top of page

16/1/25

Two feelings 2章[蒼い希望]

Image by Olia Gozha


「ほら、新入りを紹介する!一旦集まれ。」


蒼き防衛団の基地内。新屋田の声が響き、作業などを行っている人が手を止め集まってくる。


「ほら自己紹介しろ。」


「え?意味がわからないよ。」


「名前と意気込みを言うだけだ。簡単だろう」


「そっちじゃない!」


反論は虚しく、新屋田に無視された。蒼き防衛団の人たちが全員集まり、静かになる。


(これ、もう逃げられないよね)


「え、え〜と。その、椎名 遥です。よろしくお願いします」


すると蒼き防衛団の人たちが一斉に拍手する。


「おう!よろしくなー」


「ちびすけ。しっかりやれよ!」


(ちびじゃないし!)


そして新屋田は僕の右肩をポンと叩き、こう言う。


「あとは彼奴らに任せる。わからないことあったら聞いておけ。」


(無責任なッ!)


と思ってしまう僕だが、仕方ない。しぶしぶとその場から離れた。


すると、前方から蒼き防衛団の人が3人僕に近づいてきた。


眼鏡を掛け、歳が60くらいの人。蒼き防衛団の制服は着ていない。


もう1人は、制服の上に白衣を着用している40歳くらいの人。右目が蒼い。


「博士のティナだ。よろしくな」


「医師のルイです。よく会うと思うのでよろしく。」


3人目。どこからどうみても蒼き防衛団の人。20歳くらい。


「蒼き防衛団A班の部隊長、ギリナだ。どこの班に行くかは知らんがよろしく。」


「あの、すいません。御手洗いはどこに?」


「ギリナ。連れてってやれ。」


「ちっ。ティナがそう言うなら仕方ない。ほら、新人。来い。」


「じゃあ私は、患者の治療が残ってるので失礼しますね」


ルイは先早に去っていった。


「ティナさんはこれからどうする?」


「ほう。とりあえず重要書類の見直しですかな。」


「成る程。では頑張って下さい。」


「あの、御手洗いに」


「新人。黙れ。」


(酷い)


ティナも何処かに行き、ギリナと僕だけになる。


「御手洗いに連れてってやる。感謝しろ。そして覚えろ。」


「は、はい」


僕はギリナの後ろをついて行くように歩いた。


「ほら、念願の御手洗いだ」


「ありがとう。じゃあ行ってきます。」


僕は素早くトイレに駆け込んだ。


「助かったー」


その後、用を足した僕はギリナがいる場所へと行った。すると、真剣な顔つきでギリナは話し始める。


「お前の配属だが、フェルア様から先程ご連絡があった。A班の所属だ。足手まといになったら見捨てるから覚悟しておけ」


「そんな無茶言わないで。新人だよ?」


僕はギリナに寂しそうな目で見つめる。


「クズか。お前は」


ガーン。


「ごめんなさい」


「お前の寝るところはA班の宿舎だ。先に行け。」


「わかりません!」


「これだから新人は嫌なんだ」


右後方から新屋田が歩いてきた。口角が上がった優しい表情で。


「ギリナ。椎名とは上手くいきそうか?」


「いらない。」


「ま〜た。また。嘘をつくな。これはいい物だぞ。」


「物ならここに置いておくな。邪魔だ。」


「ギリナ。椎名が泣きそうだ。やめてやれ。」


「泣かないよ。てか物扱いしないでよ。一応人間ですし」


新屋田はギリナにひそひそと話しをする。


「フェルア様がお呼びだ」


「了解。では、新屋田副団長は?」


「これから任務だ」


「成る程。頑張って下さい。」


新屋田は頷くと、何処かに消えていった。


「あの、なんの話ですか?」


「丁度いい。お前も一緒に連れていく。」


ギリナはそう言って僕の腕を掴む。


「どこに?」


「団長のところだ」


その場から3分程の距離を移動。ドアを軽く3回叩く。


「フェルア団長。ギリナです」


「入れ」


ドアノブを回し、部屋の中へと入る。部屋の中は、本棚。紅葉の木が描かれた絵。机と椅子。


(フェルア?もしかして)


そして僕の思ったとおり、屋敷で会ったあの人がいた。


「ギリナの隣にいるのは誰かな?」


「はい。今日からA班に配属された新人です。ほら、団長に挨拶しろ」


「えーと。フェルアさん。お屋敷にいたはずでは?」


するとフェルアは苦笑いしつつ僕を見る。


「あー。そういえばお屋敷で会ってたね。制服着てたからわからなかったよ」


ギリナが僕の横で。


「ちっ。」


「ギリナさん。なにかありますか?」


「団長に失礼だ。気安く話すな」


「まぁまぁ。ギリナ。新人なら許してやれ。」


「団長がそう言うなら」


フェルアは椅子から立ち上がり、僕とギリナの前に移動する。


「A班に任務を与えたい。やる事は簡単。蒼い星に進入した者の捕獲すること」


「はい。わかりました。一応ついでにお聞きしますが新屋田副団長については?」


「新屋田はSクラスの進入者と対峙して追い返す任務だ。」


「やはりか。副団長でもSクラスの女は辛くないですかね?」


「戦えるのが新屋田くらいだから仕方ない。」


そう言ってフェルアは軽い咳払いをした。ギリナは口を閉じる。僕は頭にハテナマークが一杯だ。


「場所はここからすぐの草原だ。早めに向かってくれ。」


「新人はどうすれば良いでしょうか?」


「連れてってやれ。実戦あるのみ」


「ちょっと待って下さい。女の子と戦うんですか?」


「そうだ。新人は無茶するなよ」


ギリナの一言で僕はわかった。戦う相手が。


「嫌です。」


「うーん。そうきたか。では、戦わなかったらこの星が滅ぶ、と言ったらどうする?」


「それは・・・」


「新人、言い分は後にしろ。行くぞ」


僕は半端無理やり任務に参加する形になった。


「失礼しました。」


ドアを開閉。


「僕、女となんて戦いたくない。」


「ならどうしたいんだ?」


「一緒に平和を目指せば・・・」


「それは出来ない。」


コトコト


「ギリナ部隊長。待っていました。」


「早く行こうぜ。」


僕の前に現れた2人の男。


「よし。揃ったな。ちなみに紹介しておく。隣にいるのは今日からこの部隊に配属された新人だ。」


「おぉ。新人か。懐かしいなぁ。で、俺の名前はラキ。隣の真面目野郎はタヌキだ」


「タヌキではありません。」


「えーと。椎名 遥です。」


自己紹介を終えると、僕たちは進入者のいる草原に向かった。


***


生えている草群を踏み、草原を進む。


「ラキ、ミシカ。左右警戒。新人は私から離れるな。」


「「 了解! 」」


「は、離れません。」


すると前から3人の女が現れる。


「ギリナさん。あの人たちが持ってるのはなに?」


「フェアリーハート。男を女に変えてしまう銃らしい。喰らったことないけどな」


「よし、かかれ!」


ラキとミシカが素早く左右に散り、目標に向かっていく。


「おりゃあ!」


ラキはミシカより早く女のいる場所に着く。そして跳躍しながら腰に下げていたレイピアを引き抜き、攻撃を繰り出す。


「あぁ!」


1人の女が叫び声を上げながら倒れる。


「ラキ!どの刀質でやった?」


「α1の木質だ。」


そしてミシカはラキより遅れを取ってしまったが、レイピアを引き抜き様に1人の女に一閃する。


命中。地面へと倒れこんだ女。


「さて、あとは私がやる。」


「りょーかい隊長。」


そしてギリナは走りだす。


「ま、まって。私の負け。助けて」


残った女が命乞いをしている。しかし、ギリナは容赦がなかった。女の目の前まで迫ると、走るのを止めてレイピアをゆっくり引き抜いた。


「まずは厄介なこの銃を」


ギリナはレイピアをフェアリーハートを目掛けて振り下ろし、真っ二つに割る。


「あとお前。起きてると面倒だから気絶していろ。」


ギリナはレイピアの刀質を変化させる。


α1の木質。


「終わりだ」


「キャー!」


女は地面に倒れ込んだ。


「これで全部か?」


「いえ、隊長。あの茂みがなんか怪しいです。」


「そうか。じゃあ行ってみよう。ラキ。お前が先頭に行け。」


「おうよ」


ラキとミシカはレイピアを収める。ギリナはレイピアを持ったまま歩く。


「あの、遥さん。」


「えと、なんですか?」


僕に話しかけてきたミシカ。


「戦えそうですか?」


ミシカはギリナやラキとは違い、優しい言葉使いの青年だった。他の男とは違う雰囲気が僕の心を和ませる。


「えと、やっぱり戦わなければいけないのかな?」


「そうですね。このような戦いがもう20年も続いてますし。」


ミシカは昔話を始める。


「そうですね。この戦いが始まる20年前。まだ自分が生まれていなかった頃」


20年前。


まだ蒼の星と紅の星が平和だった時のある日。紅の星の女帝ミララが何者かに暗殺されました。紅の星に住む人は皆が悲しみ、嘆いた。しかし、そのミララの近くに蒼の星でしか取れない鉱物が発見された。それがこの戦いの引き金となった。当然、紅の星の人は男を恨み敵対心を宿した。


「それでその蒼の星でしか取れない鉱物。それは今、蒼き防衛団のレイピアに使われています。」


「これがそうなの?」


僕は自分の腰に下げてあるレイピアに触れる。冷たい。


「ギリナ隊長みてくれ。」


ラキが茂みをかき分ける。その近くで新屋田が女と戦闘をしていた。


「任務場所が近かったみたいだな」


「そうみたいですね。」


ミシカが相槌をうつ。


新屋田と女の戦闘。


「うぉぉ!!」


新屋田は力任せにレイピアを振るい下ろす。女は後ろに跳躍し、距離を取る。


「中々やるわね」


「当たり前だ。これでも一応副団長をやっているんでな」


新屋田は力強く地面を右足で蹴り、女との距離を一気に縮める。


「β1、鉄質!」


するとレイピアが灰色へと変色する。


「もう、終わりにしましょう。」


「同感だ!」


女はフェアリーハートを3連射する。ハート型の弾丸が新屋田へと向かっていく。


「こんな物は効かん!」


新屋田は弾丸を肩のスレスレで避け、レイピアを回転させながら振るう。


ハート型の弾丸は真っ二つに割れ、減速して地面に落ちる。


「ま、まずいわ」


女はキョロキョロし始める。なにかを探しているのか。


「どこをよそ見している。諦めたのか!」


新屋田は素早く女の後ろに周り込み、レイピアで背中の真ん中辺りを突く。


見事に命中。女の背中を貫通する。


女は地面に伏し、笑みをこぼしながら。


「ここでやられても、まだたくさんいるから。私は・・・お先に失礼させてもらいます。ミララ様。」


女は目を閉じ、動かなくなった。新屋田はレイピアを収め、くるりと回る。


「さぁ、帰るか。」


「待って下さい。」


僕たちA班は戦闘を終えた新屋田に駆け寄る。


「ん、任務場所が近かったのか?」


「そうですね」


「ふん。生意気な。でもな。戦場ではいつも危険がつきまとう。油断だけは絶対するなよ」


「当たり前だ。」


ギリナは表情を緩め、口元がにやける。


(新屋田ってこんなに強かったんだ)


僕は少し新屋田のことを見直した。最初に会った時はお姫様だっこされてびっくりした。ただの変態だと思ってた。


ラキが新屋田に話かける。


「今回の任務は楽勝だったぜ」


「ラキには楽勝だったろうな」


ザッ。


「では、蒼の防衛団基地に帰還する。」


「「はい!」」


新屋田とA班は蒼の防衛団基地へと向かっていった。


ドアをノックする。


「新屋田です。」


「ギリナです。」


「入れ。」


ガチャン。


無事に任務を終えたA班と新屋田は、フェルア団長に戦闘の末を報告した。


「ご苦労様。こんな任務は楽勝だったでしょう。」


新屋田は。


「少し手こずりましたが勝てました。」


「はい。同じくA班も勝てました。」


僕はラキの後ろで話を聞いている。


「今日は疲れたでしょう。休んで下さい。」


「お言葉に甘えされていただきます。フェルア様」


「ありがとうございます。」


新屋田とギリナは頭を下げる。


そのあと、A班と新屋田は部屋を出て、一言交わした後に別れた。


Two feelings

2章 終



←前の物語
つづきの物語→

PODCAST

​あなたも物語を
話してみませんか?

Image by Jukka Aalho

急に旦那が死ぬことになった!その時の私の心情と行動のまとめ1(発生事実・前編)

暗い話ですいません。最初に謝っておきます。暗い話です。嫌な話です。ですが死は誰にでも訪れ、それはどのタイミングでやってくるのかわかりません。...

忘れられない授業の話(1)

概要小4の時に起こった授業の一場面の話です。自分が正しいと思ったとき、その自信を保つことの難しさと、重要さ、そして「正しい」事以外に人間はど...

~リストラの舞台裏~ 「私はこれで、部下を辞めさせました」 1

2008年秋。当時わたしは、部門のマネージャーという重責を担っていた。部門に在籍しているのは、正社員・契約社員を含めて約200名。全社員で1...

強烈なオヤジが高校も塾も通わせずに3人の息子を京都大学に放り込んだ話

学校よりもクリエイティブな1日にできるなら無理に行かなくても良い。その後、本当に学校に行かなくなり大検制度を使って京大に放り込まれた3兄弟は...

テック系ギークはデザイン女子と結婚すべき論

「40代の既婚率は20%以下です。これは問題だ。」というのが新卒で就職した大手SI屋さんの人事部長の言葉です。初めての事業報告会で、4000...

受験に失敗した引きこもりが、ケンブリッジ大学合格に至った話 パート1

僕は、ケンブリッジ大学トリニティ・カレッジ、政治社会科学部(Social and Political Sciences) 出身です。18歳で...

bottom of page