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16/9/12

素顔10代な平凡OLが銀座ホステスとして売れっ子になるまで(2)

Image by Olia Gozha

銀花

銀花と書かれた重い扉を開けると、長方形の扉の向こうには真っ暗な空間が広がっていた。

薄暗いエレベーターから出て、まさかさらに暗い空間に入るとは思わなかったし、その暗闇に目が慣れるにも数秒かかった。


黒服はそんな空間に足を踏み入れると、中に向かって誰かに話しかけた。

私が彼の後からついて足を店に踏み入れると、そこからは湿った空気の匂いとともに、長年蓄積され壁にしみついた煙草の香りと、滞留した時の流れがふわりとやってきた。

目が慣れてくると、全体的に照明の暗い10畳くらいの店内の奥には小さなL字型のカウンターがあり、その前には数席の昭和に戻ったようなキルティング加工のスツールが並んでいる。そして手前には数席のボックス席と丸椅子があるのが見えた。カウンターの後ろには鏡があり、その前に何本ものネックがかかった、ウイスキーやら焼酎やらのボトル乱立しているのが見えた。全体の印象は、1980年代にタイムスリップしたというようなイメージだった。


真っ黒なL字型のカウンターのスツールに、背の高い銀色の長髪を後ろで束ねたスーツの男性が座っていた。

黒服「紹介するよ、ここのボーイをしてる伊藤さん」

ケイシー「は、はじめましてっ・・ケイシーです」

伊藤「はじめまして」

伊藤と名乗ったボーイは見たところ60代手前。見事に銀色になった髪の毛を後ろで束ね、痩せてひょろっと背が高い。鷲鼻に大きな目をしていて、若いころはずいぶんとモテたような雰囲気のある男性だった。


伊藤「君、早速だけど水商売の経験はあるの?」

ケイシー「あ、はい。大阪で学生時代にトータル1年くらいですが。」

伊藤「そうか。大阪と銀座はまったく勝手が違うけど、やれるかな?」

ケイシー「そうなんですね、一から勉強だと思って来ましたので、頑張りたいと思っています。」

伊藤はそれだけ聞いて、しばらく河童の黒服とごにょごにょと話しをしていた。そうして何か意味ありげにうなずくと、こちらを向いてこう言った。

伊藤「じゃあ、これを書いて」

手渡されたのは一枚の紙。履歴書だった。夜の店の採用は、その場で決まる。私は自分が採用されることになったのだと気が付いた。




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