大体題名でオチは分かったと思うので、見てくれる人はそうなるまでの行程を楽しんで欲しい。
大学一年生の夏。長期休暇。この時期を味わった人は分かると思うけど、大学生で一番ワクワクする時。
みんな地元に帰省して、旧友とお酒飲んだり、ドライブ行ったり、一気に世界が広がった時。僕もそうだった。
ある晩、高校時代のテニス部仲間で車2台こしらえて山にドライブへ行く事に。7.8人だったかな。この時がテニス部の初ドライブで正直みんなラリってた。そしてこの物語の主人公、通称キヨハラ(話題に乗っかったわけじゃなく本当に似てるんだよ、オヤジもリーゼントだけどソックリ)。こいつが一番キチガイだった。最初は違う人の車に乗ってたんだけど、みんなが面白いっていうからそいつの車乗ったら、とにかくすごかった。
どうすごかったかというと、ドリフトしたり、電光石火って技を試してみたり。免許取って1年もしない奴の運転だぞ?しかも山道で。だから俺はずっと叫んでた。
「お前絶対事故るからな?!」
これで前置きは終わり、物語はその年の秋から始まる。
11月の頭、僕はたまたま実家に帰ってた。そして偶然キヨハラも。帰った当日の夜中12時を回った時、キヨハラからの電話。今でも覚えてる。悲しそうな声でドライブに行こうと。
その日は雨が降ってて嫌な予感がしたんだけど、キヨハラは大事な友達。何かあったんだと思って二つ返事でOKした。
ドライブの途中、キヨハラの話はこうだった。大学でうまくやっていけなく、楽しみもない。好きな人ができて、告白したけどフラれた。もう自分にはドライブしか楽しみがない。いつも明るいキヨハラだが、その日は落ち込んでいて、対向する車のライトが彼の悲しそうな顔を照らしていった。
仕方ない。ここは俺が一肌脱ぐか。
「今日は俺はなにも言わないから、好きなようにドライブしていいよ」
意外な俺の言葉に彼は喜んで車を飛ばしてた。山道もドリフトしながらカーブを登って行った。俺はものすごく怖かったけど、楽しみがドライブしかないと悲しんでるキヨハラにはなにも言えなくて、楽しんでるフリした。
この同情がそもそも間違いだった。
山の頂上に着くと、広い駐車場を見つけてバックしながらハンドルを目一杯切り、車を回転させて煙を出す技を見せてくれた。正直しょうもなかったけど、褒め称えたあげた。そしたらキヨハラは余計に調子に乗り、頂上で踊りながら発狂しだした。キヨハラの顔を思い浮かべると想像できないかもしれないけど、そういうやつなんだよ。
そして運命の帰り道。
下りも飛ばして運転していく。そしてS字カーブが見えてきて、彼は言った。
「俺、このS字好きなんだよねええ!!」
そしてキヨハラは壁に突っ込んだ。
そもそもドリフトする車は後輪が動くタイプで後輪を滑らせながら曲がる。しかしキヨハラの乗ってた車は前輪が動くタイプ。だから前輪が滑ってそのまま壁に突っ込んだ。しかも結構いい車。
僕は初めてエアバックが飛び出るのを見た。おおすげえ。そしてシートベルトが切れた。結構簡単に切れるもんなんだね、アレ。そう思っていたのが車体が半分壁に乗っかってた時。エンジンは煙を上げて、そのまま畑に突っ込んで、リンゴの木に激突した。その時のキヨハラはブレーキが効かないと叫んでいた。
そのあと、キヨハラのオヤジさんが来た。なんとギックリ腰だった。タバコを吸いながら、腰を押さえて出てきてとても怖そうだった。
そしてレッカー車と警察が来て、車を回収していった。車は廃車になった。あともう1つキヨハラは免許不携帯だった。夜空が綺麗だった。
帰りの車。気まずい沈黙が続き、暇だったから僕はこの事象を整理してみた。
まずキヨハラは大学が嫌でドライブしか楽しみがない。その楽しみさえ、今日で潰えた。気の毒だ。前から絶対事故ると言っていた俺が一緒に事故るなんて、気の毒だ。車が廃車、しかもそれはおばあちゃんの車だったらしい。気の毒だ。お父さんがギックリ腰。気の毒だけど笑える。キヨハラの免許不携帯。笑える。頂上での発狂しながら踊ってたキヨハラ、そのあとの事故。すげえ笑える。「俺このS字好きなんだよねええ」クソ笑える。
抑えきれなかった。
車の中の沈黙で俺1人が笑っていた。オヤジさんに怒られてシュンとしてるキヨハラの前で。車廃車とリンゴの木の賠償でで多額の損害を抱えたギックリ腰のキヨハラ父の前で。
この時と事故の時、俺は2度キヨハラに殺されそうになった。今となってはおもしろい思い出だが、本当に死にそうになった。特に車の中で笑った時。
ドライバーは乗ってる人の命を預かる者であり、乗っている人は命を預けるもの。これを読んでくれた人はそれを忘れないでほしい。
余談だけれど、キヨハラはその後ワゴンRでドリフトしようとしてた笑