第1話:空港のカウンターで出国を拒否される?!
いよいよニューヨークに向けて出国の日。
わくわくするけれど、同じくらい不安もあった。「アメリカに入国できるのだろうか」という不安だ。なぜならわたしは「片道航空券しか持っていない」のだ。
無知なわたしは、「アメリカに片道航空券で入国できないはずない」という思い込みで(というかそこに1ミリの疑いもなかった)、いつものように片道だけのチケットを取った。(滞在中に他の都市へ行きたくなったり、他の国へ行きたくなったりしたとき、「帰りのチケットがあるから」という理由でそのときの気持ちをつぶしたくなくて、一人旅ではいつも片道のチケットだけでほとんどの国に入国している)
するとニューヨーク在住の方に「片道航空券だと入国できないかもしれないですよ」と言われた。
え?まじで?
そこで初めて「アメリカは、復路または第三国へ出る証明がなければ入国できない国」だということを知った。
とはいいつつ、不安を感じながらも「まあ大丈夫っしょ」と軽い気持ちでいた。今まで行った国で帰りのチケットを見せろと言われたことは一度もなかったし、そんなに厳しい入国審査を受けたことがなかったからかもしれない。
〜〜〜〜そして出国当日〜〜〜〜〜
朝の7時、伊勢志摩サミットのせいで超厳戒態勢の中部国際空港に到着した。なぜよりによってこんな日にフライトを予約してしまったのだろうかと、1ヶ月半前の自分を恨みながら電車を降りる。
空港に入るために身分証を提示しなければならず、ロビー入り口の広場に長蛇の列。ああ…ちゃんと2時間前に来てよかった…
めずらしく余裕を持って行動できた自分を褒めながら、検査を受けてチェックインカンターへ。
わたしが乗るのは中国国際航空。北京で乗り継ぎ、ニューヨークへ向かう。中国国際航空のカウンターは空いていて、比較的すぐに受付までたどり着くことができた。
対応してくれたのはとても感じのいいちゃきちゃきとしたお姉さんだった。アメリカ行きはいろいろと聞かれることが多く、「アメリカでの滞在先はどちらですか〜?」「何日間滞在するんですか〜?」などの質問に答えた。
本当に感じのいい方で話しやすかったので、「わたし入国できるか不安なんですよ〜。片道航空券しか持ってなくて〜」と軽い気持ちで口にすると、意外にもお姉さんは深く考え込み、しばしの沈黙。
「……………………厳しいかもしれないです………………」
ええ?!まじすか?!そんな深刻っすか?!
「わたしたち、帰りの航空券か、もしくは他の国へ飛ぶチケットを持っていらっしゃらない方には、出国を許可できないという規則なんですよ…」
え!そうなんですか!?
ちょっとまってまじか!ってか何やってんだわたし!「片道航空券しか持ってないんですよ〜」なんてアホ面して言ってる場合じゃないよ!自ら告白してどうする!
猛烈に後悔するわたしと真剣に考え込むお姉さん。
とそこに男性係員もやってきて、3人でどうしたもんかと考え込む。
お姉さん「カナダへちょっと寄るとかどうですか?バスとかあったっけ…?」
わたし「あ!それなら、ニューヨークからロサンゼルスへ行った後、バンクーバー行きたいなあって思ってたんです!」
男性係員「そういうことなら………カナダ行きのチケット取れます? 今」
わたし「い、今ですか………?」
男性係員・お姉さん:「今です」
わたし「(まじすか…)」
男性係員「日付が先の方のチケットなら、1万円くらいで取れると思うから。行かなかったとしても御守り代わりとして…」
男性係員:だってもし入国拒否ってことになったら、30万、40万と払って帰ってこなきゃいけなくなるし…
わたし:「今すぐ取ります!」
なんでも入国拒否されると、当日のチケットで帰らなければいけないのでバカ高い値段になってしまうのだとか。恐ろしい…
お姉さん:「じゃあお荷物はお預かりしておきますね!お待ちしてま〜す!」
むっちゃ明るいお姉さんと対照的に、わたしは青ざめていた。よりによってチェックインがせまっているこの状況で、カナダ行きのチケットを予約しなければならないなんて……
飛行機のチケットを取るのって、何回やっても慣れないんだよ…いつもドキドキしながら取ってるのに、まさかこんな時間ない中で(しかも焦りながら)取るなんて…大丈夫かな…いや大丈夫かなじゃなくて、やるしかないんだ…。
チェックインカウンター近くのベンチに座り、急いでパソコンを開く。
…………
やばい全然Wi-Fiつながらない!
ちょっと〜〜〜頼むよ〜〜〜〜再接続!再接続!
…………
あ!つながった!
航空券の検索サイトを開く…
やばいめっちゃネット遅い
ねえ確か飛行機のチェックインって、ちょっとでも遅れたら搭乗できないんじゃなかったっけ…
飛行機に乗れず、セントレアで呆然と佇む自分の姿が脳裏をよぎる………
どうしようどうしようどうしよう!スタバならWi-Fiあるよね?!スタバに走るか?!あっでも男性係員が「備え付けのパソコンがありますよ」って言ってた!パソコンを探せ! いやその前に、搭乗手続きの締め切り時間を聞いておかなきゃ!
も う か ん ぜ ん に パ ニ ッ ク
中国国際空港のカウンター近くにいる女性スタッフに声をかける。
わたし「あっすみませんっ!」
女性スタッフ「はい、いかがされましたk…」
わたし「パソコンどこですか?!」
女性スタッフ「パソコンでございますか?こちらの案内板に…ここにパソコンのマークがありますのd…」
わたし「スタバどこですか!?」
女性スタッフ「スターバックスは2箇所ありまして、ひとつはここをまっすぐ行った先にございまして、もうひとつはエスカレーターをあがっt…」
わたし「チェックイン何時までですか?!」
女性スタッフ「あ、はい、どちらの便でしょうか?」
わたし「これです!(eチケット見せる)」
女性スタッフ「これは……………」
口ごもる女性スタッフ。どうした?!早く教えてくれっ!
中国国際航空の便ですね………わたくしどもはJALなので。
え………?
見上げると、目の前には思いっきり「JAL」と書かれたカウンターが…………
焦りのあまり、JALのカウンターを完全に中国国際航空のカウンターと勘違いしていたのだ。
わたし「すすすすいませんっ!」
恥ずかしさのあまり、女性スタッフの顔をろくに見れず、そそくさとその場を立ち去る。
あーめっちゃ恥ずかしい。でもなんで間違えたんだろう…?
中国国際航空とJALのチェックインカウンターを見比べてみると…
まぎらわしいわ
いかんいかん、そんなことにかまってる暇ないんだった。早く予約しなきゃ。
高速に回転しつつも焦りのためからまわる頭を使って、「一刻も早く予約することが最優先」と判断し、わたしはパソコンにダッシュした。
近くにいたスタッフに、「すみません!これどうやって使うんですか?!」と半ば怒鳴り気味に尋ねる。
「スミマセン、ワタシ、ワカラナイデス」
中国人風のスタッフはそう答えた。
ええぃ使えないっ!自分でなんとかするしかないっ!
見たところパソコンは旧式のWindows。100円で10分使用することができるらしい。投入口に100円を入れてマウスを動かすと、固まっていたディスプレイが動き出した。
まずネットを開く。
よしよし。若干遅いけどちゃんとつながる。
大急ぎで航空券検索サイトを開き、ロサンゼルス発バンクーバー行きを検索。
日にちはどうしようか………
いつまでニューヨークにいるかもわからないし、いつまでロサンゼルスにいるかもわからない。わからないから帰りのチケットはおろかニューヨークからロサンゼルス行きのチケットすら取っていないのに、そこをすっ飛ばしてロサンゼルスからバンクーバー行きのチケットを取ろうとしているのだからもう何が何だかわからない。
悩んだが、日にちなんて今考えてもわかるはずがない。とにかくチケットを取ることが重要なんだ。手数料はかかるだろうけど、日にちの変更はあとからできる。それに最悪、チケットは捨てたっていい。
そう思い、適当な日にちに設定し、大急ぎで予約を完了させた。
ふう。なんとか間に合った(のか?)
「早くしなきゃ」というパニックで、やたらと時間がかかったように思ったけれど、予約が完了した安心感から少し冷静さを取り戻すと、案外そこまで時間はかかっていなかったかもしれない。
とはいえチェックインの締め切り時間は未だ不明なので、小走りで中国国際空港のカウンターへ。
チェックイン待ちの客は1組しかいなかったが、それは「まだチェックインの時間は過ぎていない」ということ。
ちゃきちゃきのお姉さんがわたしに気付いて「おかえりなさーーーい!」と元気良く迎えてくれた。男性係員も来てくれて、予約の控えを確認してくれた。
お姉さんが航空券ナンバーを控えて入力する。よかった。これでなんとか出国できそうだ。ほっと肩をなで下ろす。
一連のやりとりですっかり打ち解けたわたしたち。男性係員はもはやわたしに敬語すら使わない。
「乗り継ぎ時間が短いから、前の方の座席にしておくね」と、まるでわたしが姪っ子か何かであるかのように話しかけてくれる。
ところでわたしが乗る飛行機は、セントレアから出発し、北京で乗り換えてニューヨークに入る。その乗り継ぎ時間は1時間25分という短さ。
そんなに短い乗り継ぎを経験したことのないので、ちゃんと乗り継ぎができるか不安だ。そんなわたしを男性係員はさらに不安にさせる。
男性係員「サミットの影響でフライトが遅れることもあるから、そしたらもっと乗り継ぎ時間が短くなっちゃうからね。」
なんでもまだ要人のひとりが到着していないらしく、わたしの便のフライト時間と、その要人が到着する時間がかぶったら、要人の飛行機が着陸するまで離陸できないというのだ。
まじ勘弁してよ!どこの国のどいつだよ遅れているのは!遅れているのはいいけれど、頼むからわたしの便のフライト時間にやってこないでくれよと願った。
男性係員に「乗り継ぎがんばってね!」と激励の言葉をいただき、お姉さんから「またすぐにゲートで会いましょう!」と声をかけてもらった。どうやらチェックインの時間はギリギリだったらしく、このあとすぐにお姉さんたちはゲートへ移動するらしい。
そんなギリギリまで待ってもらったことを申し訳なく、またありがたく感じながら国際線の搭乗口へと向かう。
いろいろあったけれど、なんとか出国できそうでよかった〜。トラブルを引き起こすのは毎度のことだけど、ここまで焦ったのは初めてだな〜。でもやっぱりなんとかなっちゃうものだよな〜。うんうん。
なんて考えながら歩いていると突然、
高木さま〜〜〜〜!
お待ちください高木さま〜〜〜!
びっくりして振り返ると、さっきのお姉さんがすごい勢いで走ってくる。
なに?!いったい今度はなに!?
「すみません、カナダ行きのチケット番号の控えが消えちゃったのでもう一度メモらせてください〜」
なんだそんなことか。よかった。またなんかわたしやらかしたかと思ったもんね。
気を取り直して出国審査へ。すぐにゲートへ行くと、ボーディングタイム5分前だった。
機内に乗り込む。あとは飛立つのを待つだけ。アメリカへ向けて出発だ!
…
………
……………………
飛ばない
離陸時間の9時を過ぎても、まったく飛ぶ気配がない。
まじかよ………要人到着かよ…………。
ただでさえ短い乗り継ぎ時間がどんどん減っていく。1時間25分しかないのに……フライトが10分遅れれば乗り継ぎは1時間15分になり、20分遅れれば1時間5分しかなくなってしまう……。これは、本気でやばいやつじゃないか?
どうすればいいんだ?北京についたら人をかき分けてダッシュすればいいのか?!そういえば、ニューヨークに住む日本の方が以前「もし時間がヤバかったら、係りの人に強めに言って前の方に通してもらったほうがいいですよ!」とアドバイスをくれていた。
強めに言って……ってできるかな。でもやるしかないな……。
そんなことを考えていると、やっと飛行機が動き出した。
よし、いいぞ!飛べ!早く飛んでくれーーー!
結局飛行機は25分遅れで離陸した。25分遅れ………。
乗り継ぎ時間1時間…………………。
果たしてわたしは無事乗り換えができるのだろうか?
次回に続く。