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16/1/7

偏差値39の女生徒が、半年後アメリカの大学生になるまでの道のり

Image by Olia Gozha

私がM子さんに出会ったのは、ちょうど10年前でした。自己啓発セミナーでご一緒したお母さんのたっての頼みで、家庭教師を引き受けたのです。


その頃のM子さんは、まったく勉強をしたことがありませんでした。毎日マンガ本に夢中になり、宿題もせず、机に向かっても、5分で嫌になる感じでした。





「M子さんて、学校で成績は、どれくらいなの?」

「ええと、学年で150名いるから、だいたい130番くらい。」

「ええっ、そんなに悪いの?」

「そんなに悪いかなあ〜?私のあとに、まだ20人もいるじゃない・・・」


こんな調子のM子さんは、英語の模試だって、200点満点で30点くらいなのです。


「ねえ、どうやって解答しているの?」

「鉛筆に、1、2、3、4って書いて、それを転がして、出た番号を解答用紙に書くの。そうすれば、少しは、当たるでしょ。零点じゃないから。」

「英語って、分かっているの?」

「ぜんぜ〜ん、わかっていない・・・」


そんな悪びれもしないM子さんを、そばにいたお母さんは、言いました。


「こんな子でも、大学行きたいって言うんですから。」

「大学ですか・・・?」


そこで、またM子さんに向けて、私は言い始めました。


「M子さんは、どんな大学へ行きたいの?」

「玉川大学の英文科!」

「どうして、玉川大学の英文科なの?」

「だって、近所のお姉ちゃんが行っているから。一緒に行ければ、楽しいから。」

「じゃあ、玉川大学に行くために、勉強する気があるの?」

「ううん、わかんないなあ・・・」


私は、ちょっと考えてから、こう言ったのです。





「M子に正直に言うと、今のままでは、絶対に玉川大学の英文科には合格しません。どこの大学も無理です。仮に一浪して、玉川大学に合格するかも知れない。


でも、ここで考えてほしいことがあります。


それはね、今のM子さんには、全国にたくさんの高校3年生がいるよね。その中で、絶対に叶わないと感じている生徒がいるでしょ。たとえば、英文科で言えば、上智や青山学院や立教や、英語に強い大学を受験する高校3年生には、いまのままなら、叶わないよね。」

「そうですね。」

「仮に、玉川大学に合格してとして、4年生の就活になった時に、ライバルになる学生って、どの大学の学生だろうかな?」

「わからない・・・」

「実はね、ライバルになる学生なんかいいないんだよ。やっぱり、上智や青山学院や立教の大学生には叶わないんだよ。あなたが、どんなに努力して玉川大学に入っても、4年生になった時でも、あなたの叶わない人が、全く変わっていないんだよ。今と同じ・・・私が言っていることが分かる?」

「ええ、分かります。」

「じゃあ、悔しくないかな?」

「悔しいかもしれません・・・」

「じゃあ、こんな考えは、どうだろう?」


そう言って、私は、とんでもない考えを言い始めました。





「ねえ、アメリカの大学へ行ってみないかい?」

「ええっ!アメリカの大学ですか?」

「そうだよ、アメリカの大学だよ。お母さんと相談して欲しいの。」

「考えたこともないし・・・」


それから、アメリカの大学の内容を語り始めました。


「東京の南麻布に、テンプル大学がある。そこに入学するんだよ。アメリカの大学は、学期制で、8学期で卒業出来る。毎年3学期あり、その学期ごとに、入学式と卒業式がある。だから、年3回入試を受けるチャンスがある。だから、浪人する必要がない。


それに、学期ごとに学費を払えばいい。全納という日本の大学とは違う。もし、合格して4年間を英語で授業を受けて、専門分野の勉強をする。そして、あなたが4年生になって就活する頃になったら、そのライバルは、青山学院や立教ではない。早稲田や慶応とも違う。東大でもない。


ライバルは、上智とICUだけだよ。


だって、その時のあなたは、英語で専門分野を説明出来るから、もう英会話を勉強することもないんだよ。


もう一度言うよ、ライバルは、上智とICUだけだよ。どうだい、やってみないかな?応援するよ。」


その時、M子さんの目が、きらりと輝いた。


「そんなこと、私にも出来るんですか?もし、それが本当なら、やってみたい・・・」


その日から、M子さんは、私の言うとおりに勉強し始めたのです。


それも、毎日6時間も勉強したのです。お母さんが、心配して、電話をかけて来ました。


「うちの子、どうなっているんでしょう?風邪を引くから、早く寝なさいといっても聞かないから。夜中までずっと勉強しているんです。そんなこと、いままで小学生の頃から見たことがないんです。私は、M子が頭がおかしくなったんじゃないかって、心配なんです。」


「お母さん、大丈夫ですよ。M子さんは、目標を見つけたんですよ。だから、本気になれたんです。ずっと探していたんじゃないですか?」


「でもね、M子の体が心配だから・・・M子に万が一のことがあったら、西條さんのせいですからね!M子のお尻に火をつけたのは、あなただから、責任とって、必ず合格させなさいよ!」


それから、私は、家庭教師をやりながら、テンプル大学へ連絡し始めた。入試の内容を聞くためです。


「入試は、どんな内容になるんですか?」

「筆記と面接です。」

「筆記は、どんな内容ですか?」

「基礎的な知識を問う問題です。」

「それは、英文法も入りますか?」

「そうですね。」

「それ以外は?」

「教えられません。」

「どうしてですか?」

「公表していないので・・・」

「だったら、対策が出来ないじゃないですか?テンプル大学に絶対に受かりたいと言って、毎日6時間も勉強している高校3年生がいるんです。合格させてやりたいんです。そのために、対策を考えないと行けないんです。テンプル大学に行きたい生徒に、勉強させない気ですか?」


私も真剣になった・・・


そして、面接の内容をイメージ出来るまで、聞き続けた。


その結果、5種類の生活に関するテーマがあり、そのひとつについて英語で質問があって、それに答えることだと分かった。


そこで、私が取った作戦が出来上がった。アメリカのビジネス・スクールでの戦略を使ってみた。そして、M子さんのために、面接に絶対受かる秘訣を伝授した。


私が、アメリカで考えた「必殺技」だった。


それから、ふたりで、筆記と面接に練習を繰り返した。


「いいかい、ここで面接に勝つ内容のスピーチを考えたから、丸暗記するんだ。それ以外を聞かれたら、こうして切り抜けるんだ。分かったかい?」


そうやって、繰り返し、繰り返し、練習した。


そして、受験を6月に定めたのです。


「いいかい、年3回の受験が出来る。だから、リラックスして受けるんだ。決して、浪人することがないから。一浪して、青山学院を受ける同級生より早く、大学生になれるから。いいかい、あなたは、アメリカの大学生になるんだよ!」


彼女の目は、マジだった。本当に、「狙っている鷹の目」だった。


半年は、すぐにやって来ました。


6時間x150日=900時間


よくやったと思います。





受験当日、お母さんとM子さんは、南麻布のテンプル大学へ向かいました。ドキドキの2人でした。


テストは、それほど難しくはなかったと言っていました。そして、面接では、難しい質問が出たそうです。それでも、私が言ったとおりに切り抜けたのです。


そして、合格発表の日が来ました。


「お母さん、もし郵送物が来て、中身が厚かったら合格です。薄かったら、不合格です。」


事前にそう言っておきました。


そして、郵送物が来たのです。お母さんは、開くのが怖くて、私に電話して来ました。


「西條さん、来ましたよ。」

「厚いですか?」

「ええ、厚いです。」

「では、合格ですね。」

「でも、怖くて開けられないんです。こんなの初めてだし。でも、開くまで信じられないし。」


ドキドキのお二人の姿が、はっきりと想像出来ました。


「心配しないでいいですから、ゆっくりと開いて下さい。」


それから、お母さんは、おそるおそる郵便物を開いたのです。


そして、合格の文字を見たのです。


「ぎゃー〜〜!!!」


お母さんとM子さんは、玄関で固く抱き合っていたそうです。飛び上がったりの大喜びだったのです。


そして、M子さんは、テンプル大学へ入学したのです。


最初は、英語集中コースで、英語を鍛えました。そこでの勉強は、想像を超えた厳しい内容でした。


何度も、電話をもらいました。


「西條さん、私、辛くて仕方ないの・・・全然授業が分からなくて・・・西條さんに言われたとおりに、英英辞典で勉強しているし、今でも6時間も勉強していても、さっぱり授業で理解出来ないし…苦しいの・・・」


「M子さん、もう大学生なんです。だから、分からないことがあったら、直接先生に『分からないから、分かるためにはどうすればいいか』って聞いて下さい。分からないことがあるのは、決して恥ずかしいことじゃない。分からないから、学校で学ぶんです。そのための学校です。あなたが学ぶために、学校があるんです。だから、遠慮なんかしないで、ドンドン質問しなさい。それが、優秀な学生の証拠です。アメリカでは、そう言う学生を高く評価するのです。


そして、クラスで優秀な人と友達になりなさい。そして、一緒に勉強しなさい。」


それから、M子さんは、その通りにしたのです。


そして、見事自分の壁を越えて行きました。


あんなに勉強したことがないM子さんが、渋谷の町をクラスメイトと歩いていると、男の子が声をかけて来るそうです。


「ねえ、どこの子?」

「テンプル・・・」

「ええっ、(やばい)・・・」


そう言うと、男の子がさっといなくなるそうです。


「テンプルの子」「Tの子」と言われているそうです。


M子さんに取っては、「優越感を感じる」瞬間なのです。


それから、M子さんは学部課程に進んで、2年間学び、準学士号を取りました。そして、20歳の若さで、化粧品会社のマネージャーとして採用されたのです。





数年前まで、鉛筆を転がして試験を受けていたM子さんが、いまではアメリカの大学を卒業して、社会人として堂々と生きているのです。


人生の選択肢は、限りなくあります。


そして、どれを取るかは、人それぞれなのです。


そして、出来れば、その人にふさわしい選択肢を見つけて、つかんで頂きたいと願っています。


ここまでお読み頂きまして、ありがとうございます。


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