top of page

16/6/4

今日の晩飯もスライムか: 魔法使い養成塾の立ち上げ方 その5

Image by Olia Gozha

『お前はモンスターも倒さないでそんなくだらないことをやっているのか!?』

実家に帰った時からずっと父が怒鳴りまくっていた。


『お前は冒険者になりたいというから
 王宮戦士の試験を受けなくてもいいと言ったんだ!』

『もちろん冒険もするよ。魔王はそのうち倒さなければならない。
 でもそれには資金が必要だし、なにより魔法使いの素質がある人に
 出会えるかもしれないじゃないか。』

『そんな悠長なことでどうする!』

『結果的にはその方が早いと思うんだ。』

『なるほどね・・・わかったよ。頑張って!』


━━━━━━━━━━━━━━━


『マッチ程度の魔法?』

父の次は、ダーマを説得しなければならなかった。

『そう。それを無料セミナーとして開催するんだ。』

『告知は?前にも言ったけどチラシを印刷するお金なんてないんだ。』

『しっかりした綺麗なチラシは作らない。
 小さな紙に手書きで書く。もちろん白黒印刷だ。これだと安いだろ?』

『そんな・・・家族経営のパン屋じゃないんだから・・・カッコ付かないだろ。』

『いまはそんなこと言っている場合じゃないだろう!?

 金がないんだよ!誰かさんが飲み歩いているせいでな。』

『なんだと!それはオレのことか!?』

『そうだ!他に誰がいるんだ!?』

『そうだよね。オレだよね (*ノω・*)テヘ♪』

『さっそくチラシ作るから。』

『オレの知り合いに、安く印刷をしてくれる奴がいるけど。』

『いやいいよ。白黒の大量印刷だとそもそも安いから。』


さっそく形ばかりの事務机に座り、小さな紙に手書きで案内文を書いた。


【3時間でマスターする!火系魔法無料講座】

【無料!3時間でマスターする!火系魔法講座】


さてどっちがいいだろうか。

ダーマに聞いたところであてにならないだろうし・・・。
オルデカに聞いてみるか。

いや両方作って、どっちのチラシからの申込が多いかカウントしてみよう。


何かの本で読んだ「スプリットテスト」というやつだ。

一度、反応がいい方がわかればそれを使い続ければいい。
仲間に聞くより、お客に聞け!ということだ。


━━━━━━━━━━━━━━━


『結局バラバラになって汚くなるだけなんだよねーチラシって。』

チラシを置いてもらうお店を一軒一軒あたったが、すべてにおいて反応が悪かった。

そりゃあそうかもしれない。
いきなり訪ねてきて、その人が塾をやるから
チラシを置いてくれなんて言われてもすぐに首を縦にふるなんて期待するほうが悪い。


うなだれながらオルデカの家に向かった。

『チラシを置いてくれる店知らないか?』

『あぁ、友達が防具屋やってるから聞いていみようか?』



『ホントか!?ありがたい!』

オルデカはすぐに身支度と整えた。

『行こうか』

『どこに?』

『決まってるだろ。防具屋だよ。チラシ何部有る?』

『いまからか!とりあえず50ある。』

『まぁそんなもんだろ。行くぞ。となり町だ。』


オルデカは昔、王宮の戦士だった。
公務員ではあるが向上心旺盛でどんどん出世し、若くして1つの班を任されるほどになった。

しかし班の上に位置する”隊”の長がいわゆる銀行からの天下りで
若くてバイタリティのあるオルデカは早々に目を付けられていた。

そしてついこの前、クビになったのだった。


いまは無職だが、人望があるオルデカに友人は多い。
これから向かう防具屋の主人もそうだった。
防具屋の主人は、オルデカより1周りも上だが友達のように扱ってくれる。

『おお!オルデカ!相変わらずニートなのか?』

『ちょっとやめてくださいよぉ!起業準備中なんですから。』

2人の会話は、必ずこのようなやりとりから始まる。

『で、今日はなんのようだ?』

『こいつオレの友達でハリーっていいます。レベル10の魔法使い。
 この前、魔法使い養成塾を立ち上げたんです。凄いやり手なんで、紹介したくって。』

『ほぉー!面白いことをやってるんだね。何か協力できることはあるかい?』


驚いた。あれほど門前払いされていたのに今度はトントン拍子で話が進んでいく。
いやそれどころではない。VIP扱いで話してくれる。

『チラシ?もちろんいいよ。好きなだけ置いていってくれ。』

50部置かしてもらうことにした。
そして丁重にお礼をし、防具屋を後にした。

『なぁハリー。やっぱりビジネスは人脈なんだ。』

本当にその通りだ。
ビジネスは人脈。心に強く刻まれていた。


『おーい!!ちょっと待て!』

防具屋の主人が追いかけてきた。

『はぁはぁ・・・』


(5分後)


『はぁはぁ・・・ふぅ・・・』

かなり体力がないようだ。体力がないから防具に興味があるのだろう。

『はぁはぁ・・・で、そのチラシ・・・はぁ・・・他の店にも置きたいんだろ?はぁはぁ・・・』

まだ息が整っていない。

『だったらオレ・・・はぁはぁ・・・防具屋連盟の理事をしてるから連盟のみんなに頼んでみるよ。』

『ホントですか!?ありがとうございます!』

『チラシあと500部・・・はぁはぁ・・・持ってきてくれ・・・。じゃあ・・・はぁはぁ・・・頑張れよ。』

無事、店まで帰れるのだろうか。
彼の体力を心配しながらも、心から感謝した。

PODCAST

​あなたも物語を
話してみませんか?

Image by Jukka Aalho

急に旦那が死ぬことになった!その時の私の心情と行動のまとめ1(発生事実・前編)

暗い話ですいません。最初に謝っておきます。暗い話です。嫌な話です。ですが死は誰にでも訪れ、それはどのタイミングでやってくるのかわかりません。...

忘れられない授業の話(1)

概要小4の時に起こった授業の一場面の話です。自分が正しいと思ったとき、その自信を保つことの難しさと、重要さ、そして「正しい」事以外に人間はど...

~リストラの舞台裏~ 「私はこれで、部下を辞めさせました」 1

2008年秋。当時わたしは、部門のマネージャーという重責を担っていた。部門に在籍しているのは、正社員・契約社員を含めて約200名。全社員で1...

強烈なオヤジが高校も塾も通わせずに3人の息子を京都大学に放り込んだ話

学校よりもクリエイティブな1日にできるなら無理に行かなくても良い。その後、本当に学校に行かなくなり大検制度を使って京大に放り込まれた3兄弟は...

テック系ギークはデザイン女子と結婚すべき論

「40代の既婚率は20%以下です。これは問題だ。」というのが新卒で就職した大手SI屋さんの人事部長の言葉です。初めての事業報告会で、4000...

受験に失敗した引きこもりが、ケンブリッジ大学合格に至った話 パート1

僕は、ケンブリッジ大学トリニティ・カレッジ、政治社会科学部(Social and Political Sciences) 出身です。18歳で...

bottom of page