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16/9/1

心友 【その五・勧誘】

Image by Olia Gozha

ナオキというのは三人にとって中学時代の共通の友人になる。ややもするとお調子者の部分はあったが、決して嫌味があるわけでもなく、基本的には好かれていた。ただ、高校へ進学してからはパッタリと音信不通に。例え中学時代に仲が良かったとはいえこの方が一般的に見受けられるパターンだ。

そんなナオキの存在などすっかり忘れていたある日のこと突然電話が入った。

「久しぶりー」

人懐っこい感じは変わっていない。むしろ昔より明るくなっているような気がした。

暫く昔話に花を咲かせていたのだが、どうも空々しいというか本当に話そうとしていることをひた隠しにしながら会話を進めている雰囲気が感じられた。ナオキが本題らしきことを口にする。

(そういうことか…)

熱いものが沸々とこみあげてくるのを我慢しながらも、電話口ではできる限り平静を装っていた。

そう。ナオキからの電話は得体のしれないセミナーへの勧誘電話だった。おそらくあの時代話題を席巻していた「なんちゃら教」の類に違いない。自分もそこまでバカではない。そういった事例が世間でよくあることぐらいは知っている。

(こんなのにハマっちまったのか…)

内心そんな事を考えながら、電話対応を淡々と続けた。無論賛同するわけはないのだが、だからといって反対に説教じみたことを言ったり怒りに任せてやり込めたりるわけでもない。自分で言うのもなんだが結構冷たいのだ。

(なってしまったものは仕方ない。お前はお前で勝手にやれ、ナオキよ。俺はお前を助ける気はない…)

そうしてナオキとの「最後」の会話は終わった。電話の顛末を母親にかいつまんで話してみたが、予想通り母親も呆れ顔だった。


それから数日後だったろうか。クロイワが電話をしてきたらしい。電話に出た母親からナオキの話を聞かされたそうだ。この話は奴の逆鱗に触れたらしい。正義感はそれなりに強い男だ。あの時に奴がどう感じていたのか。手紙に綴られていた。

「自分が秋田からそちらに行く機会があれば、皆で集まってナオキを呼び出し説教しよう。そこで一発かました上で縁を切ろう」

結局この話が実現することはなかったのだが、奴にとっては相当ショックな話だったようだ。秋田という土地に行ったことで、昔の仲間を大切にしたい、できる限り一生の友達でいたい、そんな気持ちが余計に強くなっていたのだろう。文末にはこんな照れくさい言葉を書き殴っていた。

 人生にはいろいろな壁がある

 それを越えてゆけるのは

 自分と一緒に真の愛のある恋人と

 真の友達だけである

何となく言葉の使い方がおかしいのはご愛嬌ということにしておこう。ちなみに奴自身、カッコつけてしまったなぁと後書きで反省していたのだが。

手紙を読み返してみると、またまた忘れていたことが書かれていた。この手紙を書く2ヶ月ほど前に、トクシマと自分は秋田に赴いていたのだという。確かに遊びに行った記憶はある。だがあまりに時間軸が前後していていつのことなのかは正直手紙を読み返すまで覚えていなかった。

自分は大学生になったと書かれている。

トクシマは父親になりそこねたと書いてある。

なんだこのなりそこねたという話は?

(今度トクシマを問いつめねば…それと「2ヶ月前」の集結の件も振り返ってみなければ…)

そんな思いをしたためつつ手紙を閉じた。


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