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15/10/20

②セットアップにかかった日本人の救出作戦

Image by Olia Gozha

みなさん、海外旅行で万が一警察に拘留されそうになったらどうしますか?・・・



勿論皆無だとは思いますが、意外とアジアなどは警察官が小遣い稼ぎで旅行者を食い物にするケースも少なくありません。


もし、万が一警察に拘留されそうになったら、ケースバイケースですが、その時はあきらめて警察にワイロを渡す事も解決策の一つです。お札を小さく折りたたみ、握手するように警察官に渡すと意外と事は小さく済みます。


ケースにもよりますが私なら50ドル程度渡すことが多いです。勿論、警察署長にクレームを付けて警察官の悪をただすことも可能でしょうが、その時間と労力を考えると事を小さく納めるのもやむを得ない選択肢の一つだと思っています。



ゲンさんが逮捕されて、すぐにでも警察署に乗り込みたい気持ちはありましたが、丸腰の単身で相手のテリトリーに乗り込むほど無謀な事はありません。この時間は日本大使館もあてになれないでしょうし、例え連絡が付いたとしても大したことはしてくれません。経過を見過ごすだけでしょう。


すぐさまホテルのフロントに降りて「実はこちらに宿泊している日本人が事件に巻き込まれて警察に逮捕拘留になりました」と、事の成り行きを話しました。




ホテルのフロントもその手の事件には慣れた様子で当直のマネージャーが対応してくれました。




「それはお困りですね。何かお手伝いすることはありませんか?」





「もし、明日の朝までに私が戻ってこなければ日本大使館に連絡を取ってください。」




「わかりました。しかし警察官も小遣い稼ぎが目的だと思いますので交渉次第ですぐに釈放となりますよ」




「私もそう思っていました。しかしながらどうやらその日本人はパニックで供述調書にサインをしたらしいんです」




「えっ?サインを?それは大変な事ですね」


調書にサインしたということはすでにゲンさんは罪を認めたことになります。海外ではサインは実印と同じ意味をもちます。幼子の虐待はフィリピンにおいては重罪。無期懲役もありえる話です。



「もちろんそうならないように争うつもりです。ホテルの弁護士に連絡を取っていただけますか?」




「わかりました。明日の朝、警察署に向かわせるように致します。」




「これから警察署に行って来ます。誰か運転手兼連絡役でホテルのガードマンに同席してもらえますか?」



「わかりました、それならエルソンを付けましょう。彼は元NBIの警察官です。少しは役に立つかもしれません」



ほどなくしてホテルの正面玄関に三菱の4WDが横付けされ、ガードマンがおりてきました。




クチャクチャとガムを噛みながら無愛想に私に近づく様は陽気なフィリピン人と違い落ち着きがありました。


決して身長は高くはありませんがシャツの上からでも感じられる大胸筋の盛り上がり方や

歩く姿勢の美しさなどから力強く頼もしさを感じるさせる男でした。




「ボス、マシンガンでも持ってきましょうか?」

と無愛想ににやりと笑い、こうして、臨時のチームとなった私たちはゲンさんの待っている警察署に向かいました。



警察署には夜中にも関わらず、大勢の警察官がおり

子供たちの保護者だと名乗るやじ馬が多数群がっていました。


机の上にぶるぶる震えながら座っているゲンさんがみえました。自分で何とか解決しようと試みたのでしょう。机の上にはゲンさんの財布が置いたままの状態で放置されていました。




やじ馬をかき分けるように警察署に入り、ゲンさんに声をかけました。


「大丈夫ですか?助けに来ました!」


もはや泣き叫ぶ気力も無く、ゲンさんはただただ私の手を握り


「すみません。申し訳ありません」



小さな声で呟いていました。




ゲンさんを逮捕した警察官に事情を聴きました。はやり、すでに子供に対し暴行を加えました。という内容の供述調書にゲンさんのサインがありました。




「明日の朝には裁判所にこの供述書を持ち込む予定です。彼は無期懲役となるでしょう」




ぺらぺらの紙にほんの二~三行の供述調書って・・・




「この日本人は悪い男だ!一生刑務所に入れてやる」




警察官の勝ち誇ったように見据える顔が何とも憎たらしい・・・穏便に収めようと思いましたが、私の中からなにかふつふつと湧き出すものを感じます。



「ゲンさん、子供たちを殴ったんですか?」




「いや~、俺は何にもやっちゃいねぇ!」




「だって、やったって、調書にゲンさんのサインがしてありますよ」




「いや~そんなの、嘘だ!俺は本当に何にもやっちゃいね~よ」




書類を見ながら大きなゼスチャーで首を振るゲンさん




「分かりました。それでは私にはひとつアイデアがあります。」




私はおもむろにバインダーノートから一枚の紙を取り出し静かな口調でゲンさんにつぶやきました。




「この紙に私の名前を書いてもらえますか?」



「いいですか?私の名前ですよ」




「おうぅ・・・」




訳も分らず私が用意した白い紙に私の名前を書くゲンさん。



誰もがことの成り行きを見守りゲンさんの指先に注目します。ゲンさんのサインがはいった調書と私の名前が書いてある白いバインダーの紙と両方を並べ、胸を正面に向け、声高らかに叫びました。



「ゲン氏は供述調書のサインは自分のサインでは無いと申しています。」





「本当のサインは、ここにあるサインで供述調書のサインはねつ造によるものだと云っています」




堂々と胸を張り、どこかの国の常套手段のように大声でねつ造宣言を致しました。




さっきまで半笑いだった警察官の顔が一気に引き締まる様子を見ると、私の放った先制パンチは相当なダメージを与えたと感じました。




これから一気にカタを付けましょう。ゲンさん救出劇の始まりです。


続く・・・





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