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15/11/16

おかんの婚活(代理婚活)で結婚することは出来るのか。

Image by Olia Gozha

ある日一本の電話が入った。

お客様「今日家出をしました。相談にのってください。家族のことです。」


という突然の知らせだった。


電話主は、35歳も目前に迫ってきたセミロングの清楚でおとなしめのお客様だ。

正社員で独り立ち出来る収入はあるが、両親の強い希望もあり家族と同居をしていた。

うちの会員ではあるが、他で交際中ということで紹介をやめていた状況だった。

「(ううっ、家族って言われても・・・。うちは結婚相談所だから家族のことまで関与できないんだけれども・・・。)」


と思いながらも、電話口で明らかにお客様は泣いていた。

このまま放置したら、信頼関係に思いっきり影響しそうだ。


「通常の婚活カウンセリングとして承るということでいいですか?そんなに相談に乗れないかもしれませんよ?私は家族問題は専門外だから。」

「いいんです。家族って言っても結婚に関わることなので。」


ということで、すぐに支度をして、いつもの喫茶店に足を急いだ。


彼女はすでに席についていた。レースのハンカチで涙を拭いている。

なんと、コロコロ転がすキャリーバッグが隣にデーンと置いてあった。

これは、マジな覚悟だろう。

しかし、突然の家出だ。衝動的だからきっと話の整理を求めるのは難しそうだ。


「あの、もう何から話してもらってもいいし、順番もめちゃくちゃでいいです。とにかく全部教えてくれませんか?わからなかったら聞くと思いますが、責めていると思わないでくださいね。私はここでは何もあなたを責めないことを約束します。」

「う、うえーーーーん!!!!!」


…どうやら、言葉にもならないらしい。ハンカチを目に強く押し当てて大声で泣いている。喫茶店では痛い視線が・・・。私が泣かしたみたいになってるな、これ。

私のほうから話をしたほうが良さそうだ。

「連絡がないから、ずっと交際中の人とうまく行っていると思っていたんですよ。」

「あ、それですか。実は交際なんてしていなかったんです。」

「「ええーーーーーっ!!!!!!どういうことですか?!」」


突然女性は、涙ながらにしゃくりあげながら口を開いた。

「実は、母に無理やりお見合いをさせられていたんです。母が『あなたじゃ、いい人は見つけられそうにないから、私が探してくるわ』と言って、お見合いパーティに出かけてしまったんです。」

「お母さんがお見合いパーティに同伴したってことですか?かなりすごいシチュエーションなんですが。」

「いえ、私は行っていないんです。母だけです。」

「ああ!あれか!!!」


そう、代理婚活のことだ。代理婚活というのは、息子や娘のかわりに親が婚活をするという方法だ。子どものプロフィールを持って回る。お互いに意気投合をすれば、プロフィールと連絡先を交換する。その後、それぞれの子どもにプロフィールを見せて、オッケーが出ればお見合いの場を親がセッティングするというものである。


女性は続けた。

「それで、私は親がプロフィールを交換した相手と強制的にお見合いをさせられることになったんです。」

「強制的に?」

「はい。母は『あなたはこれまで恋愛に失敗してきたでしょ。私が選ぶほうがいいの。断わる権利はあなたになんてないわよ』って言うんです。そう言われると本当に辛いんです。もう母に従うしかないって思いました。」

「ところで、お母様が紹介してくれた男性はどんな男性だったんですか?」



彼女は、ここでまた涙をじわーっとためて、ハンカチで目頭をおさえた。

「スラーっと背が高くイケメンでした。年齢は私より5歳ぐらい上の30代後半です。学歴も有名国立大学出身で、大手企業勤務で、年収は平均よりもかなり高かったと思います。そこまで覚えていませんが。」

「さすが、お母様ですね。娘が一生経済的に困らないように立派な方のプロフィールをゲットしてきたんですね〜!」

「でも、私は学歴も企業もどっちでもいいし、年収も400万円あれば文句はありません。むしろ、自分の考えをしっかり持っていて、相手の考えも尊重できる対等な関係を築ける人がいいんです。そういうことは全然プロフィールからはわかりません。」

「それは、わからないですよねー。確かに。」


彼女は、お見合いの話をしてくれた。

そして母親2人と、息子と娘の4人でがっつりホテルのラウンジでお見合いが開始した。

お母様たちが、それぞれ息子と娘を紹介する。そして30分ぐらいすると母たちがいなくなり、二人っきりになった。


すこし気まずい沈黙の後、男性が口を開いた。

お見合い男性「どうして、このお見合いを受けようと思ってくれたのですか?」


彼女は、ほぼ強制的に来たとは言えなかった。

「プロフィールを読ませていただいて、素敵な人だなと思ったんです。」



彼は思わぬことを返した。

「素敵な人だって?!なんであんな紙切れでわかるんですか?」

「えっ?」

「素敵なのは僕の経歴ってことじゃないんでしょうか。」

「「…。」」


いや、本当は素敵だとか思っていなくて無理やり来たのよ!って言いたいけれども、

それは失礼すぎて言えない。


彼は続けた。

「僕の経歴を渡したたいていの女性は会ってくれるんですよね。でも結局ね、それは僕の人間性じゃなくて、安定性とか将来性とかがモチベーションになっているでしょ。なんかそういう女性ってつまらないなぁって個人的には思うんですよね。」

「(違うんだって!無理やり来たんだって!)」


彼女の心がどんどん氷点下に下がっていく。

でも、せめても何か言い返したい。

「じゃあ、なんであなたはそういう女性が来るかもしれないと思っているのにどうして来たのですか?」

「そりゃあ、あなたが美人だったからですよ。」

「(そ、それって・・・肩書でやってくる女とそんな大差ないのでは。てゆーか、顔が理由のほうが、もっとひどくない?自分のことは棚上げ?)」

「それに母が、『彼女はまだ若いし、おしりも大きいから安産タイプよ。子どももすぐに出来るわ。孫の顔が早く見たいわ。』なんていうんで。」

「おっ、おしり????!!!!」

彼女は思わず、声に出してしまったらしい。


もちろん、印象は最悪だ。彼女はお見合い後、すぐにお断りの回答を母親にした。

すると、母親は突然怒りまくったらしい。

母(絶賛代理婚活中)「あんたっ、まだ高望みする気?もう35歳になろうとしているのよ!」

「そうじゃない。私は肩書さえ良ければそれでいいっていう価値観ではないの!!紹介してくれた人は人間的にどうかと思った。肩書がよくても嫌よ!」

母(絶賛代理婚活中)「あんた、そんな人間性って言うけれども、一時の感情で結婚してもね、お金がなくなったり仕事がなくなれば、愛なんて簡単に壊れるのよ。安定が一番大事よ。ねぇ、もう少し会ってみなさい。お母さん次のデートの日程の調整するから。」

「いやーーーーーー!!!!」

母(絶賛代理婚活中)「こらー、待ちなさいーーーー!!!!」



ということで、彼女はいまここに座っている。

「いい年して、自分が家出をすることになるなんて思いもよりませんでした。」

「ううっ。お母さん確かに一方的過ぎますね。あせりまくってるんでしょうね。」

「はい、35歳過ぎたら子どもが授かりにくくなるって去年あたりから慌てています。」

「お客様のことを心配されてのことなんでしょうねぇ。」

「それはわかるんです。全部私のためだって。でも、私の意思を無視するのがとても嫌です。」


本来代理婚活というのは、そんなに悪い制度ではない。理由は2つある。一つは、単純に出会いの機会が増えるからだ。しかも代理婚活の機会というのは、本人では無理だ。親でなければ参加できないのだから(同伴する場合もあるが、親は必須だ)、自分が入れない土地を新規開拓するようなものだ。

もう一つの理由は、親は子どもよりも体験が豊かなので、一般的には相手の将来性の目利きができる。いわゆる「ヒモ男」「働かない男」などのダメンズを除外しやすい。悪い虫を撃退する大きな役割になる。


しかし、彼女のようにマイナスに働くことも結構ある。それは制度を利用する母親の問題だ。今回の問題点は3つある。


1つは、母親が子どもを一人の独立した人間として扱っていないこと。自分の分身のように扱っている。有無をいわさずお見合いを強制するのはまさにそれだ。


2つめは、娘の価値観を反映させていない。自分の価値観でしか男性を見ていないことだ。代理婚活をする前に、娘がどんな人と結婚をしたいのかをしっかり聞き取ることが大事だ。そのうえで、自分の価値観もあわせて、どっちも満たすような人を探すのが正しい方法だ。


3つめは、母親が娘からのフィードバックを受け付けていないこと。婚活というのは、ダメだと思った理由をフィードバックすることによって、だんだんお見合いの腕を母親があげていかなければならない。


つまりは、母は娘を一人の人間として扱い、自分が紹介する以上、紹介のまずかったところをちゃんとフィードバックしなければならない。

「娘にこんなに偉そうに言われるなんて!」


と娘が断わるときにキレる母親が世の中には多すぎるのだ。代理婚活をする以上、娘が断わることをちゃんと受け止めなければならない。


後日談だが、彼女は、そのまま物件を探し、一人暮らしを始めた。母親は家を出て行くほどに娘が追い詰められていたことに初めて気付いて、すんなり謝罪をしてくれたとのことだった。結局彼女は、うちのお見合いで結婚をしていった。


「年収も年齢も全部お母さんが紹介した人のほうが良かったんだけどなぁ。」


と彼女の結婚式の写真を見つめながら思った。しかし、ウェディングドレス姿の彼女の表情はどこか誇らしげで、幸せに満ち溢れていた。




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