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16/6/20

流れに任せて遊んでいたら、大好きなNYに住めるようになった話。#3 大混雑の空港にこだまする「ビッチ!」の怒鳴り声

Image by Olia Gozha

なんとか乗り換え時間に間に合い、北京発ニューヨーク行きの便のシートにおさまることができた。あとはビールでも飲んで寝てしまえば、14時間後には到着だ。



14時間後、ほぼ定刻通りにニューヨークのJFK空港に到着する。


さあ、ニューヨークだ!




…でもまだ安心はできない。なぜならわたしには最後の関門、



入国審査



が待っているのだ。




以前のストーリー、【ニューヨーク滞在記#1】空港のカウンターで出国を拒否される?!


にも書いたけれど、わたしは無謀にも片道航空券でアメリカに入国しようと試みており、それを知った中国国際航空の職員に出国を拒否され、急遽その場でカナダ行きの航空券を取る羽目になった。


そう、アメリカは帰りのチケットまたは第三国への出国のチケットがない限り、入国できない恐ろしい国なのだ。



カナダ行きのチケットを取ったとはいえ、油断はできない。なぜなら中国国際航空の男性係員に、「大丈夫だとは思うけど、100パーセント入国できるとは限らないからね。そこは保証はできないから…」と不安になることこのうえない忠告を受けていたのだ。



「入国がんばってね!」という謎の激励も受けており、不安を背負ってわたしは入国審査に挑んだ。








飛行機を降り、しばらく通路を歩くと人だかりができている。まだ入国審査のフロアに入る以前の通路から、すでに列ができているらしい。まじかよ…時間かかりそうだなあ…。



そう思いながらもおとなしく並ぶ。周りは中国人だらけ。まあそりゃあそうだ。北京発の飛行機に乗って来たのだから。



少しずつ列が動き、係員が立つ場所までたどり着いた。



係員は列に並ぶ人たちのパスポートをチェックし、先に進んでもいい人、そのまま列に並んでいる人を振り分けている。



早く進みたいので自ら彼らの元へ行き、パスポートを見せる。


係員「ビザのページ開いて!」

「(え?ビザなんて持ってきてないよ!1週間くらいしかいるつもりないんだから)」

「ビザないです!」

係員「いや、ビザ出して!ビザ必要だから!」


わたしの頭に不安がよぎる。




もしかして、、、、、ビザないと入れない、、、のか、、、、、、!?





周りのを見るとみんなビザを提示している。マジかよ…ビザ必要なのかよ…ビザ……ビザ

………ビザって10回言って、、、ってそんなあほなこと言ってる場合じゃなくて!




一瞬パニックになりかけるが、待てよ。と冷静さを取り戻す。



日本人は、90日以内の滞在ならビザはいらないはずだ。それは間違いない。もしかしたら中国人がアメリカに入国するにはビザが必要で、だからみんなビザを持っているんじゃないか?そしてこの係員は、わたしを中国人だと勘違いしているんじゃなかろうか?





そうだ、きっとそうだ。





自信を取り戻し、係員に「わたしは日本人だ!」と伝える。






一瞬疑わしげな目でわたしを見つめたが、パスポートがわたしを紛れもない日本人だと証明している。パスポートを数秒見つめ、ついに係員はわたしに「行ってよし」の合図を出した。





よっしゃーーー!これでやっと入国審査のフロアにたどり着けるぞ!




少し歩いた先に階段があり、そこを下ると入国審査のゲートが見えてきた。


ようやく入国できる!とよろこんだのもつかのま。そこにはありえないほどの人、人、人!


おびただしい数の人が列をなしていた。





いろんな国へ行ったが、こんなにも人だかりのできた入国審査を見たことがない。一体どれだけ時間がかかるんだろうか……気が遠くなりそうだったが、とにかく並ばないことには始まらない。



しかし列が複数あり、一体全体どこの列に並んだらいいかわからない。



わたし「あの、どこに並んだらいいですか?」

係員「日本人?エスタで来るの何回目?」

わたし「2回目です。」

係員「じゃああっちね!」



指示された方向へ行くと、そこには何やらコンビニのチケット発券機のような機械が置かれていて、みんながタッチパネルを操作している。



なんだろうこれは……と戸惑ってあたりを見回すと、バックパックを背負った日本人っぽい人を発見!




小走りでその人の元へ行き、「日本人の方ですか?」とおそるおそる尋ねる。「そうです」と返事が帰ってきて安心する。



機械の使い方を教えてもらい、タッチパネルを操作して最後に顔写真を撮り、チケットが印刷されるのを待つ。寝ぼけた顔をしたわたしが映ったチケットが出てきた。




しかしそのチケットはなぜかおおきなバッテンマークがつけられていた。





あの、これってどういう………?




とさっきの日本人に聞こうとしたが、彼はもうすでにゲートに並んで先の方に行ってしまっていた。



これ、やり直しってことなのかなあ?あたりを見渡すと、発券を終えて列に並ぶ人の手に、バッテンがつけられたチケットが握られているのを発見!



このバッテンにも何か意味があるのかもしれないと、それを持って列に並ぶ。



しばらく観察したところによると、どうやらバッテンを食らっていない人は、列から抜けるように言われ、空いている別のゲートへと促される。 あまり詳しい審査が必要ない、安全な人らしい。



一方わたしは思いっきりバッテンマークを食らった「怪しいやつ」なので、審査の時間がかかる列にい続けることになった。



審査員は複数いるのだけど、いかんせんわたしの並んでいるゲートはひとりひとりの審査に時間をかける。なので必然的に列も動きが遅くなり、待ち時間も長い。



一向に進まない列にうんざりしながら並び続ける。



14時間のフライト後に、この待ち時間は辛い…。いったいいつになったら審査官の元へ辿り着けるのか見当もつかないくらい動きがにぶい。




1時間半ほど並んだ頃だっただろうか。わたしが並ぶすぐ横の列から男性の大声が響いた。




驚いて声のする方向を見てみると、派手なピンクの柄シャツを着た一癖も二癖もありそうな男性が、ドレッッドヘアーの黒人女性係員に向かって声を荒げている。



男性乗客「なんで並ばなきゃならないんだよ!」

女性係員「あなたはみんなと同様、ここに並びなさい!」



彼の大声の主張によると、彼は列に並ばなくていいような、なにかしらの許可のようなものを受けているらしく、それを女性係員に伝えて列を抜けさせてもらえるよう言ったらしいのだが、係員は「あなたは列を抜けることができない。みんなと同様、列に並べ」と言ったらしい。



列に並ばずにすむはずだった彼は、「そんなはずない!ちゃんと俺の説明を聞け!」と声を荒げていた、というわけだった。




男性は相当怒って何度も説明しているようだったが、女性係員は一向に聞く耳を持たず、しまいには彼を無視して知らんぷりを決め込んだ。そんな係員を彼はいまいましげに見つめながら、最後は黙って列に並んだ。





男性が黙ったのでみんなの注目もやみ、さっきと同じく、退屈な待ち時間がやってきた。





かれこれ2時間以上は並んだだろうか。ようやく次でわたしの番だ。



長かった。ああ、長かった。後ろの距離感の取り方が下手くそすぎる中国人が、何度もわたしのリュックにぶつかってくるのにイライラしながらも、よくこの時間を耐え抜いたよ…。がんばったね、わたし。と心の中で自分を労っていると、またもや大きな声が後ろから聞こえてくる。




振り返るとまたさっきの彼だ。どうやら他の係員に抗議をしようとしたのだけど、それを見つけたさっきのドレッッドヘアーの女性係員が、


女性係員「その人の話は聞かなくていいわよ!さっきわたしが説明したんだから」

と別の係員に言い放ったようなのだ。



それを聞いた男性はよりいっそう声を荒げ、

男性乗客「ああ、そうだな!どうもわざわざありがとうよ!」


と皮肉いっぱいに女性に向かって吐き捨てた。



女性も皮肉いっぱいに

女性係員「どういたしまして!」


と返す。




すると男性がフロア中に響き渡る声でこう言った。







このビッチが!!!!!!







今までは上から目線で、男性を小馬鹿にしたような態度だった女性係員だが、これには怒りをあらわにしたようだった。







女性係員「なんですって?!」

女性係員「わかったわ。いい?あなたはそのままずっとそこに並び続けるのよ。ずーっとね!だってわたしがあなたをそこから進めないようにするから!」

女性係員「なぜそんなことするかって?」





それはわたしがビッチだからよ!!









入国審査のフロアに「ビッチ」という言葉がこだまする…





な、なんだこれ、、、、、








めっちゃおもしろいやん。




わたしはそのふたりの喧嘩を、野次馬根性で見守り続けた。






女性係員は、自分はビッチな女だと公言した後どこかへ姿を消した。



そしてしばらくして戻って来た。






警備員と一緒に。






うひょーこれは面白い展開だ!どうなる!?女性係員をビッチ呼ばわりした男性はここからつまみだされるのか??入国できずにトンボカエリなのか?!



ビッチと呼ばれた係員、ビッチと叫んだ乗客、そして警備員の3人が対面し、緊張感が漂う。



女性係員「…それでこいつ、わたしのことビッチと呼んだのよ!」


と、まず女性が警備員に事情を説明する。


彼女は警備員が男性をつまみだしてくれるだろうと思っているのか、かなり上から目線だ。



警備員「まあまて。この人の意見も聞くから」

と、かなり冷静な対応の警備員。



発言の機会を与えられた男性は、口角泡を飛ばさんばかりに自分の意見を警備員に主張し始めた。



わたしその様子を見守りながら、まあでもきっと男性が悪いということになるのだろうなあと思っていた。




しかし思わぬ事態は思わぬ展開へ。


なんと警備員が男性の意見の方が正当だと考え、男性を擁護する発言を女性係員にしだしたのだ。



これで一気に形勢逆転。男性は「それみろ」という顔で女性を見る。



女性はさっきまでの余裕の顔はどこへやら、慌てた様子で警備員に「だって…!」と抗議する。そしてそれを制する警備員。





これはなかなか面白い展開になってきたぞ…!




……とここで時間切れ。入国審査の順番が回ってきた。どうなるのか続きが気になったが、審査の男性に呼ばれ、しぶしぶ(?)従った。あんなに早く順番が回ってきてくれよと思っていたくせに、いまは喧嘩の行く末がどうなるか気になってその場を離れたくないと思うのだから我ながら都合がいい奴だ。







入国審査は思っていたよりもあっさり終了した。カナダ行きのチケットを取ったためか、ちゃんと不審者だと思われずに入国することができた。




ああ、長かった…とても長かった…14時に空港に着陸したのに、もう17時半だよ………。



疲れた体に鞭打って荷物を受け取り、空港内を出ようとすると、 空港から出る前に軽く列ができている。



とそこに、見覚えのある派手なシャツ。



ん????







さっきのあの男性ではないか!



なんと彼はまんまと自分の主張を通し、警備員によって先にゲートを通してもらえたようなのだ。


なんとまあ……。


「このビッチが!」


と言い放ったおかげで、早く通れることになるとは……。



というか本当は、早く通れるべき人だったってことだよね。それはそれで災難でしたね…。



当の本人はさっきの騒動はどこへやら、飄々とした顔をしてさっさと空港を出て何処かに去っていった。



気を取り直して、わたしも空港を出る。やっとこれで自由に動くことができるぞ!


体は疲れ切っていたが、気分は高揚していた。



これからニューヨークでどんなことが待ち受けているのか、楽しみで仕方がない。またそれは、次の話。 

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