序章
4人家族の長男に産まれた。
下には3つ離れた弟。
父は大手広告代理店勤務
母は専業主婦。
自分は生まれつきの病気を2種類、背負って生を受けた。
先天性腸回転異常
と
自閉症スペクトラムの一種である、アスペルガー症候群。
前者は出生時に即、開腹手術の必要があった。
1977年当時の外科医療技術で同疾患の新生児に対する手術の成功率は約五割。
後者の発達障害は、2014年、37歳の時に自らIQ測定試験による判定に臨んだことで明らかになった。
重い先天性の病気を持ち生まれ、助かった長男
ということで自然発生的に生じた
両親の深い愛情が
僕の人生において
ポジティブというより
ネガティブに作用した。
東大進学者数におき国内で圧倒数を誇る開成出身の父と
一応、六大学出身で
非常に上昇志向に傾倒しやすい性格の母
そんな家庭環境は
当然、教育に対する意識が高く
それは結果的に、僕に対する過干渉
という形で、家庭におき典型的な共依存関係を形成した。
出生時に外科医に救われたという事象で
両親には僕を医師に育て上げる願いがあった。
それは願いから、野望に変わり、果ては欲望に昇華していった、ということになる。
小学三年生から、中学受験のための塾に通わされた。
最初にどのくらいの期待値を両親が見通していたか
未だに謎のままなのだが
幸か不幸か、僕はすこぶる成績が優秀だった。
今思えば、間違いなく
アスペルガーのサヴァン的性質のせいだ。
大手の難関中学受験塾で
僕の叩き出すハイスコアに、誰よりまず
母親が狂喜乱舞した。
狂喜はすぐに狂気に替わり、暴走を始めた。
中学、高校は開成と並ぶ男子校御三家の1つ
麻布に進学した。
ちなみに、弟は
僕の受験成功例をそっくりそのまま母にアプライされる様な形で
同じく受験を課され
父と同じ開成に進学した。
中学に入学すると
当たり前の様に東大合格を期待された。
貴方は理科三類に行きなさいと
新中学一年、つまり
入学式に前倒しで
中学受験の熱もまだ冷めやらぬ3月期から
大学受験のための塾に放り込まれた。
御三家を中心とした進学校の生徒ばかりが集まる数学専門の塾の入塾テストで
僕は1位の成績をマークした。
それが更なる母親の狂気に拍車をかけた。
麻布に合格したら
勉学擦り付けられ生活から解放される
と信じ切って
必死に中学受験に嫌々、耐え抜き、きちんと結果を残して
苦悩は終わった……とやっと安堵しかけていた僕は
そのことをきっかけに
母親
という人物に
不信感を感じ出した。
このヒトはいったい
なんなんだ??
身勝手すぎる!フザケんじゃねー!
そういう怒りを
母親に人生で初めて感じた。
麻布も開成も
中高エスカレーターの
男子校。
自分の人生を振り返ると
生まれてから思春期までの期間ずっと
女性 という存在は
自分には母親しかいなかった
そう言って過言ではないような状態であったろうと思う。
その母親は極型の過干渉により
レールを用意し、全て己の希望や理想通りになるように
僕をコントロールしていたわけで。
余計に存在がデカい。
支配下ということは、逆らえない、を意味する。
母親は僕の受験時代
非常にヒステリックな感情爆発を頻繁に起こしていた。
特に、成績が彼女の欲求を満たさない場合には
体罰が加えられた。
僕はよくそれで、腕を脱臼して
仕方なく自分で嵌め治していた記憶がある。
しかしながら実際のところ僕はおしなべて
母親の欲望や自己顕示を
優秀な成績と
受験の成功
世間体や見栄え
の達成により、次から次に叶えていた。
母親への憎しみ
イコール
無自覚なるマザコン
自分はそれが完璧に浸透している人間だ。
憎き母こそが
まさに自分の姿、なのである。
高校一年の夏
先天性腸回転異常の手術に起因する
術後性イレウス
と呼ばれる腸閉塞を患い、人生二回目の全身麻酔手術を受けた。
長期入院の療養中
父が病室を退屈せず過ごすために差し入れてくれたのをきっかけに
僕はとある、1枚の音楽CDに出会う。
そのCDのファーストトラックの
イントロを聴いた瞬間
自分は音楽の道を歩む
そう決心した。
楽器なんか何も出来ない
音楽とは、まるで無縁の身ながら
その直感は自分の中でその時
まるで、塾でよく出題されていた
国際数学オリンピックの幾何学の過去問を
正解に導くためには絶対不可欠なる
一本の補助線がひらめいた瞬間
に酷似していた。
だから、自分だけには、非常に確信的だった。
眼前に、もう目の前の、すぐそこに
右往左往してらっしゃる
医師の方々の姿が
僕が成りたかったのは
この人たちじゃない!!
という理解と
重大決意の判断を促進してくれた。
その後、僕は受験戦争や進学からドロップアウトし
ギタリストとしての人生を歩んだ。
自分が選択した
自分の生きたい人生の道を歩いてきた。
17歳で本当にやりたいこと
やりたい道に気付き
好きなことに没頭し、邁進して来れた
という点では
理想的この上ない恵まれた人生の様相を呈する。
しかし、現実は
破滅型の滅茶苦茶な人生だった。
先天性疾患の一つ
のおかげで選べたギタリスト人生。
その人生において
もう1つの先天性疾患。
それはギタリスト人生スタート時にはまだ未知であった
アスペルガー症候群
更に、母親の過干渉と機能不全という
いわば、アダルトチルドレン体質
トドメに、思春期を男子校で過ごした
という生い立ちが加味し
以上の要素は僕の成人以後、「恋愛コンプレックス」という形で表になり
異性対人におき
様々な病的不全を引き起こした。
タトゥー。離婚。不倫。恋愛依存。性的潔癖。醜形恐怖。承認枯渇。ストーカー犯罪。
この随筆は
自分の人生で
深刻なまでの「恋愛コンプレックス」が原因で起きた事実の
回顧録である。