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16/7/26

母がアルコール依存症だと気づいてから10日間地獄を見た話。初日。

Image by Olia Gozha

突然現れた母


私が実家から新幹線で2時間ほどかかる地域にある学校に所属していた頃。

学校の近くのワンルームのアパートに一人暮らしをしていた。

そのアパートの自室で勉強していた。


もうすぐ秋になろうかという時期で、窓を開けると涼しい風が入ってきていた。

家は二階。

ベランダから道路が見える。

その道に見慣れた顔の人が家の方へ歩いてきているのが見えた。

母だ。

いつも作業中によく着ていたワンピース兼エプロン的な服を着て、

結婚式の引き出物を入れるようなサイズの紙袋を持っていた。

どう見ても突然家出をしてきたような身なりだった。


???


見まちがいか?と私は固まっていた。

するとアパートの呼び鈴が鳴った。

見まちがいなんかではない、やっぱり、母だった。


わたし「ちょっとー来るなら、連絡くらいしてよ。」

「いいから、いいから。」



当時、奨学金をもらいながらアルバイトをして暮らしていた。

入学する時うすうす実家が苦しいのは感じていた。

両親ははっきり言わないので詳しい事情は知らずにいた。

心配かけたくなかったのだと思う。


それでも家賃が月4万円だったのだが、毎月送金してくれていた。

その送金も最近は無くなっていたので苦しいのだろうとはなんとなく感じていた。

私は両親に頻繁に連絡をする習慣がなかったし、お金も無かったので帰省してなかった。

だから母とは随分久しぶりな再会なのである。


驚いたのは母のその姿だった


頬はこけ、目はぎょろついていた。

髪にツヤがなく、肌もカサカサだった。


この人こんなに老けてたっけ?

しかもだいぶ痩せてないか?

そして何だこのバカでかい紙袋は。

家出人感丸出しやん。


何が何だか意味がわからないので私は混乱していた。

とりあえず理由を知りたかったが尋ねても言わないのでしつこくは聞かなかった。

しばらく会ってなかったこともあり、心配して様子みに来てくれたのかな?

とこの状況に混乱しながらも少し嬉しい気持ちもあった。


勉強の途中だったので、好きにしなよと言って私は勉強を続けることにした。


部屋にはシングルのパイプベットを置いていた。

母はそのベットに腰掛けていた。


しばらくすると立ち上がりベランダに出て遠くを見つめる。

気がすむとパイプベットに戻り腰掛ける。

またしばらくするとベランダに出て外を眺める。

を繰り返していた。


パイプベッドは私がデスクに向かうと背後にあり、

母がベランダに出るには私の背後を通って行かねばならない。

勉強してるのに何度も背後を通られ気が散る。


意味不明な行動に、疎ましくなり私はイラついていた。

急に現れてはベランダ行ったり来たり何してんの…。

と、その行動自体に違和感を覚えるどころか

早く帰ってくんないかな…

とすら思った。


今思えばそれだけで奇怪な行動だったはずなのに、

うっとうしい、何日おるつもりやろうか、イライラするなあ。

と自分のことばかり考えていた私には母の異変に気付くはずがなかった。



血圧の薬がないんだよね…


わたし「紙袋何これ見せて。」

「これは着替え。お父さんにはここに居るの言わんで。」

わたし「(しばらく無言)わかった。…ご飯食べる?」

「あれー、血圧の薬がないー。忘れてきたー。」




まともな会話にならん。


高血圧だった母は血圧の薬が切れると体調が悪くなる。

だから血圧の薬はずっと服用していたし、手放せなかった。

血圧の薬の飲み忘れて体調不良となったのを何度も見ていたので、心配になった。

というよりも、体調悪くなられたら困る、めんどくさい。

が私の本音だった。



わたし「薬ないと大変やん。」

「今朝も飲んでない…」

わたし「何日おるつもりかわからんけど、薬はいるみたいだから、とりあえず病院で数日分出してもらう?」

「うん…」

わたし「冷蔵庫に何もないし、そのついでにスーパーにも行こうよ。」

「わかった…」



近くの個人病院に行って、数日分処方してもらうことになった。


証明書類を持ち歩く習慣のあった母は保険証は持参していた。



内科の待合室での奇行


内科で事情を説明してなんとか診察してもらった。


その待合室でもずっと落ち着きがなく、そわそわしてじっと座ることができない。

気分が悪そうだった。

汗が出て、顔色も悪い。

何よりもちょっと目を離すとどこかに行こうとする。

どこ行こうとしてんだ。


わたし「どうしたの?気分悪い?」

「うん…        どうもないよ。」

わたし「?」

「…」



座ったと思えば今度は立てなくなったり、なんだか辛そうに見えた。


血圧の薬飲めば治るのかな…。

よくわからないけど、早くこの内科を出たそうだった。


実際会計を待ってるすきに母はもう出て行ってしまったので、

支払いを済ませて母を追いかけた。


気分悪そうだから、家に帰ろうよ。と提案したが

スーパーに行きたいというので一緒に行くことにした。



スーパーでの奇行


スーパーに入ると真っ先にお酒コーナーに行く母がいた。


そしていつもは飲まないウイスキーを買ってきたので私はびっくりした。


母はだいたい日本酒とビールが主で、ウイスキーを飲む姿は見たことがなかったからだ。


それから食材を買おうとしても、もう帰ると言う。

わたし「えっ?食べ物家に何もないよ。」

「…」

わたし「おかず…いらないの?」

「あんたが食べたいのだけ買いなさい。」

わたし「食欲無い?」

「わたしのことはいいから。あんたのだけ買いなさい。」




早く帰って血圧の薬を飲ませようと思った。

きっと体調が悪いんだろうと思っていた。


自分が食べるためのお惣菜を選んでいると、母がまたいなくなった。

母は喫煙者だったので、タバコを吸いに行ったのかもしれないと思った。

会計を済ませ、母を探すがいない。


散々スーパーを探しまわったあげく、またお酒コーナーにいた

ビールを買うと言う。

「ビール。あんたも飲むやろ?」

わたし「要らんよ。」

「ビールくらいいいやん。」

わたし「要らんし。」




わたしは本当にお金がなかった。

ビールを買えば明日からの食事に困ることになるからだ。


急に家に来たかと思えば薬が無いだのビールを買えだの何なんだ、

とイライラした。


体調悪いんやないんかいな?

早く家に帰ろうね。

とさっきまで心配していたのが無駄やったなと思ってアホらしくなった。


詳しいことは何も言わないし、変な動きするから周囲の目が恥ずかしくて、

そういうのがうっとうしくてずっとイラついていた。


冷静に物事が見れなくなっていた。


今思えば母は十分おかしかった。

なのに私はとにかく早く実家に帰らせようとばかりを考えていた。


そしてまた居なくなった


スーパーから帰るとウイスキーをちびちび飲んではまたベランダに出ていた。

蚊が入るからベランダに出るのはやめてもらった。

不服そうだった。


ご飯を食べてから私は勉強した。

母は私の背後でウイスキーを飲んでいた。

何も食べない。
ただ飲む。


血圧の薬を飲んだからか、落ち着いているように見えた。

しかし本当は酒を飲んだから落ち着いていただけだった。


今夜はパイプベットに二人で寝るしかないなあ…狭いな。

床で寝るか…。

と考えたりしていたら、母がベットでぐうぐう寝ていた。

数時間すると突然起きた。

気づけば日付が変わろうとしていた。

「あんたまだ寝ないの?」

わたし「いいよ、寝てて。」

「いいよ、寝なよ。」

わたし「具合悪いのよくなったの?」

「ええ…」


母はまたウイスキーを座って飲み出した。

座った母の背後にあるベットに横になりながら、

しばらくとりとめのない話をしていると私は眠くなっていつの間にか寝てしまっていた。


数時間後、4時頃だったと思う。


ふと目が覚めると、母が居なくなっていた。

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