3月のベッドの中で、私は動けなかった。
全身の力が完全に抜け切っていた。
布団の隙間から差してくる光は、思ったより力強かった。
目が差し抜かれるような痛い光だった。
季節は着実に春になっていた。
大学受験に落ちた。
全く予想外だった。
高望みもせず、確実に受かるところしか受けなかった、はずだった。
想定外という衝撃が10代の私を貫いていた。
昼間になれば、冬支度の布団は暑過ぎた。
出ていくしかない。
でも、どこへ行けばいい。
とりあえずの予備校が決まって、とりあえずの来年度が決まった。
その日の夕方、母親に促されて、父親の事務室に向かった。
自宅と一体になった仕事場の事務室では、父親がいつもと変わらずパソコンに向かって製図を書いていた。
母親がその隣の事務席に座り、私は向かいの小さな応接セットの椅子に座った。
これからどうするか親に話さなければならない。
沈黙が重かった。
父はいつものとおり何も話しださなかった。
話し出すのは、いつも母の方だった。
私は母にまた促され、息を吐き出すように切り出した。
「・・生活費は、バイトとかして何とかしたい。」
予備校に行くのには金がかかる。
学費、寮費。とても学生の私の手に負える額ではない。
自分のために親に余分に金を払わせる。
その事実が自分の壊れかけの自尊心をやりたい放題につぶしていく。
私の言葉は、そんな自分の精いっぱいの見栄だった。
生活費なんてどの程度かかるのか、何にもわかっちゃいなかった。
ただ、自分のちっぽけで消えかけている何かを必死に守りたかった。
もうこんな自分のことは放っておいて欲しい。
この悲しみを誰がわかるものか。
どうにでもなれ、知ったことか、で構わないよ。
私が私自身のことをそう思っているように。
「ふざけるな!」
そう怒鳴ったのは父だった。
私はその大声に押されて、ふっとその場に返った。
普段そうは怒鳴ることのない、口数の少ない父。
新鮮な驚きがその場の静けさを一層深めた気がした。
「・・バイトなんてして、勉強の方はどうするんだ!・・・・・・・・・・お金のことは、心配するな、お前は、一生懸命にやりなさい」
まさに雷に打たれたようだった。
何かが言葉や声を超えて、自分を強く揺さぶっていた。
お金を工面してくれることは、正直有難かった。
でも、それ以上に本当に有難かったのは、
「この人は私をまだ信用してくれている」
ということだった。
今思えば、大学に落ちたくらいで、しょげて、ひねて、落ち込みにおちこんで、つまらない見栄を張るくらいしか能のない自分を、この人はまだ心から信頼している。
それが10代の私には、信じられなくて、有難くて仕方なかった。
ただ、頭を下げるしかなかった。
向こうで母のすすり泣きが聞こえた。
親って、こういうことなんだ。
父も母も、私の親なんだ。
親を自分か自分以上に悲しませている。
何とか、なんとかしなくてはならない。
そのおもいが、自分のギリギリのところを少しだけ持ち直させた。
今思っても、あの言葉がなければ、と思う。
恥ずかしながら私が親を初めて親だと認識し、足を向けては寝られないと感じた。
忘れられない。