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「ほら、新入りを紹介する!一旦集まれ。」
蒼き防衛団の基地内。新屋田の声が響き、作業などを行っている人が手を止め集まってくる。
「ほら自己紹介しろ。」
「え?意味がわからないよ。」
「名前と意気込みを言うだけだ。簡単だろう」
「そっちじゃない!」
反論は虚しく、新屋田に無視された。蒼き防衛団の人たちが全員集まり、静かになる。
(これ、もう逃げられないよね)
「え、え〜と。その、椎名 遥です。よろしくお願いします」
すると蒼き防衛団の人たちが一斉に拍手する。
「おう!よろしくなー」
「ちびすけ。しっかりやれよ!」
(ちびじゃないし!)
そして新屋田は僕の右肩をポンと叩き、こう言う。
「あとは彼奴らに任せる。わからないことあったら聞いておけ。」
(無責任なッ!)
と思ってしまう僕だが、仕方ない。しぶしぶとその場から離れた。
すると、前方から蒼き防衛団の人が3人僕に近づいてきた。
眼鏡を掛け、歳が60くらいの人。蒼き防衛団の制服は着ていない。
もう1人は、制服の上に白衣を着用している40歳くらいの人。右目が蒼い。
「博士のティナだ。よろしくな」
「医師のルイです。よく会うと思うのでよろしく。」
3人目。どこからどうみても蒼き防衛団の人。20歳くらい。
「蒼き防衛団A班の部隊長、ギリナだ。どこの班に行くかは知らんがよろしく。」
「あの、すいません。御手洗いはどこに?」
「ギリナ。連れてってやれ。」
「ちっ。ティナがそう言うなら仕方ない。ほら、新人。来い。」
「じゃあ私は、患者の治療が残ってるので失礼しますね」
ルイは先早に去っていった。
「ティナさんはこれからどうする?」
「ほう。とりあえず重要書類の見直しですかな。」
「成る程。では頑張って下さい。」
「あの、御手洗いに」
「新人。黙れ。」
(酷い)
ティナも何処かに行き、ギリナと僕だけになる。
「御手洗いに連れてってやる。感謝しろ。そして覚えろ。」
「は、はい」
僕はギリナの後ろをついて行くように歩いた。
「ほら、念願の御手洗いだ」
「ありがとう。じゃあ行ってきます。」
僕は素早くトイレに駆け込んだ。
「助かったー」
その後、用を足した僕はギリナがいる場所へと行った。すると、真剣な顔つきでギリナは話し始める。
「お前の配属だが、フェルア様から先程ご連絡があった。A班の所属だ。足手まといになったら見捨てるから覚悟しておけ」
「そんな無茶言わないで。新人だよ?」
僕はギリナに寂しそうな目で見つめる。
「クズか。お前は」
ガーン。
「ごめんなさい」
「お前の寝るところはA班の宿舎だ。先に行け。」
「わかりません!」
「これだから新人は嫌なんだ」
右後方から新屋田が歩いてきた。口角が上がった優しい表情で。
「ギリナ。椎名とは上手くいきそうか?」
「いらない。」
「ま〜た。また。嘘をつくな。これはいい物だぞ。」
「物ならここに置いておくな。邪魔だ。」
「ギリナ。椎名が泣きそうだ。やめてやれ。」
「泣かないよ。てか物扱いしないでよ。一応人間ですし」
新屋田はギリナにひそひそと話しをする。
「フェルア様がお呼びだ」
「了解。では、新屋田副団長は?」
「これから任務だ」
「成る程。頑張って下さい。」
新屋田は頷くと、何処かに消えていった。
「あの、なんの話ですか?」
「丁度いい。お前も一緒に連れていく。」
ギリナはそう言って僕の腕を掴む。
「どこに?」
「団長のところだ」
その場から3分程の距離を移動。ドアを軽く3回叩く。
「フェルア団長。ギリナです」
「入れ」
ドアノブを回し、部屋の中へと入る。部屋の中は、本棚。紅葉の木が描かれた絵。机と椅子。
(フェルア?もしかして)
そして僕の思ったとおり、屋敷で会ったあの人がいた。
「ギリナの隣にいるのは誰かな?」
「はい。今日からA班に配属された新人です。ほら、団長に挨拶しろ」
「えーと。フェルアさん。お屋敷にいたはずでは?」
するとフェルアは苦笑いしつつ僕を見る。
「あー。そういえばお屋敷で会ってたね。制服着てたからわからなかったよ」
ギリナが僕の横で。
「ちっ。」
「ギリナさん。なにかありますか?」
「団長に失礼だ。気安く話すな」
「まぁまぁ。ギリナ。新人なら許してやれ。」
「団長がそう言うなら」
フェルアは椅子から立ち上がり、僕とギリナの前に移動する。
「A班に任務を与えたい。やる事は簡単。蒼い星に進入した者の捕獲すること」
「はい。わかりました。一応ついでにお聞きしますが新屋田副団長については?」
「新屋田はSクラスの進入者と対峙して追い返す任務だ。」
「やはりか。副団長でもSクラスの女は辛くないですかね?」
「戦えるのが新屋田くらいだから仕方ない。」
そう言ってフェルアは軽い咳払いをした。ギリナは口を閉じる。僕は頭にハテナマークが一杯だ。
「場所はここからすぐの草原だ。早めに向かってくれ。」
「新人はどうすれば良いでしょうか?」
「連れてってやれ。実戦あるのみ」
「ちょっと待って下さい。女の子と戦うんですか?」
「そうだ。新人は無茶するなよ」
ギリナの一言で僕はわかった。戦う相手が。
「嫌です。」
「うーん。そうきたか。では、戦わなかったらこの星が滅ぶ、と言ったらどうする?」
「それは・・・」
「新人、言い分は後にしろ。行くぞ」
僕は半端無理やり任務に参加する形になった。
「失礼しました。」
ドアを開閉。
「僕、女となんて戦いたくない。」
「ならどうしたいんだ?」
「一緒に平和を目指せば・・・」
「それは出来ない。」
コトコト
「ギリナ部隊長。待っていました。」
「早く行こうぜ。」
僕の前に現れた2人の男。
「よし。揃ったな。ちなみに紹介しておく。隣にいるのは今日からこの部隊に配属された新人だ。」
「おぉ。新人か。懐かしいなぁ。で、俺の名前はラキ。隣の真面目野郎はタヌキだ」
「タヌキではありません。」
「えーと。椎名 遥です。」
自己紹介を終えると、僕たちは進入者のいる草原に向かった。
***
生えている草群を踏み、草原を進む。
「ラキ、ミシカ。左右警戒。新人は私から離れるな。」
「「 了解! 」」
「は、離れません。」
すると前から3人の女が現れる。
「ギリナさん。あの人たちが持ってるのはなに?」
「フェアリーハート。男を女に変えてしまう銃らしい。喰らったことないけどな」
「よし、かかれ!」
ラキとミシカが素早く左右に散り、目標に向かっていく。
「おりゃあ!」
ラキはミシカより早く女のいる場所に着く。そして跳躍しながら腰に下げていたレイピアを引き抜き、攻撃を繰り出す。
「あぁ!」
1人の女が叫び声を上げながら倒れる。
「ラキ!どの刀質でやった?」
「α1の木質だ。」
そしてミシカはラキより遅れを取ってしまったが、レイピアを引き抜き様に1人の女に一閃する。
命中。地面へと倒れこんだ女。
「さて、あとは私がやる。」
「りょーかい隊長。」
そしてギリナは走りだす。
「ま、まって。私の負け。助けて」
残った女が命乞いをしている。しかし、ギリナは容赦がなかった。女の目の前まで迫ると、走るのを止めてレイピアをゆっくり引き抜いた。
「まずは厄介なこの銃を」
ギリナはレイピアをフェアリーハートを目掛けて振り下ろし、真っ二つに割る。
「あとお前。起きてると面倒だから気絶していろ。」
ギリナはレイピアの刀質を変化させる。
α1の木質。
「終わりだ」
「キャー!」
女は地面に倒れ込んだ。
「これで全部か?」
「いえ、隊長。あの茂みがなんか怪しいです。」
「そうか。じゃあ行ってみよう。ラキ。お前が先頭に行け。」
「おうよ」
ラキとミシカはレイピアを収める。ギリナはレイピアを持ったまま歩く。
「あの、遥さん。」
「えと、なんですか?」
僕に話しかけてきたミシカ。
「戦えそうですか?」
ミシカはギリナやラキとは違い、優しい言葉使いの青年だった。他の男とは違う雰囲気が僕の心を和ませる。
「えと、やっぱり戦わなければいけないのかな?」
「そうですね。このような戦いがもう20年も続いてますし。」
ミシカは昔話を始める。
「そうですね。この戦いが始まる20年前。まだ自分が生まれていなかった頃」
20年前。
まだ蒼の星と紅の星が平和だった時のある日。紅の星の女帝ミララが何者かに暗殺されました。紅の星に住む人は皆が悲しみ、嘆いた。しかし、そのミララの近くに蒼の星でしか取れない鉱物が発見された。それがこの戦いの引き金となった。当然、紅の星の人は男を恨み敵対心を宿した。
「それでその蒼の星でしか取れない鉱物。それは今、蒼き防衛団のレイピアに使われています。」
「これがそうなの?」
僕は自分の腰に下げてあるレイピアに触れる。冷たい。
「ギリナ隊長みてくれ。」
ラキが茂みをかき分ける。その近くで新屋田が女と戦闘をしていた。
「任務場所が近かったみたいだな」
「そうみたいですね。」
ミシカが相槌をうつ。
新屋田と女の戦闘。
「うぉぉ!!」
新屋田は力任せにレイピアを振るい下ろす。女は後ろに跳躍し、距離を取る。
「中々やるわね」
「当たり前だ。これでも一応副団長をやっているんでな」
新屋田は力強く地面を右足で蹴り、女との距離を一気に縮める。
「β1、鉄質!」
するとレイピアが灰色へと変色する。
「もう、終わりにしましょう。」
「同感だ!」
女はフェアリーハートを3連射する。ハート型の弾丸が新屋田へと向かっていく。
「こんな物は効かん!」
新屋田は弾丸を肩のスレスレで避け、レイピアを回転させながら振るう。
ハート型の弾丸は真っ二つに割れ、減速して地面に落ちる。
「ま、まずいわ」
女はキョロキョロし始める。なにかを探しているのか。
「どこをよそ見している。諦めたのか!」
新屋田は素早く女の後ろに周り込み、レイピアで背中の真ん中辺りを突く。
見事に命中。女の背中を貫通する。
女は地面に伏し、笑みをこぼしながら。
「ここでやられても、まだたくさんいるから。私は・・・お先に失礼させてもらいます。ミララ様。」
女は目を閉じ、動かなくなった。新屋田はレイピアを収め、くるりと回る。
「さぁ、帰るか。」
「待って下さい。」
僕たちA班は戦闘を終えた新屋田に駆け寄る。
「ん、任務場所が近かったのか?」
「そうですね」
「ふん。生意気な。でもな。戦場ではいつも危険がつきまとう。油断だけは絶対するなよ」
「当たり前だ。」
ギリナは表情を緩め、口元がにやける。
(新屋田ってこんなに強かったんだ)
僕は少し新屋田のことを見直した。最初に会った時はお姫様だっこされてびっくりした。ただの変態だと思ってた。
ラキが新屋田に話かける。
「今回の任務は楽勝だったぜ」
「ラキには楽勝だったろうな」
ザッ。
「では、蒼の防衛団基地に帰還する。」
「「はい!」」
新屋田とA班は蒼の防衛団基地へと向かっていった。
ドアをノックする。
「新屋田です。」
「ギリナです。」
「入れ。」
ガチャン。
無事に任務を終えたA班と新屋田は、フェルア団長に戦闘の末を報告した。
「ご苦労様。こんな任務は楽勝だったでしょう。」
新屋田は。
「少し手こずりましたが勝てました。」
「はい。同じくA班も勝てました。」
僕はラキの後ろで話を聞いている。
「今日は疲れたでしょう。休んで下さい。」
「お言葉に甘えされていただきます。フェルア様」
「ありがとうございます。」
新屋田とギリナは頭を下げる。
そのあと、A班と新屋田は部屋を出て、一言交わした後に別れた。
Two feelings
2章 終