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16/9/21

世界47カ国女子バックパッカーができるまで(11)

Image by Olia Gozha

後にひけない自分をつくる


私は夜ご飯を食べるのさえも忘れて、ドキドキと高鳴る胸に手をあてながら寮の廊下に設置してある電話の前に立っていた。


週に一回程度電話をする広島に住んでいる両親とは、携帯で話すと通話料金が高くなるので一般電話同士で話すことにしている。時計を見ると夜の19時を過ぎたところだった。寮生は、皆食堂に行って食事をしているのか灰色の廊下はがらんとして人気がない。今なら、両親も夕食を終えてきっとテレビを見ている頃だろうと思いまずは携帯で連絡したのだ。


予想通り、母が電話口に出たので寮に直接電話をしてくれるように頼んだ。すぐに、寮の電話受付当番の男の子が私の名前を呼び出す寮内放送があり、私は受話器をとりげた。


ケイシー「もしもし?」

ケイシー母「あ、もしもし?元気にやってるの?大学はどう?」

ケイシー「うん、まあまあ。」

ひとしきり、無難な会話が続いた。

母の声を聞くと、自分に今日起こったことなどすべて夢の中のことだったかのように思えた。私は廊下に立ったまま目の前の白い壁をみつめ、クリーム色の電話機の受話器を耳に押し当てながらいつそれを切り出そうかと迷った。

ケイシー「ところで・・・」

ケイシー母「なに?」

ケイシー「私ね、一生のお願いがあるの」


そんなことを言われたことはなかったので、母は驚いていた。自分でも、受話器を持つ手の平に汗をかいているのを感じていた。

ケイシー「留学したいの」

数十秒の模索のあと、やっとかすれた声でそう一言だけ言えた。それは私の19年の人生の中で、初めての自分の人生への主張だったように思う。中学受験、高校受験、大学受験。勉強のレールのうえに生きてきた自分の人生。ちょうどぎゅうぎゅうになった毛布が押し入れから解放された時のように、その一言を言っただけで私の感情は溢れ始めはじめたのだ。もう、後にはひけなくなっていた。

ケイシー母「えっ、留学って」

ケイシー「そう、留学。子供たちに日本の文化とか、言葉を教えるの!」

ケイシー母「留学なんて・・費用も相当かかるんでしょう」

ケイシー「250万と、語学学校の150万だって」

ケイシー母「そんな、急にいわれたってちょっとわからない。そんなの無理よ」

ケイシー「でも、私、ここで変わらなきゃもうダメな気がするの。」

私はとうとうと自分の気持ちを吐き出し続けた。

ケイシー「自分にもなにかひとつ、誇れるものがほしいの」

自分の気持ちに向き合い正直に話すたびに、私はここが共同生活の廊下であることを忘れていた。

長年蓄積されていた、気がつきさえしなかった感情が溢れて涙が止まらなくなった。

そこで私は初めて、自分は自分の人生をひとのせいにしていた、と感じた。

小学生のときに自分の好きだった小説を書くことも、中学生のときに当時打ち込んでいたバスケをやめてしまったのも、大学生になって親元から離れて遊びあるいているのも、ぜんぶぜんぶぜんぶ


ひとのせいにして、続けられなかった、辞めてしまったことのいいわけにしていた。


本当は続けたかったのに、自分に自信がなくて続けられなかったことをひとのせいにしてたんだ。


ケイシー母「お母さんひとりじゃ、こんな大きな問題決められないわ。一晩寝て、明日お父さんに相談しなさい。」

母はそう言って、電話を切った。


小学生で好きだった読書や物書き、中学生で大好きだったバスケを受験のためになかなかできなくなり、不完全燃焼になって終わっってしまった。大学生になってしまったら、あれだけ時間をかけて勉強をして手に入れたものが遊びや自由な時間に変わった。この生活は、自分の人生大半をかけてまで、好きなものを捨ててまで自分が手に入れたかったものなのだろうかとふと疑問に思ったのに、周りに流されてまた自分を見失っていた。

それにやっと気づいた私は、もう限界だった。

喉元まで感情が高ぶっていた。

自由になりたい!自由に生きたい!!と。



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