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16/6/1

今日の晩飯もスライムか: 魔法使い養成塾の立ち上げ方 その2

Image by Olia Gozha

(その1の続き・・・)


目を軽く閉じ、呪文を大きな声で唱えた。



本当は頭の中で唱える程度でいいのだが、ビジネスというものはアピールも重要だ。


そして目をカッと見開きアニマルゾンビを見据えた。

本当はあまり目に力を入れないほうがいいのだが、これも当然アピールの1つだ。

その方が魔法っぽい。


『メラ!!』


そう叫ぶと同時に、人差し指を敵に向ける。

指先から真っ赤に燃え盛った火の玉がまっすぐに飛んだ。



アニマルゾンビは避ける間もなく一瞬で火だるまになった。


『ギャー!』


モンスターといえども苦しむ姿は見てられない。

普段は目を背けるのだが演出も重要だ。
命に感謝するように、哀れみの眼差しを火だるまに向けた。


『いやぁ!凄いっす!』


ダーマが興奮気味に話しかけてきた。


『あれがメラですか?』


『まぁそうですね。』


『いやぁ凄い!簡単に出せるんですか?』


『まぁ簡単ですよ。ちょっと練習すれば。』


『だいたいどのくらいで出来るようになるんですか?』


『人によりますけどね。普通はだいたい3週間あれば。』


『3週間!意外とすぐなんですね。魔法使い養成塾、やりましょうよ!』


『ええ、宜しくお願いします。』


我々はガッチリと握手をした。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

・・・思えばあれがピークだった。


いやオレが悪いのだ。

相手が「自分は経営の経験がある」と言っただけでそれを信じてしまったのだから。


ダーマの仕事っぷりは酷いものだった。

とにかくすべてが雑で本当に経験があるのか信じられなかった。

たとえば看板。

それなりに雰囲気が出ていないと怪しいと思われてしまうため、しっかりとした看板職人に依頼しようといいだした。

確かにその通りだ。しかし金がない。


『知り合いの看板屋に依頼しますので、安くなりますよ』
と言っておきながら、気が付くと近くにある普通の看板屋に依頼していた。

知り合いの話はどうなったのかとは聞けずそのままだったのだが、似たようなことが頻発していた。


『知り合いに言えば安い』

結局その知り合いとやらに依頼することはなかった。


知り合いなど本当にいるのか?

疑いが強くなったが、オープンの日は近い。

とにかく目の前にある作業を1つ1つ片付けなければ・・・。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


オープン当日。

前の日はなかなか寝付けなかった。


金が底をつき、野宿が続いていたことはもちろんだが、新しいことにチャレンジしているという高揚感が理由だった。


時間になった。


『チラシはどのあたりに撒いたんですか?』


何気ない質問を、外を見ながらゆっくりとコーヒーを飲んでいるダーマに投げかけた。


『いや、チラシは撒いてないっす。金がないから。』


『え?じゃあ告知はどうやったんですか?』


『3日くらい前から、外に看板を建てたんですよ。見なかったですか?』


『いや、それは知ってます。

8月8日オープンと書かれたやつですよね?・・・告知ってアレだけですか?』


『まぁそうですね。金がないし・・・。』


頭に血が登ってくるのが体感できた。首から上だけが熱い。


『いや、ここって人が全然通らない場所ですよね?


そのオープンを知らせる看板なんて誰も見ていないでしょう?』


『まぁでもオレの知り合いが、声をかけてくれるっていってたんで。』


『知り合いって誰ですか?』

『昔からの仲間で、いま宿屋をやってるんですよ。』


『じゃあその宿屋さんにチラシを置いてもらってるんですよね?』


『チラシはないですって。金がないんだから。』


話にならない。とにかく会話を打ち切りドアが開くのを待った。

オープン初日だ。もしかしたら話題が話題を呼び、生徒が押しかけるかもしれない。


しかしそれは淡い期待に終わった。

ゼロ。


それがオープン初日の来客数だった。


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