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16/7/17

第5話:メキシコで学んだ語学習得法

Image by Olia Gozha

片言スペイン語から哲学の話をするようになるまで

マレーシアを出た後は、インドネシアでしばらく遊んだ。

それから、当初は全く予定していなかったが、ハートに従って、中南米へ行くことにした。

単純に、ラテン音楽が好きという理由で、行ってみたかったのだ。

まずは、メキシコを目指した。



飛行機の中で、隣に座った人は、メキシコ人の年配の女性だった。

何かいろいろ話しかけてくれたが、全く何を言っているか分からなかった。



大学の第2言語で、スペイン語を毎週学んでいたのに、覚えている言葉といえば、グラシアス「ありがとう」と、アディオス(さようなら)くらいという、情けないありさま。




メキシコシティーには、夜中着いた。

例によって、宿は予約していない。

ただ、旅人に聞いて、どの宿にするかの目星はつけていた。



しかし、夜中に動くと危ないと判断し、空港で朝まで過ごすことにした。



あてもなく、ただ空港の床に座っていたら、インド人の男性でビジネスマンらしき人に話しかけられた。




「大丈夫?同じアジア人として、助けられることがあったら」




親切心はとてもありがたかったが、「大丈夫です」と答えた。



「同じアジア人として」という言葉が、面白い感じがした。



「そっか〜、インドも、アジアなんだよね、考えてみれば。でもインド人は同じアジア人という感じがしないなあ」





朝になって、旅人の間で有名な、アミーゴという日本人向けの安宿へ向かった。


頑丈そうな鉄の扉に、小さな窓が付いていて、ベルを鳴らすと、その小窓から確認してドアが開かれる。


どの店にも、鉄格子がついていて、この都市の危険さを物語っていった。




メキシコには、東南アジアの安宿よりも、もっと面白い人たちが集まっていた。


中南米まで来ようとする人は、ちょっと変わった人が多いらしい。


普段は会わないような人たちとたくさん会うことができた。




世界中を自転車で旅する夫婦、フライトアテンダント、プロレスラー、AV男優・・・etc



みんな、とにかく、キャラクターが濃かった。



この宿で出会う人たちとは、年齢も、職業も、いろんな垣根を超えて、

昼は一緒に市場などに出かけたり、夜はご飯を一緒に作って食べた。




メキシコは、居心地がよかった。ご飯も美味しいし、会う人も楽しい。地元の人も親切だ。

気がついたら、3ヶ月も過ぎていた。




メキシコ人の家族とご飯を食べに行くと、マリアッチといって、大きな帽子をかぶった楽団を自分のテーブルに呼んで、歌を歌ってもらった。


一瞬にして、貸切コンサート状態。


リクエストすれば、すぐに歌ってくれる。


美味しいご飯を食べながら、楽団に囲まれて、陽気なメロディーを聴く贅沢。



情熱的なスペイン語の歌が私も大好きで、すぐに覚え、メキシコ人たちと一緒に大声で歌い、楽しんだ。




このマリアッチの文化は、とても素敵だ。



グアナファトという町に行った時、夜歩いていると、マリアッチの楽団が、花束を持った一人の男性と一緒に歩いていた。


ある家の前で立ち止まり、マリアッチは上を見上げて歌い始める。

男性はマリアッチに囲まれるようにして立ち、大きな花束を持って、2階の窓が開くのを待っている。




ロマンチックな女性へのプロポーズ。




こんなことをされた女性は、どんな気持ちだろう。



私は、そばで見ているだけでも、とてもロマンチックな気持ちになった。




サン・ミゲル・デ・アジェンデ。



小さな石畳の小道に、おとぎ話に出てきそうな、カラフルで可愛らしい家が連なる、この町が大好きになった。



小さな街なので、歩きやすく、過ごしやすく、ここに長く滞在したいと思った。



オシャレなカフェで、一人で座っていると、学生らしき男女がたくさん話しかけてきてくれた。


私はとても嬉しくて、一生懸命、片言のスペイン語を駆使してコミュニケーションを取ってみた。




メキシコの本屋で買った、スペイン語習得の本を勉強し始めて、少しだけ日常会話ができるようになっていた。


その本は、スペイン語のみの説明だったが、一から勉強していけば、全くの初心者でも、不思議と分かるようにレッスンが組み立てられているありがたい教科書だった。




カフェで知り合った新しい友達に自分が伝えたいこと、相手が伝えようとしていて分からないこと、全部ノートに書いて、宿に戻ってから、辞書で調べた。



「また明日会おうね!」と言って別れ、次の日にカフェに行くと、本当に来てくれていた。



そして、来る日も来る日も、カフェに行って、フレンドリーな彼らと会話をしながら、表現を増やしていった。



よく、語学を覚えたければ、恋人を作るのが一番だと言われるが、本当だと思う。



私も新しいメキシコの友達と、理解し合いたい!という強い気持ちがあり、どんどん上達していった。


彼らは、自分と同じ年代ながら、とても愛情深くて、面倒見が良く、一緒にいると、とても心地よかった。


だから、もっと仲良くなりたいという気持ちが、言語習得を後押ししてくれた。





それに、スペイン語のロマンチックな歌が大好きだったので、歌を歌いながらも覚えられた。


誰かに紹介してもらって、大好きになった、ルイス・ミゲル。


彼の『ボレロス』というCDを買って、毎日聴きながら、一つ一つの言葉の意味を辞書で調べて、歌った。



この学習法のおかげで、マリアッチの歌が始まっても、メキシコ人と一緒に、一体感を持って歌を歌うことができた。




どの国に行っても、その国で愛されている歌を歌うと、すぐに仲良くなれる。


相手がとても喜んでくれて、満面の笑みになり、ハートを開いてくれるのが、とても嬉しかった。





サン・ミゲル・デ・アジェンデの街を去る時、カフェで出会いスペイン語上達を助けてくれた新しい友達が、一人一人、手紙を書いてくれた。



男女問わず、とってもロマンチックなことが、たくさん書かれていた。



どうすれば、こんな表現がどんどん出てくるんだろう!!



メキシコ人は、ルイスミゲルの詩の世界のような、情熱的な表現にいつも浸っているからなのかもしれない。



この手紙は、20年経った今も、大切に大切な宝物だ。






メキシコを出て、旅人の間で噂になっていた、グアテマラのスペイン語学校にも通ってみた。



ここは、当時、1ヶ月400ドルくらいで、宿、食事、学校も全部含まれた、とてもお得なコースだった。


スペイン語のクラスは、マンツーマンで、自分のレベルに合わせてくれ、しかも、スペイン語オンリーなので、1ヶ月も毎日学べば、かなり喋れるようになっていた。



しかし、現地の人とのコミュニケーションで、面白いのは、言葉をまだほとんど喋れない頃の段階だ。



一生懸命話して、伝わった時はとても嬉しいし、


間違った言葉が、とんでもなく違う意味になって、腹を抱えるほど大笑いすることもある。




ラテンの人たちのオープンさ、優しさ、フレンドリーさのおかげで、スペイン語を学ぶのは、本当に楽しかった。


楽しいと、どんどん上達していく。




そして、1年の旅が終わる頃には、スペイン語で哲学的な内容の話もできるようになっていた。



日本へ帰る飛行機に乗る前の空港で、スペイン語圏のカップルと知り合い、哲学的なテーマで会話している自分に気づき、


そういえば、メキシコへ行く時の飛行機の中では、グラシアスとアディオスしか知らなかった1年前の自分を、とても懐かしく感じた。



日本の大学で2年間もクラスをとっていただけでは、全く覚えられなかったスペイン語。



短期間で、語学を上達させる一番の方法は、



「好き」なことを中心にして語学を覚えること、ということが体験してわかった。



私の場合は、「仲良くなりたい友達」そして「好きな歌」。



「机上の勉強」と「人と会話しながら、実際に、頭に入れたフレーズをすぐに使う」を繰り返すと上達は早い。


好きなことをしている時、人は、「勉強」とか「苦労」とかは思わないもので、


そこには、ただ、楽しさしかないのだ。



そして、気づいたら、いつの間にか、マスターしてしまっているのだ。



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