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16/9/9

素顔10代な平凡OLが銀座ホステスとして売れっ子になるまで

Image by Olia Gozha

ある晴れた秋の夜空の下で


ある晴れた秋の空の下で、私は銀座八丁目の交差点である人を待っていた。

10月の銀座の夜。頬に撫でる風が心地よく通りすぎ去ってゆく。立ち止まった私とは裏腹に、目の前を通り過ぎる人々は何かに追われているかのようにせわしなく歩み去ってゆく。


そのある人とは、面識がない。ただわかっているのは、銀座の夜の店の紹介業をしている黒服だということだった。

半年前まで新卒で入社して働いていた新宿の大手不動産会社でためた貯金も、そろそろ心もとなくなってきたので、私はアルバイトをすることにした。当時の私は東京で出会ったネットワークビジネスにはまっていて、それに専念したいという理由で会社を辞めたようなものだったが、やはり生活費を手に入れるまでにはすぐに順調にはいかなかったのだ。そんな時ビジネスセミナーで出会った銀座のお姉さんが、銀座の黒服を紹介してくれることになった。

銀座のお姉さん「銀座はいまだ内向きの世界だからね~紹介がないと、ちゃんとしたお店に入るのは難しいかもね!」

私には水商売の経験があった。

それは大学生の時、留学から戻ってきて働き始めた大阪のキャバクラや北新地でのクラブの経験で、足してやっと1年といったところだろうか。キャバクラでは、お客にストーカーみたいに家を突き止められたりさんざん嫌な思いをした。だから、会社の付き合いで飲みに来るクラブならまだましだろうと店を変えたのがよかった。お客はみなスーツを着たおとなしい紳士だったし(考える中身がどうであれ)、大学の教授や大きな会社の役員などの話を聞いていると自分の今まで知らなかった世界も経験させてもらえるような気になった。

そうして少しづつ、留学の借金を返済した経験があったので、東京でも水商売に抵抗はなかった。

さらにはネットワークビジネスを続けるため、昼間は活動的に動ける時間がほしかったのだ。


黒服「ケイシーさん??」


しばらくぼうっと交差点に立っていると後ろからそう話しかけられた。

よくわかったなと思ったけれど、ここ東京で人待ちをしているひとはそうとう目立つのだ。それだけ、皆どこか急ぎ足で行きかうのが、東京の街だから。

ケイシー「あっ、ハイ!はじめまして、よろしくお願いします。」

黒服「話は聞いてるよ、じゃあ早速だけど行こう」

黒服は頭頂部の禿げあがった、50前後に見える小男だった。二重瞼に分厚い唇。どこか、河童のキャラクターを思い浮かべるような顔をしていた。

来ているスーツは前が全開になっているが、中に着ているシャツは白いワイシャツでそれが薄暗い夜のネオンに眩しく反射して見えた。

どうやら紹介してくれた銀座のお姉さんが、既にいろいろと話してくれていたらしい。黒服は迷いもせずに交差点から一本内側に向かう道に向かって歩き出したので、私もあわてて彼を見失わないように続いた。

その一本道には綺麗に剪定された並木が立ち、街灯のようなものが立ち、大きくはない道には黒塗りのタクシーが何台も渋滞しているかのように並んでいた。道の両脇には一階がきらきらとしたケーキ屋だったり、薄暗い照明の葉巻屋だったり、日本ヒノキを使った引き戸を使った日本食レストランだったりと小さく洒落た店がどこまでも並んでいる。

たまに、綺麗に髪の毛を結い上げた着物の女性が通り過ぎたり、着ている洋服はOLスタイルでも髪の毛は大きく盛っている、派手な化粧をした美人も脇を通り過ぎた。


大阪の北新地も、なんとなく似てはいるけれどもここまでの落ち着いたセンスではなかったなあとしみじみ感じながら彼の後についてゆくと、さらに一本奥の暗い小道に入り、真っ暗なビルの1階の奥にある

エレベーターの前に着いた。

黒服「ここだよ」


さっきから思っていたけれど、最初から彼はため口だった。

いくら年下の女性であっても、初対面のひとに最初からなれなれしいため口で話すというのはどうなのだろうか。私は心の底に少し、もやもやとしたものを感じた。


果たして小さなエレベーターがやってきて、彼は私をいざなって乗り込むと6階のボタンを押した。

湿った小さなエレベーターだった。隅にはもうずいぶんと長いこと掃除がされていないんじゃないだろうかと思うほど埃がたまっていた。ボタンは何度も押されて、数字が剥げかかっていた。


6階に到着すると、小男は私を先に小さなエレベーターホールの前に出して自分が後から出た。目の前には黒い扉があり、そこには浮き上がった文字で’’銀花''と書かれていた。



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