俺は猫だ 名前は ない
と言ったけど ニックネームってやつは あったんだ
コロ ってな
こいつは
前に話したかな 花園神社の じいさん猫
そう 花じい が付けたんだ
なんでも俺は 小さかったから なんだと
その年代の 普通の猫たちより ね
コロ なんて恥ずかしいだろう?
飼いならされない 野生
レジェンドになる 猫にはふさわしくないじゃん
それに俺は あの頃より大きくなった
強くもなったんだ
だから 俺は
花じいが死んで以来 誰にも呼ばせない コロなんて
----
ここは どこだろう
暖かくて やわらかい ずっと居たくなる
まだ寝ていたい気もする
うん なんだか 疲れた
頭も回らんわ 寝よう もう少し
ここが どこか なんて 知らねーよ
----
「お母さーん この猫ちゃん まだ寝てるよ?
死んじゃわないよね?」
「美結 大丈夫よ お医者様も言ってたじゃない
大丈夫だって もう少し寝たら 起きるんじゃないかしら」
「でもお母さん? この猫ちゃん もう3日も寝たきりだよー?
ねーねー? この猫ちゃん このまま家で飼ってあげたいな?」
「そうねぇ うん 元気になるまでは ね
うちの十ちゃんも仲良くしてくれそうだし いいわよ
でも その猫ちゃんが 居たいっていうかしら?」
「大丈夫!! 美結 ちゃんとお世話するもん!
名前も決めたんだもん!」
「あら どんな名前?」
「コロちゃん! だって小さくって可愛いじゃない?」
-----
.....誰かが 俺を呼ぶ声が聞こえる
誰だろう?
うーん 開かないんだよな 目が
「コロちゃーん 起きてー! 起きてよー!」
誰だ?
俺はコロって呼び名は捨てたんだ
それを呼んでいいのは 花じいだけだ
くそっ 開きやがれ 目!
!!!!
痛ぇ! なんじゃこりゃあ!?
めちゃくちゃ身体が痛ぇ!
あれ? 付いてる? 尻尾?
えええーい 目 開きやがれ!!
!!!!
明るっ ん? どこ? ここ?
ん?
ああ 付いてたわ 尻尾 良かったー
え? 誰? お前?
「お母さーん! コロちゃん起きたよー!」
へ? おいおいおい
ちょっと待てよ 小娘
お前 だれよ?
「あら 美結 良かったわねー!」
「うん! ね!ね! ごはん あげてもいい?」
「いいけど、気をつけなさいよ 野良猫だったんだから
雑菌とかあるかもしれないし....」
「大丈夫ー!!ほーらコロちゃん ごはん おたべ?」
あぁん? ブラァー!
コロって呼ぶな!シャー!!!!
噛み殺すぞ!
お前らなんかに世話 されたくねーわ!ニャー!!!
痛ぇ! 身体 痛ぇー!! プギャー!
「美結! やっぱり危ないっていったじゃない!
ごはんはそこに置いておいて 一回離れなさい!」
「むぅぅぅ... 大丈夫だもん! 美結は怖くないもん!」
この小娘 美結っていうのか
いくつくらいだ? まだ ガキじゃん
あー身体の隅々が傷だらけじゃん 俺
なんでだ? ここに来る前に 何したんだ 俺?
ネズミ 追っかけてー
ほんで どうしたっけか....
ハァ
まぁ 花じいも言ってたっけ
男は 強くなりたければ優しくなけりゃいけない って
じゃ 今回はご相伴に預かるとするか
物乞いしたわけじゃねーしな
飼われるわけでもねぇ
なにより この身体
動けるよーにしなきゃならん しな
「お母さん!コロちゃん 食べたよ!
美結のごはん 食べたよ!」
「よかったわね あら 十ちゃんも来たわ
コロちゃんのこと 心配なのかしらね
仲良くしてね 十ちゃん コロちゃん」
十ちゃん? 十ちゃん とは?
うわー 来たよ来たよ来たよ
飼いならされ猫のお出ましか!
こっち来んなよ
まずくなんだろ 飯
飼いならされは魂売った猫 なんだろ?
俺の 言葉 わかる?
それとも
もう 忘れたかい? 猫の言葉なんか
俺に飯をくれた あの子は
美結 といった
そして
奴は 十 といった
目の周りに白いブチがある
黒毛の奴だった
人生の酸いも甘いも知ってますよーみたいな
憮然とした態度で 俺を見てやがったんだ
つづく