top of page

16/4/1

放送部のマドンナと、放課後の屋上

Image by Olia Gozha

人を騙し、


あざ笑う行為が、


心底嫌いになった日のことは、


昨日のことのように鮮明に覚えている。


小学校五年生のときに、


惚れ込んだ女の子がいた。


彼女は放送部のマドンナで、


昼休みに入ると、


彼女の声が校内に響き渡る。


「みなさん!お昼休憩となりました!」


彼女の声が聞こえてくると、


僕の心臓は暴れはじめる。


平常心を保つことができない。


トイレに駆け込んだ。


放送が終わると、


教室に戻り、


フゥ〜と一息ついて、


何事もなかったような顔をしてみるものの、


まわりのみんなは、


ニヤニヤヒソヒソしていた。


そんなある日のこと、


彼女に声をかけられた。


正しく言えば、


彼女とその友人たちに、


声をかけられた。


「放課後、屋上にきて」


彼女の友人のひとりが、


僕に向かってそう言った。


彼女は笑みを浮かべていた。


僕は期待した。


ものすんごーーーーーく期待した。


それからの授業は、


三倍速で過ぎていった。


あっという間に放課後になり、


僕は期待に胸を膨らませて、


屋上までの階段を、


一段一段、


浮つく心をどうにか押さえつけながら上がった。


屋上の扉の前で、


深呼吸をした。


これから何が起こるのか、


全く想像がつかない。


ほころぶ顔を引き締め、


扉を開けると、


彼女とその友人たちがいた。


屋上に足を踏み入れる。


ふと人の気配に気づくと、


そこには男子が数人いた。


なぜだろうと不思議に思いながらも、


手招きする彼女たちの方へと足を進めた。


一歩一歩、


彼女に近づいていくにつれて、


胸の鼓動が早くなる。


そしていよいよ、


手を伸ばせば届く距離に、


大好きな放送部のマドンナがいる。


僕の心臓は、


極限まで弾けた。


踊り狂っていた。


声が裏返らないように、


気をつけた。


「どうしたの?」


僕が問いかけると、


彼女のまわりにいた友人たちは、


その場から去っていった。


僕は彼女と二人きりになった。


ますます期待した。


彼女の友人たちは、


離れた場所にいる男子たちと合流し、


僕らの動向を、


遠くから見守っていた。


すると、


彼女が口を開いた。


「好きです」


え?


いま、好きって言った?


もうその言葉が信じられなかった。


体が宙に浮いた。


舞い上がった。


喜びの感情がMAXに達した瞬間、


彼女が再び、


口を開いた。


「広島が」


は?


いま、広島って言った?


惚れた女の子から告げられたのは、


郷土愛だった。


彼女はわざわざ、


放課後に僕を屋上まで呼び出して、


広島が好きなんだと、


報告してきたのだ。


うーん!!素晴らしい!!


よしっ、みんなで故郷を愛そうじゃないか!!


ってなるわけがない。


僕はその場から動けなかった。


何も言葉が返せなかった。


電池が切れた機械のように、


僕は動かなくなった。


みんなが帰ったあとも、


屋上でひとり、


しばらく佇んだ。


夕陽があまりにも美しくて、


泣いた。

←前の物語
つづきの物語→

PODCAST

​あなたも物語を
話してみませんか?

Image by Jukka Aalho

フリークアウトのミッション「人に人らしい仕事を」

情報革命の「仕事の収奪」という側面が、ここ最近、大きく取り上げられています。実際、テクノロジーによる「仕事」の自動化は、工場だけでなく、一般...

大嫌いで顔も見たくなかった父にどうしても今伝えたいこと。

今日は父の日です。この、STORYS.JPさんの場をお借りして、私から父にプレゼントをしたいと思います。その前に、少し私たち家族をご紹介させ...

受験に失敗した引きこもりが、ケンブリッジ大学合格に至った話 パート1

僕は、ケンブリッジ大学トリニティ・カレッジ、政治社会科学部(Social and Political Sciences) 出身です。18歳で...

あいりん地区で元ヤクザ幹部に教わった、「○○がない仕事だけはしたらあかん」という話。

「どんな仕事を選んでもええ。ただ、○○がない仕事だけはしたらあかんで!」こんにちは!個人でWEBサイトをつくりながら世界を旅している、阪口と...

あのとき、伝えられなかったけど。

受託Web制作会社でWebディレクターとして毎日働いている僕ですが、ほんの一瞬、数年前に1~2年ほど、学校の先生をやっていたことがある。自分...

ピクシブでの開発 - 金髪の神エンジニア、kamipoさんに開発の全てを教わった話

爆速で成長していた、ベンチャー企業ピクシブ面接の時の話はこちら=>ピクシブに入るときの話そんな訳で、ピクシブでアルバイトとして働くこと...

bottom of page