ズドーン。お客様からの一通のメールでめっちゃくちゃ気が重くなった。
お客様は40代半ばの未婚の女性だ。
読者の方々「なんだ、40代の何がいけないのか」
なんて思われたかもしれない。
大丈夫、そこは何も問題はなしっ!むしろ私(38歳)と同世代の婚活はやりがいがある。
問題は、このメールの続きである。
お客様「どうしても入会をしたいのですが、母が大西さんともお会いしたいと言っています。そうでないと婚活も始められないかもしれないのでどうぞよろしくお願いいたします。」
母親同伴でのカウンセリングの申し込みなのだ。どうして自分の意志で突っぱねることが出来ないのかとイライラする。
「親から自立していない人間のサポートは受けられません。」
と、当初は断っていた。しかし、事情を聞いてみると、大半自立していないことが原因ではない。
たいていの女性はちゃんと仕事をして、自分で生計を立てている。むしろ、娘が自立しているにも関わらず、母親が干渉をすることが問題なのである。
つまり、この問題はお客様が引き起こした問題ではない。親の問題で私が入会を断わるのは、理不尽だ。だから、引き受けるようにはなった。本当に気が進まないけど。
「でもなああああ!!!お母さんたち、すごくめんどくさいんだよっ!」
と、私は頭をかきむしる。いつも、面談にやってくる母親たちはアレコレあり得ないようなお相手の条件をつけてくるのだ。
カウンセリングの日がやってきた。
「明美さん、初めまして。親まで連れてきてしまって本当にすみません。」
「いえいえ、お母様もお越しくださって、ありがとうございます。 こちらこそどうぞよろしくお願いいたします。」
さっそく明らかに70歳は超えている母親が口火を切った。
70代お母様「娘はもう40歳をとうに過ぎて、孫も望めません。それならば急いで嫁にやる必要はないと思うんですよ。なのにこの子ったら、いきなり婚活をしたいなんて言い出したもので、おほほほ。」
なるほど、孫が望めないと諦める年になると親御さんも娘の結婚を諦め始めるのか。
子どもが居ない結婚は、価値がないということなのか。母親は、再び話し始めた。
70代お母様「それに私も70歳を過ぎて、いつ体が不自由になるかわかりません。その時に娘がいてくれたら心強いです。老後の生活を考えても今さら嫁に出す理由なんて考えられませんよ。」
なんと!!!娘の結婚を諦めた瞬間に、自分の老後の生活を娘さんと一緒に過ごすことを夢見るということなのか。これが娘の結婚に消極的な理由になっているのだ。孫を諦めれば今度は娘に看取られることを親が人生計画に入れ始める。こうして子どもが親の人生に巻き込まれていくのだ。
「でも、それではお母さんたちが亡くなった後、娘さんは一人ぼっちになってしまいますけれども…。」
70代お母様「そこなんです!!私も娘にそう説得されたから、婚活を始めることを反対しきれなかったわけです。でも変な男と結婚をしたら独身でいるよりも不幸になるじゃないですか。だから紹介者の明美さんの様子を私もお伺いに来たのです。」
キラーンと目が光った。
「娘に変な男を紹介するんじゃないぞ」
という強いプレッシャーを感じたのだった。その後、事細かに高学歴高収入の強い要望がお母様から出されたことは言うまでもない。なんと、年収800万円以上の一部上場企業の未婚の男性という条件になってしまった。これは20代の女性でも難関な条件である。
娘さんは完全に存在が薄く、借りてきた猫のようだった。
何も口をはさまず、ひたすら母親や私の言うことにうなずいてその場は終了した。
「ああ、本人から何の要望も聞くことが出来なかった。」
クタクタになりながら、家に帰った。
3日後、母親に内緒でお客様と2回めのカウンセリングを行った。
「必ずあなたは交際が始まった時、彼と母との間で板挟みになる。覚悟をして下さい。」
と伝えた。
その上で、母親の要望との折り合いをどのようにつけるのかについて作戦会議を立てる。これをしておかないと、お客様の家庭で大騒ぎになるから致し方ない。
「まず、あなたの希望を聞かせて下さい。」
「年収は400万円ぐらいあれば問題ありません。私も結婚しても働き続ける予定ですから。むしろ年収よりも仕事を続けることを認めてくれる人をお願いしたいです。」
「となると、地域はおのずと通勤圏内になりますね。了解しました。それと、上限の年齢は上下10歳以内で大丈夫でしょうか。」
「はい、大丈夫です。」
こんなふうに、だいたいスムーズに条件は決まる。
「これらの条件であれば、お見合いの機会はちゃんとあります。しかし、問題は結婚を決めるときにお母様の反対に会う可能性がかなり高いことです。反対されない人だけを紹介したいのですが、それは本当に難しいので申し訳ないです。」
「そうですね。おそらく年収と会社を聞いて、母が大騒ぎになるでしょうね。」
「だから、男性に頑張ってもらうことになります。」
「男性に?」
まだその男性は存在をしていなくても、話し合わなければならない。
机上の空論をしているように見えるが、この時に話し合っているかどうかで、全然結果が変わってくる。ふたりともひたすら妄想モードに入る。
「『僕が一生愛するので、結婚を認めて下さい!』と頭を下げられる男性を私は探します。交際の報告が来た時には、こういうこともあり得ると男性に説明をします。」
「そんなことを言ったら、嫌われたり交際がなくなったりしませんか?」
「あり得ますよ。でもこれでなくなるぐらいなら、それまでなんですよ。もっともっと結婚は大変なことがありますからね。」
「そういうものなんですねぇ。」
でも、まだやらなければいけないことがある。
「あなたも一つ約束をしてほしいことがあります。」
「なんでしょうか。」
「彼に『母が認めてくれる人になってほしい』と言ってはいけません。あなたは彼と母との間で板挟みになります。だから開放されたいと思って、一番責めやすい彼を責めたくなるんです。でもあなたは覚悟して婚活をしたわけです。それを彼に押し付けてはいけないのです。」
「なるほどー!!!確かに板挟みはしんどそうですね。ああ、婚活って何もないうちからこんなにシミュレーションが必要なのですねぇ。」
「そうなんですっ!娘が40半ばも過ぎたら、むしろお母さんって結婚して欲しいって思わなくなりますからね。」
「なんか、本当にそんな感じですよね。」
こうして二度手間のカウンセリングも終わった。
40歳までは母親の夢と娘の夢が「赤ちゃん」で一致している。けれども娘が40歳も半ばになる頃には、多くの母親の夢は「娘と最後まで共に生き、看取ってもらうこと」にシフトチェンジする。どちらも幸せを願っているのだけれども、幸せの願い方がちがってくることで結婚がしづらくなる。
唯一母親が落とし所にするのが、「娘が高学歴高収入の男と結婚すること」なのだ。これは決してお金目当てという意味ではなく、
「娘が何不自由なく暮らせたら、私は娘を手放します」ということなのだ。なんだかんだいって母は娘の幸せを願っている。
しかし、結婚は娘のものだ。母親のものではない。私は、婚活記録に「交際開始後、母親と戦う覚悟をすること」と赤ペンで書いた。
8月10日に出版が決まりました「となりの婚活女子は、今日も迷走中」(大西明美著、かんき出版)
Amazonでのページも出来まして、いよいよ船出ですm(_ _)mm(_ _)m
http://www.amazon.co.jp/dp/4761271973
