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16/9/30

素顔10代な平凡OLが銀座ホステスとして売れっ子になるまで(7)

Image by Olia Gozha

後輩のアラレちゃん。

夜の世界の人の移動は早い。

私は銀花に入店してから数週間で、すでに先輩になっていた。


私のあとに入ってきた女の子は、ヨウコちゃん。まるでアニメのアラレちゃんのようなぱっつんとした前髪に、おどおどとした大きな目が印象的だった。彼女は普段雰囲気は弱弱しいのだけれど、スイッチが入ると途端に気の強くなるような二面性をもったタイプだった。


彼女のことを遠巻きに見ている分には楽しかった。彼女は客席についていても、お客が逆に気を遣うタイプだったからだ。夜の世界で働いたことがなかったヨウコちゃんは、気の回し方がわからない部分もあってしばしばお客が自分自身で飲み物を注いだり、話が続かずカラオケに逃げてゆく場面もあった。

ひとたびマイクを握れば、それまでは弱弱しく遠慮するようなそぶりから一転し客そっちのけでダミ声で熱唱してしまうような子だった。

そんな女の子だったが、伊藤はいやにヨウコちゃんをかわいがっていた。人手不足の店だからなのにしても、彼のかわいがりぶりは異常なほどだった。そうして、事件は起こるべくして起こった。


ある金曜日、私のお客が来店した。金曜日ということもあって他の席はそこそこ埋まっており、接客に慣れてきた私も他の席に着かなくてはならない。そこで、新人のヨウコちゃんが私の客の隣に着くことになったのだ。彼はたまたまひとりで来ていたし、他の席はそこそこ大人数だったのでヨウコちゃんには難しいと思ったのだろうか、伊藤の配慮だった。


しばらくして接客の途切れ目に自分の席に帰ってきた私が目にしたのは、ヨウコちゃんが彼にしなだれかかるように肩を寄せ、太ももに手をまわしている様子だった。2人はそうしながら、携帯のアドレスを交換していた。ざわざわとした店内の音が背後に消えてゆくような感じがして、怒りに似た感情が浮かんだ。

マヤ「ただいま・・」

お客の方は、私を認めてすこしばつの悪そうな表情をしたがヨウコちゃんは何も言わなかった。あら、帰ってきたの?とでもいうような女王様的強気な雰囲気を醸し出しているように私には映った。

まあ、お客とアドレスを交換することもあるだろう。でも相手がひとの客だとわかっていて、それで寄り添いながらやるようなことなのかと私は思った。その時まで、ママの客様をもてなしはできても自分の店の成績にはならないのだと感じていた私は、街でナンパしてきた男性や、以前の職場の取引先の男性をお客さんとして店に呼んでいたのだ。そんな私の努力を、彼女は何も苦労もせずに目の前で奪おうとしているような気がしたのだった。


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