

伊藤はまるで、詐欺師がとぼけるときのように高い鷲鼻をつんと上に向けて聞いてくる。

マヤ「ヨウコちゃんですよ!なんでああやって、私のお客さんの連絡先を聞いたりして。彼女なにもやり方を知らないんですよ。」

たいして仕事も

できないくせに・・・という言葉は、かろうじて心の中に飲み込んだ。

伊藤「まあまあ、そう怒らずに。今度僕からも言っておくから」

本当だろうか。どっちみち、私はその伊藤の言葉を信じるしかなかったのだ。ヨウコの教育は、伊藤がやっていたのだから。


そしてその1週間後、決定的な事件は起こる。

その日は七夕の浴衣パーティ。在籍の女の子は皆出勤だったし、私も自分の担当の客に連絡をして店に来てもらう話をしていた。

紺地に赤や黄色の菊の花が舞った浴衣を着ると、少し非日常的でうれしくなり私はうきうきとしていた。ヨウコは、ピンク地に色とりどりの花が咲いた浴衣を着ていた。今日は後ろの毛もアップでまとめてあり、いつものアラレちゃん度も幾分和らいで女性らしくみえる。

ただ、私は前回のことがあってからというものどこかヨウコと話す気持ちになれず、開店前に過ごすソファ席も離れて座っていることが多かった。

今日は、前回ヨウコとのことでもめた男性客も呼んでいる。何事もないことを、ただ祈った。


週末の銀花は、それなりに込み合っていた。

お客は気前よくボトルを開け、おつまみやちょっとした料理も次々とテーブルに並んだ。

私は例の男性客についていたのだが、しばらくして長身の伊藤が正面に立ち、膝をつくと私の耳元にささやいてきた。

伊藤「マヤちゃん、ちょっと・・・」

私はいぶかし気に、客に断ると席を立った。目の端にするりと抜ける人影が見えた。

私の座っていた席に、我が物顔で座ったのは・・なんとあのヨウコだった。


マヤ「ちょっと伊藤さん、あんまりじゃないですか?!」

伊藤「君が嫌な気持ちになるのはわかる。でもね、ヨウコちゃんが、自分もあの男性客を呼んだっていうんだよ。だから少しでもつけてくださいって。」

マヤ「信じられない!勝手に連絡先を交換しておいて、勝手に自分が呼んだと勘違いして、私の営業努力さえ知らずにそういうことする?!」

私はあまりに頭に

きていた。目の前の伊藤も、ヨウコの共犯者のように見えた。

伊藤「彼女は仕事歴も浅いし、接客が上手なわけでもない。まずは、自信をつけさせるところからなんだよ・・・」


だからって、私の客は練習台なのですか?!という言葉を、私は飲み込んだ。

それが店の方針ならば、自分だって雇われている側なのだ。文句があるならば自分の店を、やればいい。


私は決意した。その時期が、もう来ているということを確信したのだった。


PODCAST

​あなたも物語を
話してみませんか?

Image by Jukka Aalho

急に旦那が死ぬことになった!その時の私の心情と行動のまとめ1(発生事実・前編)

暗い話ですいません。最初に謝っておきます。暗い話です。嫌な話です。ですが死は誰にでも訪れ、それはどのタイミングでやってくるのかわかりません。...

忘れられない授業の話(1)

概要小4の時に起こった授業の一場面の話です。自分が正しいと思ったとき、その自信を保つことの難しさと、重要さ、そして「正しい」事以外に人間はど...

~リストラの舞台裏~ 「私はこれで、部下を辞めさせました」 1

2008年秋。当時わたしは、部門のマネージャーという重責を担っていた。部門に在籍しているのは、正社員・契約社員を含めて約200名。全社員で1...

強烈なオヤジが高校も塾も通わせずに3人の息子を京都大学に放り込んだ話

学校よりもクリエイティブな1日にできるなら無理に行かなくても良い。その後、本当に学校に行かなくなり大検制度を使って京大に放り込まれた3兄弟は...

テック系ギークはデザイン女子と結婚すべき論

「40代の既婚率は20%以下です。これは問題だ。」というのが新卒で就職した大手SI屋さんの人事部長の言葉です。初めての事業報告会で、4000...

受験に失敗した引きこもりが、ケンブリッジ大学合格に至った話 パート1

僕は、ケンブリッジ大学トリニティ・カレッジ、政治社会科学部(Social and Political Sciences) 出身です。18歳で...

bottom of page