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16/8/24

心友 【その四・みちのくへ】

Image by Olia Gozha

受験の道を選んだクロイワと自分は予備校通いを始めた。

もっとも仲良く一緒に通うというわけではない。野球漬けの三年間を送ってきた者と、授業をサボりまくっていたといえ、一応進学校と名のついたところにいた者では自ずと進路は変わってくる。ただ、二人とも将来何になるという明確なものはなかった。不思議な事にそこだけは共通している。

一方で、トクシマは就職を決めていた。詳しい業務の内容まで確認したことはなかったが都心にあるコーヒー会社だということだけは聞かされていた。

こうして三者三様の道を歩み始めたわけだが、この道を歩み続けることはそう長く続かなかった。


偶然と言ってよいのだろうか。クロイワとトクシマは父親の田舎が東北なのだ。クロイワは秋田。トクシマは岩手。そろってみちのくっ子だ。そこに数年の時間差はあったものの、二人はやがて「家庭の事情」という理由でそれぞれの故郷へ行くこととなる。

クロイワは秋田で受験勉強を続けていたものの、最終的には就職の道を選んだ。トクシマは岩手で新たな仕事に就くこととなった。まだ二十歳前後のところで二人は人生の大きな転機を迎えてしまったのだ。

岩手と秋田ならそこそこ近いのではないかとも思えるが、首都圏の交通事情とはわけが違う。だから隣県といってもそうそう頻繁に会えるわけでもない。ましてや自分にとっては東北など未知の土地に近い。

まだ携帯電話も普及していない時代。必然的に三人は疎遠にならざるを得ない。だが、気を利かせたクロイワが慣れないであろう手紙を時折寄越すようになった。

「野郎同士で文通かよ!」

そうツッコミたくもなったが、手紙に記された内容があまりにもバカバカしい下ネタ満載だったので、敢えて許すことにした。こういう話は嫌いではない。むしろ大好きだ。

気取った近況報告をするよりも、馴染み深い昔話でいつものように茶化している方が気楽。だからついつい脱線話ばかり無駄に書き綴ってしまう。そんな思いの詰まった手紙だったのだろう。

変なところだけ性格が几帳面な自分は、今もこれらの手紙を保管している。今読み返すと涙の一つも出てきそうであるが…やはりくだらなすぎる内容に押されてしまい笑いのほうがこみ上げてくる。

その手紙の中には、クロイワがまだ受験勉強を頑張っていた時の手紙も紛れていた。秋田に行ってまだ間もない頃のものだろう。よく読み返してみると、完全に失念していた話がそこには書かれていた。三人と共通の友人だった「ナオキ」のことだ。



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