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16/9/14

素顔10代な平凡OLが銀座ホステスとして売れっ子になるまで(3)

Image by Olia Gozha

銀座のスタイル

銀花に採用されてから、1週間が過ぎた。

ボーイは店の中で指示しながら席を座り歩く銀髪長身の伊藤と、カウンターの中で簡単な料理やカクテルを作る斉藤の2名で、
女の子は一番古株のユイ、ハナ、アイ、サヤカ。そしてまだ会ったことのないママ。

私の源氏名は、マヤ。


働いてみてから気が付いたことだったが、この店は当初黒服を紹介してくれた、銀座のお姉さんが働くようなクラブではないということだった。どちらかというとクラブへ行った後に寄る、カラオケバー的な存在。店内の壁には大きな液晶画面がかかり、最新のカラオケ機器が備わっていた。

洗面所の中の方が照明が明るいぐらいで、洗面台にはシャネルの5番の香水が飾ってあった。シャネルの香水の匂いは、私に古き良き銀座の街を彷彿とさえさせてくれるにしても、そこがいまの時代に取り残された切り離された空間であるということには違いはなかった。


夜の8時に店は開店するのだが、お客はだいたい一回飲んでから10時くらいに店にやってくる。そして、朝方まで飲んでゆくというスタイルだった。

大阪でキャバクラやラウンジで働いた経験があったので、水割りを作ったり灰皿を変えたり、話をしたりという接客自体は難しくはなかった。

でも、伊藤がよく言う『ママのお客さんだから』という言葉に最初は戸惑った。

マヤ「あの・・ママのお客さんって、どういう意味なんですか??」

伊藤「ああ、ママのお客はママで来ているって意味だよ。だからマヤちゃん、不用意に営業したりしないように。」


伊藤が言う、『営業しないように』という意味は、『場は盛り上げても連絡先を聞いたり、連絡をしないように』という意味合いだった。それを聞いて銀座って、難しいと思った。

大阪のキャバクラやラウンジでは、お客に対しては自由営業制だった。お客が気に入った女の子が、勝利者なのだ。だから勝者であってもいつ新人にとってかわられるかもわからないし、その地位が続くとも限らない。そんな下剋上の世界に馴染んでいた私にとってはかなり驚きだった。

まるで時代遅れの村のように、自分のテリトリーが決まっているのだ。簡単にはよそ者に心を許さない、そんな声が聞こえてきそうだった。でも、永久担当制の裏をかえせばその分自分のお客様にはどこまでも尽くし関係を築き続けるということなのかもしれないとも思った。


私は正直なところ、お姉さんが写真で見せてくれたような店内いっぱいに咲き誇る生樹の枝々とそこに咲く可憐な花の下でお酒を手に笑っている写真のような空間で自分が働けなかったことに、がっくりとしていたのだけれど、こんなひっそりと営業をしている店にも古くからのしきたりがまだ染みわたっているのだと思うと、なんとなしに好感がわいていた。

お客を表で送り届けて、店に戻ってきた伊藤と目があった。

伊藤は数人の客の水割りをちょうど作り終えた私に向かって『ちょっとこっちに来て』と目配せした。

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