私は、女性に思い切ってたずねてみた。
「お客様は、お父様のように定年までつぶれない会社で転職しないで働く人というのが必須の条件になりますか?」
「えっ???!!!」
だいたい、お客様はここで当惑する。
「何言ってるの?この人?」
となる。
彼女は、言った。
「それを希望するのは『普通』のことですよね?」
「いいえ、今の世の中は全然『普通』ではないのですよ。」
私は続けた。
「今は男性全体の非正規労働者も20%を超えております。つまりいつ首を切られるかわからない状態の人が5人に1人以上いるんです。どんな老舗でもいつ倒産をするのかわからない時代になっているのです。リストラだってあります。大手の企業が不振で中途退職者を募集しているニュースは時々ありますよね。こうなってくると定年まである程度の年収で勤めあげるほうが奇跡だとは思いませんか?」
お客様も負けてはいない。
「で、でも・・・!!それだったら、私はつぶれない会社に勤務している男性がいいです。」
「それって、どういう会社ですか。」
「一部上場の企業です。父もそこで定年を迎えました。」
ああ、やっぱりこれが『普通』の正体だ。
「一部上場の企業に勤めていて、今も独身という人のほうが少数派で珍しいんです。しかもあなたよりももっと若い女性もライバルになります。」
「でも、私は今の生活しか知らないんです。」
ううっ、今の生活をそのまま維持出来る結婚を保証して欲しいということなのだ。
どんどん『普通』の正体が暴かれていく。
「それでは、お客様は一部上場企業の男性限定ということでよろしいですか。」
「そ、そうは言っていませんっ!!!」
お客様は自分が男性を地位や年収で選んでいることを認めたくない。
しかし、父親がスタンダードになっており、かつ今の生活の固執するというのは、
意図しなくても結果的に男性をATMとして見ているのと大差はない。
「一部上場の企業じゃなくて構いません。コロコロ転職をしていなかったり、現在ある程度の年収が確保されていたりということで大丈夫です。」
「ある程度ってどれぐらいですか?」
「うーん、だいたい600万円ぐらいですかね。」
「お客様、600万円は平均をはるかに超えています。『普通』ではありません。」
「ええっ?!どれぐらいなら現実的ですか?」
「だいたい400万円ぐらいから考えたほうがいいです。男性の9割はカバー出来ます。」
「400万円って少なく無いですか?私が出産した後働けないことを考えると…。」
「しかし、うちの結婚相談所の『普通』は年収400万円からです。」
親と同居している女性の『普通』と現状との乖離はだいたい年収に現れる。
このように100万円から200万円ぐらいの誤差が発生する。
いったんお客様の『普通』を具体的にして、それからこちらの『普通』を提示する。こうやってお互いの考えていることをシェアしなければいけない。
結婚相談所はお客様を世間的に把握した上で、出会いの機会を作っていく。
この世間的な把握は、ハッキリ言って、他の婚活の時にも使える。
自分は婚活の中ではどんな評価をされるのかということはプロが一番知っているのだ。しかし、その言葉はしばしば耳が痛い。耳が痛いから耳をふさぐ人も多い。そういう人は主観的な把握で婚活をするから、どんどん「こんなはずじゃなかったのに、婚活が辛い」とだんだん意欲を失っていく。
結局、婚活をすると何が起こりそうかを把握していたほうが、感じる痛みを軽減できる。「想定内」にすることで、心のダメージを減らせるからだ。
この女性は、結婚相談所の『普通』を受け入れた。年収400万円以上で定年まで働けそうな男にしぼった。そうすると、結婚相談所の9割の男性の中から、勤務先が堅実そうな男性を選ぶことが出来る。あとは、相性の問題になってくる。もちろん、結婚に至った。
ちなみにもっともやっかいなものは、『普通の性格』というものだ。
普通の性格というのは、『普通はこんなふうな言動をしない』という意味でたいてい用いられる。性格を私たちが確認できるのは、言動しかない。だからそこが評価基準になる。
しかし、人間というのは、誰しも欠点がある。そして間違うこともある。
「普通、こんな言い方はしない」ということを時にはやってしまうのが人間だ。その時に、「この人は普通じゃない」となる人は、結局相手に完璧を求めていることになる。ここもぜひ注意をしてもらえたら嬉しい。


