それはまるで、~~のように、巨大な○になったかのようだった。
22歳で、無計画に会社を辞め、無資金で学習塾を開き、そこそこ稼いで自由に暮らして4年。
26歳になった私は、その暮らしにあき、
次に選んだのは、なんと、
田舎の商家の後継ぎと結婚することだった。
通りすがりの人1「そりゃ、無謀じゃね?」
確かに、ふつうに考えて、無謀すぎる。
自由に好きに生活できていたのを、何をわざわざそんな環境に身を置いたのか。
通りすがりの人2「結婚相手が、それほど好きだったのね。」
みりえ「それもある。」
でも、それだけじゃないような気が、今となっては、する。
通りすがりの人1「他に、何があるんすか?」
みりえ「たぶん・・・」
みりえ「自由すぎる生活に、あきちゃったんだと思う。」
通りすがりの人1「まじっすか?」
人に何かを教えるのは、強みなんだろう。
個人個人を把握して、それぞれにわかりやすく教えるのがうまい。
ちょっとやんちゃな子がきても、うまく制御できる。
これを、教職課程を勉強したわけでも、どこかで経験したわけでもなく、23歳(教え始めた時には23歳になっていた)女子が、いきなりふつうにできてしまったのだ。
強みは、強力な武器ね。
向かうところ、敵なし。
実家で、うるさく言う人もいない。
保護者さんたちも、満足して何も言ってこない。
慣れてくると、塾前の30分ほどで、教える準備が全部できるようになった。
正味、1日の仕事時間は、3時間強。
あとは、好きに過ごしていいのだ。
こうなると、人間は退屈してくる。
好きな本を読んでいる。好きに小説も書いている。
好きに絵も描いている。
それでも、なぜかあきてくる。
人間って、不思議なものだ。
通りすがりの人1「これ、なんすか?」
「ねこ?」
通りすがりの人1「まじで?」
何も、わざわざ不幸を選んだわけじゃない。
ただ、かなりのブレーキを全身で感じながら、それでも未知の領域に飛び込んだ。
通りすがりの人2「で、どうなったの?」
「ふっ」
聞かれるまでもない。
みりえ「惨敗よ。」
そこは、私にとって、別の星だった。
私は、結婚相手と結婚したつもりだったけれど、元姑、近所の人たちは、「嫁にもらった」と思っていた。
「個」の意識が人一倍強い私が、その環境の中に入ると、
まるで仮面ライダーのように、
まるでカフカの『変身』のように、
「ある朝、みりえが不安な夢からふと覚めてみると、ベッドのなかで自分の姿が、
一匹の、とてつもなく大きな毒虫に変わってしまっているのに気がついた」
みりえ「な感じなわけよ。」
通りすがりの人1「なんすか、それ?」
みりえ「昔のフランスの名作、冒頭。」
通りすがりの人1「へえ?」
昔から、自分の頭脳を使ってなんとかしてきた。
学校もそれで自由に生活できたし、社会に出ても、頭脳を使って自由に生活してきた。
それが、一切通用しない。
「ただ、働き者」が、りっぱだとされる世界。
みりえ「でもねえ。」
私からみると、全然働いてない。
1年前の、腐って缶がふくらんだビールを売ろうとする。
半生の惣菜の賞味期限を、マジックで3か月書き直して売ろうとする。
通りすがりの人2「衝撃的ね。」
そんなの、「働く」じゃない。
実質労働時間が短かろうが、相手にきちんとしたものを与えるのが「働く」だ。
私からするとあたりまえのことが、まるで通じない。
まわりがみんなそうだから、その環境では、私が毒虫になったようなものだ。
正義なんて、その環境、状況によって、ころころ変わる。
通りすがりの人2「しょうがないから、周りに合わせれば?」
心の声「そんなの、やだ。」
通りすがりの人1「で、どうなったんすか?」
ごつごつ、ごつごつ、あちこちぶつかりながら、
まるくなってあいまいになるんじゃなくて、
私は、なおさら私になっていったのだった。
長男が生まれて10か月でフランス語を勉強し始め、
2年で初級をマスター。
長男1歳10か月で童話を書き始め、公募賞に11個入賞、単行本を出し、雑誌の依頼もこなす。
8年と半年前には、もう一度学習塾をやり始める。
今度は、教えるのではなく、経営のほうをまじめにやった。
大手学習塾が山ほど進出してきて、無料競争をやり始めたから、個人塾はどれだけ優秀なものでも、
ぼこぼこつぶれていった。
そのなかで、家族が生活していく収益をあげるには、かなり真剣にやる必要があった。
毎日研究して実践し、収益を、元夫が経営していた時の7倍にした。
(元夫は、講師をやっていた)
その間、周囲とはごつごつ、ごつごつぶつかりまくりながら。
私はまるで、研磨された原石のように、巨大なダイヤモンドになったかのようだった。
「ま、自分比だけれどね。」
その時大変なことは、長い目で見ると、あんがい自分を鍛えてくれていたりするものなのだよ。
通りすがりの人1「で、今は?」
今年3月の末に、すべてを捨てて、上京して1からやり直している。
通りすがりの人1「まじで?」
「まじで。」
無計画で、上京した。
あいかわらず、無謀なのだった。
いくつになっても、チャレンジが、おもしろい。
さすがに、かなり怖かったけれどね。
その続きの話はこちら↓