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16/10/4

心友 【その八・理由なき喧嘩】

Image by Olia Gozha

忍び寄る怪しげな影。その時からなんとなく予兆はあったのかもしれないな…そのことを考えると同時に全く違う話を思い出していた。

「そういえばあの時の喧嘩は一体何だったのだろう?」

トクシマと自分が出会って、大洋ファンということだけで意気投合して、毎日のように遊ぶ日々が続いていた小学生時代。

しかし、ある時二人は喧嘩をした。

この話は当人同士が覚えているというよりも、親同士のほうがよく理解していた話だ。

喧嘩の理由は正直定かではない。ただ、可能性があるとすれば「班競争」だと推測できる。

班競争とは一体何なのか?今の小学校でこういうものが行われていたら…教育委員会、いや馬鹿げた世論に叩かれてしまうかもしれないシステムだ。

クラスを幾つかの班に分ける。その班ごとに掃除や給食当番など週替りで役割を分担しクラス運営をしていく。ここまではごく普通の話だ。

ただ、当時の担任はここに「競争」という概念を加えた。どういったことで競争していたかは今となっては思い出せないが、とにかくポイントを競う形式になっていたのだ。

掲示板に貼られた得点表にポイントを獲得する度シールを貼っていく。おそらくゴールが決まっており、どこかの班がゴールをした時点で班替えを行う。そんな流れだった。

競争だけならまだ可愛いものだ。いずれ成人して世の中に出れば営業成績を掲げる昭和臭い会社に入る者もいるだろう。そういった意味では少し早い社会勉強になる…と言えなくもない。

ただ、一位のチームには一人何十円。二位は何十円。三位は…といったような「賞金制度」まであったとなれば話は別だ。

無論小学生の自分に、それが教育現場の上層部に知れ渡ったらどういう問題に発展するかなどということは理解できない。むしろ理解しろというのが無理な話だ。

そんないやらしい班競争。もちろんペナルティもあった。競争が終了し次の班を編成するのはゼロスタートではない。

班長の権限で競争に貢献できなかった、というか足を引っ張ったと思われる人物を「トレードに出す」という仕組みだった。花いちもんめ的なものをイメージしてもらえばよいだろうか。

この時、自分はたまたま班長をしていた。そして班競争終了とともにトレード要員として同じ班に属していたトクシマを指名した。

その理由が「トクシマの忘れ物が多くて班競争の足を引っ張った」ということらしい。あくまで「親から聞かされているた」喧嘩の原因なのだが。


おそらくだが、個人的にはそんな忘れ物という理由はどうでもよかったはずだ。多分班の他のメンバーからの声を受け入れざるを得なくなった苦渋の決断だったに違いない。泣いて馬謖を斬るなどという規律めいた話ではないが、結果的にはその話だけを故意にピックアップして、すべての責任をトクシマに押しつけてしまったということになる。

根回しなどという技術はまだ持ち合わせていなかった小学生時代。喧嘩になるのは至極当然の話だ。帰宅後だったか翌朝だったかはわからないが、二人は親に説得され電話で泣きながら和解への道を辿ったそうだ。

ただ、当事者である二人がその時のことをよく覚えていないという意味では「理由なき喧嘩」と評するのが相応しい。

それ以来トクシマと自分は一度も喧嘩をしたことがない。喧嘩がどれだけ辛いものか相当心に響いたのだろう。

そういえばクロイワと喧嘩をしたこともなかった。事なかれ主義が信条なのだから当たり前といえば当たり前なのだが、クロイワが本気で友人を怒らせるような馬鹿な真似はしなかったという方が正しいのかもしれない。

親友だと思っていたナオキのどうしようもない所業を本気で怒っていたぐらいだ。どんなことをやらかしたら友達が本気で怒らせてしまうのか。やがては喧嘩になってしまうのか。それぐらいの良識をきちんと持ち合わせた男。それがクロイワなのだ…

そして、再びクロイワのことを思い出す。

閑話休題。

忍び寄る怪しげな影の話に戻るとしよう。

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Image by Jukka Aalho

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