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16/8/18

バランスの薔薇①「突撃」

Image by Olia Gozha

「おい、お前ら騒ぐな、騒ぐと撃つぞ!」

目と口以外を覆い隠した黒いマスクをかぶり、全身黒色のユニクロのスウェット姿。

その手には、拳銃。

古びたアパートの3階に玄関の前で、騒ぐ怪しげな男。

チャイムの音に誘われ玄関先に出た若い女を銃を使い、脅す。

若いカップルが住むアパートに強盗に入ったのだ。


あれは2010年の秋、まだ僕らがまだ将来に対して不安や期待を抱いていた23歳の頃だった。

その日は満月の夜空で外も明るく、そよ風が気持ち良いとても清々しい夜だった。

「この女は、さらっていくからな。」

まるでドラマのワンシーンのようなセリフを残したマスクを被った男は、女をさらって部屋を後にした。強盗誘拐だ。

部屋に残った彼氏の男は、扉の向こう側であっても、恐怖に怯えてる事が伝わってくる。

部屋からの物音がなく、夜の街の異常な静けさに違和感を感じた。

その無音な静けさの中「カチャ」という音が響いた。

アパートの扉の部屋の鍵を閉める音だ。部屋の中の彼氏は、怯えて部屋の鍵を閉めたのだ。人は恐怖を感じると、愛するモノよりも、自分の命を1番最初に守ると言うのは生まれ持った狩人の存在意識かもしれない。

数分後、アパートの部屋の扉は再び10cmほどの小さく開いた。チェーンロックがかかった状態での限界の開き具合だ。その小さな扉の隙間から

「おい、誰だ!だれなんだよ!!」

彼氏の男は外に向かって叫んだ。静けさが漂う街に彼氏の男の声が響いた。

「一体、誰なんだよ!」

その声は声量はあるが震えて、今にも泣きそうな表情をしながら叫んでいる想像出来るような声だ。 

しばらくすると、その声の震えは消え、とても大きな叫び声が街中に響いた。

「だーーー、れーーー、かぁぁぁあぁぁー!!!!」

近くで隠れていた僕らは急いで、その彼氏の男のところに駆け寄った。

その姿は、哀れな格好という言葉がピッタリでパンツ1枚で、3階の通路から外に向かっで全力で叫んでいる姿だった。

「だーーー、れーーー、かぁーーー!!!」

人が本当に困った時は、服装や場所や時間なんてどうだっていい。

恥という言葉は恐怖心でかき消され、ただ誰かに助けを求めてしまう。

僕らは、大爆笑しながら彼の元に駆け寄った。

そう、これは僕らの遊びだった。

「強盗ごっこ」

仲良い友人仲間内のルールで誕生日の1ヶ月前後であれば、ドッキリを仕掛けても良いというルールだ。

今回の強盗ごっこの拳銃は、オモチャの水鉄砲だ。見た目のクオリティも高く一瞬見ただけでは本物と分からないくらいの作り込みである。

もちろん、今回のターゲットになった友人の彼女は、この作戦のことを全て知っており、わざと強盗に拐われたのだ。でなければ、そんなあっけなく拐われる訳がない。

恐怖不安なんて言うものは、自らが生み出すモノであり、それを怒りに変えるか、悲しみに変えるか、どのようなカタチに変えるかによって人生なんて大きく変わってしまう。

今回、強盗役をしたのが友人の輝樹(てるき)だ。

声が大きくて、背も高い。笑い声も大きくて歌声もうまい。ムードメーカー的なポジションもあり、今回の強盗役も自らが立候補して決まった

輝樹と僕、マコト(※通称マコちゃん)とは小学校からの同級生。家も近所で特に意味もなく週に何回も会う仲だ。


輝樹と、僕と、他に友人3人合計5人が昔から仲の良い地元の友達メンバーだ。

みんなが住んでいるアパートも同じ町内にあるくらい近い。いつでも会えるほど仲良しなメンバー。

そのメンバーの名前が「Gメン」という。GはギリギリのG。メンはメンズ。ギリギリな男達という意味。常にギリギリでハラハラする毎日を送りたかった僕らのチーム名だ。

ミュージシャンを目指して諦めたやつ、俳優を目指して頑張ってるやつ、仕事ばっかコロコロ変えてるやつなどが集まった仲間だ。

23歳の僕達は子供でもなく、大人でもなく騒ぐわけでもなく、落ち着くわけでもない中途半端な時間を、ただ楽しく時間を消化しているような生き方をしていた。

現実がうっすらと見えてた年頃でもある。


続く・・・。

※これは実話を基にしたフィクションのストーリーになります。



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