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16/3/5

日本では絶対味わえなかった、心を通わせる、アンドリューの話。

Image by Olia Gozha

「おれたちは、◯◯ ダロウ?」





無料で海外に行ける。期間は、3週間。あなたはどこで、何をする?



これは僕が17歳の時の話。




もし、ででーん、と天使のようなおっさんが、空から舞い降りてきて「無料で海外に行けるぞ!しかも3週間。どこ行く?」と言われたら、あなたは、どこに行くだろうか?






おっさんの事は突っ込まずに、すぐさま、色々な国々が駆け巡るだろう。そして、様々なスポットを思い浮かべるだろう。






ヨーロッパもいい。またはアジアを周遊するのはどうだろうか?はたまた、インドなどに行き、修行のように自分探しをするのもありだろう。






それも、無料で。






そうなのだ。僕は無料で海外に行くことになった。しかも全国選抜で。・・というと、聞こえが良いのだが、まぁ恐らく(これは分からないけど)高校の方で上手に選んでくれたのだと思っている。






ことの発端は、僕がとある部活にいたことと、3人いた顧問の先生のうち、2人が英語科だったことがきっかけだったりする。






I先生「ニシカツくん、英語好き?」

「はい・・好きです・・けど?どーしました?」

I先生「海外とか行かない?」

「(んな、唐突な!)へ?」

I先生「こんなのあってね。」





この先生が、のちに僕に「ホリエモンみたいになれ」といった人である。ちなみに僕の当時の将来の目標は「公務員」だった。






それを言われた時に、「ホリエモン?誰?」という位、ただ勉強と部活しかしていなかった、ただの真面目くんだった。






さて、行き先は・・というと、天使のようなおっさん話とはちょっと違って、選べずに決まっていた。超大国、アメリカ。しかも東海岸のニューヨークやらワシントンやらといった、おしゃんてぃーな街並みが彷彿とされるようだ。






「いや〜先生に言われたものの・・どうすんねん?英語とか、自信ないし。確かに海外興味あるけど、親は・・?」



と、思いながら、両親に相談してみると・・




母さん「あら、いいじゃない!あなた受験ないんだし、行ってきなさいな!」

「かるっ!」

親父「おう、いけいけ〜。ちょうど夏休みだろ?やることないんだし、いいじゃん。」

「まじか!」

母さん「そうと決まったら、英語の勉強ね〜そういえば◯◯(地元)に、いい英会話教室あったよ〜」

「展開はやっ!まだ決まってないお。」




ということで、両親も試験もパス。色々とトントン拍子に決まったわけだ。ありがたい。





いざ、アメリカ・・。




飛行機に揺られ、ついた。日本よりも大雑把な芝生に出迎えられる。






ちなみに、どんな日程かというと、まずは日本メンバー40名と、ワシントンDCやニューヨークに行き、有名どころへ表敬訪問をするって話。これが1週間くらい。







その後、現地の高校生の家へ行き、ホストファミリーと、交流&何泊かの宿泊。







その後、超がつくほどの、とある有名大学へ、夏休みの期間を使って、2週間くらいの、アクティビティー(という名の英会話の勉強やスポーツ)をする。







そして、その大学の寮を使って、ホストファミリー先の現地高校生と、ルームシェアをするって流れ。留学経験などについては、3週間しかしていないし、正直、英語については全くなもんで(汗)語ることは考えていない。







もちろん、3週間の中身の充実度は、本当に素晴らしいもので、17歳の僕には勿体ないくらいの旅程だった。本当に関係者の方や、紹介してくださった先生には感謝している。







ただ、その内容以外に、僕は本当に感動し、これがないと今の自分がいないといった感覚があって、恥ずかしながらその事を、あなたに共有したい。







それは、僕のルームメイトである、アンドリューのことだ。こいつのことを語ると、本当に、当時の自分の凍っていた心の中を溶かすような奴だったんだと今更になって、思う。






前置きが長くなった。続きを語ろうと思う。




1.KY




アンドリュー「3.2.1…FOOTBALLLLLL!!!!!!!!!!!!YEAHHHHHHHHHHH!!!!!!!!!!!!」




これ、アカンやつだ。真面目系にはムリなやつだ。






確かあれは、表敬訪問のバスツアーが終わって、ホストファミリーと初めて会うときの、ウェルカムパーティーだった。





アンドリュー御一行は、男たちでテーブルを囲い、そんな風にしてテンションを上げていた。








来ちゃったよ米の国。あぁ、若気のいたり。ノリとは怖いものだ。でもテンションで乗り切るしかない。3週間だし。










アンドリュー「ユざル~はー、ボクとLove Loveなんだぁ〜」

「せやな、うん、せやな。俺、関東人。」









僕の英語力のなさを、日本のスタッフの方が気を使ってくれたのか、ルームメートであり、ホストファミリーとして出迎えてくれたアンドリューは、相当、日本語をしゃべれた。日常会話ではあんまり苦労しない。








聞くに、彼は、中学と高校のクラスで日本語を学ぶクラスがあるらしく、それを選択していたという。








隣に一緒にいると、別に日本にいる時と、さほど変わらないような感じだ。





「(ん~滑り出しは順調なのか?でも俺、英語学びに来たんだよな?)」






そんなことを思いつつ、車に乗せられてバージニアの彼の自宅でしばしホームステイ。








日本のメンバーと一緒に、バスツアーを一週間組んでいたから、そのメンバーと離れるのは寂しかったけど、正直、何が何だかわからないテンションは続いているから、どうにでもなれって感じだった。







ついた。そこは豪邸。


写真は違うけど、こんなくらいデカかった。すげーよ。アンドリュー。 






ふっかふかのベッドと、1つの部屋に、シャワー室とトイレもあった。え、これって当たり前なの?いや、裕福なおうちなんでしょうよ。





アンドリュー「コマったことがあったら、なんでもいってクレヨ!お前と俺はとーもだちだロウ?」

「うん、ありがと!・・ありがと。」





今日は疲れたから・・・というか、怒涛の旅程で、先に寝かせてもらった。だけど、正直考えることがたくさんあった。











「(ちょっとは、空気読んでくれ・・)」







疲れもピークだったこともあるけれども、僕はなんとなく、日本人独特の「間」がないところに正直、嫌気がさしていた。








もちろん、お母さんにもお父さんにも、良い顔を見せないと・・と思っているんだけれども、アンドリューには不思議なもので。







なぜかそういう、自分の心の中にあるストレートな表現も、自分の中からスルスルと出てきてしまうのだった。







2.インファイター・アンドリュー



ホームステイの期間が終わり、今度は、大学での、約2週間のプログラムが始まった。午前中は英語の習熟度別にレッスンを受けて、午後はアクティビティーをするって感じ。






ルームメイトと仲良くする顔を合わせる機会も多いし、これからは、一緒に同じ部屋で過ごす。アンドリューとはキャンパス内で、頻繁に会っていた。






アンドリュー「ユズル~と、ボクはLove Loveなんだぁ~ケッコンするんだよねー!」

「もーうっさいって!もう、やめろってば!」






周りのみんなは、うちらの掛け合いによく笑っていた。僕は恥ずかしかった。下ネタもよく言ってたっけ。





友達「アンドリューとジョーは、本当の兄弟みたいだね!」






そうそう。僕はアメリカのみんなにも呼ばれやすいように・・と、「ジョー」とニックネームをつけていた。






だからみんな僕のことは、ジョーって呼んでいた。でも、なぜか、アンドリューだけは、僕の名前をそのまま「ユズル〜」と、呼んでくれていた。







アクティビティーも終盤にかかってきたある日のこと、慣れない言語と、ずっと一緒にいるメンバーとで、楽しくはあるけど、正直ストレスを感じていた。






そして、アンドリューに対して、言葉がもれてしまった。




「もう、アンドリュー!!空気読めない!」



イライラして、思わず爆発してしまった。





アンドリュー「空気読めないってナンダ?」

「ああ~難しいな!コミュニケーションが取りづらいってこと!」





それを聞いたアンドリューは、ちょっとしゅんとしていた。





「(ちょっとは反省しろ・・!)」





僕は少しすっきりしたものの、なんとも後味が悪い日になってしまったことを覚えている。






アンドリューはテンションが高くて、お調子者。みんなの人気者でもあった。日本語もしゃべれるから、特に日本の仲間たちからは「アンドリューがルームメイトでいいよな」って言われていた。




いやいや、あのテンションにずっといるのは、ホント無理だってば・・






そこらへんから、アンドリューも何か接し方に気をつけるようになっていったと思う。






アンドリューは外で楽しげな雰囲気を見せるけれど、2人になると気を使ってくれているのか、静かにするように「もう寝ルカ?」と接してくれていた。「うん、ありがと。おやすみ・・」そんな日々が続いていた。







戸惑いの理由。






自分で言うのも難だけど、僕は普段、そんなに怒るようなやつじゃあない。友達ともある程度、なあなあに過ごしていた。





別にいじめられてもない。あんまり目立たない、普通の高校生。





ただ、アンドリューと接していて、頑なに閉ざしていた、心が溶け始めているのを、気づき始めた。





僕は、要領はむっちゃ悪いけど、人並み以上に、勉強はしてきた。それでいい高校に行って、今こうしてアメリカにいる。





それは嬉しいこと。でも、それで失っちゃっていたものが、どうやら人との距離感みたいだった。







がむしゃらに今までやってきて、本当に、学校の成績のことと、学校の役職のこととか、部活のことくらいしか、頭になかった。









僕の高校は私服だったから、人並みにおしゃれは気にしていたけど、なんていうか、距離感のつかみ方はずっと分からなくて、どこか孤独感を感じていた。






小学生の友達「ユズルはいつーもガリガリ(ガリ勉)くん♬」

小さい頃の僕「そ、そんなことねーよ!(寂しい)」





友達もいる。上手に人付き合いもしている・・つもり。だけど、「頭のいい自分」「出来る自分」では、なくなるのが、怖くて、居場所を取り上げられたくなくて、すごいすごい、必死。






適度な距離感で、自分のテリトリーに人を入れたくない、邪魔をされたくないと思っていた。








もしかしたら、遠巻きに僕のことを見ている、日本の友達は結構いたのかもしれないし、僕が答えていなかっただけなのかもしれない。







だから、もやもやして、アンドリューに対して「あいつは空気が読めない」とブロックをしていたんだと思う。でも彼は、これでもかというくらい、入ってくる。やつは、ボクサーで言う、インファイターなんだ。








アンドリューは、僕のテリトリーに「コンコン」とたくさんノックをしてくれた。








それに応えられず「うるさい」「もっといい叩き方をしろ」「静かにしてくれ」って、僕はドアを開けなかったんだ。








怖かった。そんな風に友達になれるのか・・。見栄をはる僕の裏側に、不安と恐怖が止まらない。







「ユーざルーー」

「違うよ、ゆ・ず・る!」

「Oh!ゆーズる〜〜〜」

「・・うん、そんな感じ(笑)」





・・・・・・






「アンドリューはバカだなぁ!」

「ウッセー、おまえもナ!!」





毎日のやり取りが、目に浮かんでくる。







そして、いつの間にか僕は、その、もやもやを言えないまま、彼と離れる時を迎えてしまう。




4.お別れのハグ・・そして。



そして、あっという間に3週間の終わりの日。





その日は、みんなでフェアウェルパーティーをして、その後キャンパスの広場に集まって、円を囲んだ。





暗い夜。周りは黄色い明かりを灯していた。キャンドルを持つ。厳粛な感じ。なぜかその時は、この時間が終わることが、全然よくわかっていなかった。










次々に他の日本人の仲間と、そのルームメイトとのアメリカ人が呼ばれる。








そして、日本とアメリカの国旗を持って、お互いに交換をし、ハグをしていった。







仲間は、それぞれの想いを秘めて、力強くハグをし、また二人となって色々な語らいをしていた。






スタッフさん「ユズル・アンドリュー」






スタッフの人に呼ばれ、厳粛な面持ちでいった。







アンドリューと目があった。互いにTシャツを着て、あたりはシンとしていた。そしてハグをする。







その瞬間。走馬灯のように、彼との思い出が蘇る。








溢れて止まらないものが、ここぞとばかりに、たくさん出てくる。







とまれ!とまれ・・。







でも、止まらないほど、溢れてくる想い。。。







こんなに愛をくれて、どうして自分は感謝の一つも、心から言えなかったんだろう。







どうして、何も言えずにつっけんどんな態度を取ってしまったんだろう・・








どうして・・どうして・・今なら、間に合う・・







そして。












気づいたら、僕は彼の肩をびしょびしょに、濡らしていた。











そして、誰の目もはばからずに、泣いていた。




止まらなかった。我慢していたものが、溢れていた。








ごめんね、ごめんね、ありがとう。アンドリュー。本当に、ありがとう。こんなにたくさん、ありがとう。






僕はずっと堪えていたのかもしれない。自分が自分でなければならないと、勝手に思い込んで、作り上げた自分を、本当は壊したかった。







でも、ノックをされては心を開かず、ずっと閉じこもっていた。






それを、アンドリューは、こじ開けるわけでもなく、最後の最後までノックをしてくれた。そして、僕がドアを開ける瞬間を待っていてくれた。







嬉しかった。心の底から、心を通わせるアンドリューのことが、嬉しかったんだ!







涙が止まらなくて、びしょびしょに濡れた肩。困ったアンドリューは、戸惑いながらも、背中をさすってくれていた。







「ありがとう、ありがとう。本当に、ルームメイトでありがとう」

アンドリュー「当たり前ダ、俺とユーずルは、とーもだちダロウ?」







そして、短くて暑かった、3週間は、終わりを告げた。






エピローグ:日米を超えて








日本に帰る前、彼と話をしたことがある。




アンドリュー「オレ、謝らなきゃイケナインダ」

「何かした?」

アンドリュー「日本のレキシ勉強した。ゲンバク、ゴメンなさい」






突然の話にびっくりしたが、僕も躊躇せずに言葉が出た。







「んーん、こちらこそ、パールハーバー、ゴメンなさい。」






しばらく間が空いて、うちらは笑った。







その時は、何か不思議だった。アンドリューは、アメリカを代表して謝っているように感じた。僕も、その誠意には応えないと・・と思って話をした。








歴史観・民族感情、戦争の史実と真実の違いなど、様々な議論がある。だけど、こうして謝り、謝られ、どこかの世代で、この渦をストップしなければならない。








アンドリュー「オレらの時は、これからも、とーもだちでイヨウ」

「うん、そうしよう。とーもだちダ!」







うん、そうだよね。アンドリュー。17歳の僕たちは、誓った。





心を通わせよう。あなたと出会えて、本当に良かった。







そして、歴史も、僕自身も、過去を抱きしめて、清算して、新しい、未来を見よう。そんな人たちを、僕は増やしたい。







彼とは、また大学生の時に一度会って、今もたまに、チャットでやり取りをしている。








また、久しぶりに彼と会おうかな。そのためにも、もっと心を自由に飛び回れる、世界中を旅する旅人になりたいと思う。






「おれたちは、とーもだちダロウ?」






最後までお読みいただき、ありがとうございました!



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