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16/7/7

思いでのバスに乗って:急行日本海(1)

Image by Olia Gozha

わたしは、苦しいながらもなんとか高校で学ぶ幸運を持っていたが、小中学時代の友達の中には、中学卒業と同時に、集団就職列車に乗って、富山や石川、東京に出た人たちも何人かいる。
     
今では死語となってしまった「集団就職」という言葉には、あれからもう半世紀ほども経ったが、大人になった今でも、わたしには、切ない哀しみがにじみ出ているように感じられてならない。15歳で世間に放り出されるのには、随分辛いものがあるだろうと、世の中のことが少し分かり始めてから、そう思った。

集団就職列車に乗って石川県に行った友を思うとき、わたしは決まって中学時代の数度に渡る、自分の刺激的な家出を思い出さずにはいられない。なぜなら、その家出を常に手伝ってくれたのが、彼女だったからである。14歳ほどで、家出を繰り返したとは、女ながらもまったくあっぱれ、大した度胸であったと、今振り返っても思う。別の言い方をすれば、無鉄砲以外の何物でもないのだが。
     
競馬の仕事が思うように行かなくなった父が、盛岡から帰って弘前で腰を据えることになり、父親の不在感の中で、自由に暮らしてきたそれまでの生活環境が打って変わり、わたしには父同居の生活が¥本当に窮屈なものであった。
いかんせん、わたしは丁度思春期の始まりでもあり、父はすぐ手があがる人だったので、表立っての反抗は普段は恐くてできなかったものの、しかし、わたしは、「家出」という形で表明していたのである。
     
父への反抗心からだけではない。わたしは田舎の持つ古臭い風習や、少し変わったことをするとダントツに目だって、陰でああだらこうだらと言う、その田舎根性を真っ平ごめんだと思っていたのだ。都会の持つ、斬新で自由な空気は当時のわたしを魅了して離さなかった。
     
家出先は大阪、いや、最初は西宮である。そこには江戸っ子のおじと結婚した母の妹、叔母が、夫の転勤先ということで、住んでいたのである。時々、帰郷する叔母の持ち込む「都会の匂い」、これがたまりませんでした(
服装から持っているバッグ、靴、そしてお土産に貰う洋服ときたら! 田舎育ちの少女にとって、叔母の全てが、憧れの的、強烈な魅惑の香水のようなものであります。

さて、家出の運びはと言うと、父のいない日中を狙ってこっそりボストンバッグひとつの小さな荷物を造り、それを友が預かる。翌日示し合わせてバッグを受け取り夜行列車に乗り込む。

乗った列車は「急行日本海」。最初の家出は冬でした。座席下から上がってくる暖房の熱気、そして真っ白な日本海沿いの雪に閉ざされた町々。寝台車ではなく座席に座ったままの、弘前から大阪までの22時間。 
おじ達の住所のみを手に握り締め、憧れが不安を打ち負かし、少女は初めて人生の冒険に出帆!
今のように電話はない。列車の中から車掌に電報打つことを頼むのでした。
       
旅費は・・・旅費はどないしたかと申しますと、可哀相な我がおかあちゃんの財布から、なけなしのお金を黙って拝借した、14の冬だったのでした。-続くー

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