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15/10/4

③マグロ詐欺を繰り返していた詐欺師集団と戦った話

Image by Olia Gozha

フィリピン国内で外国人が船を持つことは出来ず、法人登録も60%はフィリピン人が株を持たないといけません。



今回、事件の発端となった船もフィリピン人所有となっていました。今回その船の所有者が菊池さんを「海賊行為」で訴えました。


当初、逮捕状でも出して嫌がらせをするのかなと思っていましたが、完全に身柄拘束、起訴まであっという間に踏み切りました。




これは相当大きな力が後ろにひかえているに違いない・・





当初の甘い考えをすべて改めざるを得ませんでした。




さすがに会長も私の忠告を聞かず菊池さんをマニラに置いてきた事を悔やんでいました。




「ナベさん、もう船もあきらめた。会社ももう駄目だろう。」



「あきらめる。」



「私は明日にでもマニラに飛んで菊池を助けに行くつもりだ」



「会長がマニラに行っても奴らの餌食になるだけです。今はとにかく時間との勝負です。とりあえず一刻も早く菊池さんの安全を確保しましょう。このままフィリピンの囚人と一緒に刑務所に入れられてしまったら菊池さんがかわいそうだ」



フィリピンの留置場はコンクリートむきだしの四角い箱で水はけが悪く常に床が濡れています。


そこに殺人犯や麻薬中毒者などが裸足で収監されます。もとエリート銀行員がそんな連中と一緒にフィリピンの留置場に入れられたら普通の精神状態ではすみません。


すぐにMBIの署長に電話をかけました。


「署長、捜査権を主張してMBIで菊池さんを逮捕するように手配してください」




今回、船を差し押さえたのはNBIが主導です。NBIに捜査権があることを主張し、まずはNBIで菊池さんを逮捕拘留してもらうようにNBIに動いてもらいました。




このまま菊池さんをみすみす州警察に引き渡してしまったらNBIのメンツが潰れるのでこの要望は通るだろうと確信していました。





NBI署長

「よし、わかった!今回は書類もすべてそろっているので船を差し押さえたこちら側に正当性がある。州警察の署長と話しミスターキクチをこちらで収監しよう」


「大丈夫!私の応接室があるからそこを臨時の留置場としてミスターキクチには使ってもらうよ。きれいなベットも用意させよう」




空がしらみ始める頃、やっと菊池さんと話をする事が出来ました。薄暗い鉄格子の付いた牢屋に半日間押し込められていたそうです。



「私が皆さんの忠告を聞かず突っ走ったおかげで皆さんに多大なる迷惑をかける事になりました。申し訳ございません。」


恐怖半分悔しさ半分といったところでしょうか?たまに鼻をすする音が聞こえるのはそんな菊池さんの気持ちを代弁していての事でした。




「菊池さん、とにかく今日は何も考えずにゆっくり休んでください。大丈夫!必ず助けます。」




といったものの、私に特別なアイデアがあるわけではありません。




ましてや自分の仕事とは全く関係ない他人の会社の事件なので私としてはどこまで介入していいか分りませんでした。




この件は会長を通じ朝には社長の耳にも入っていました。



出勤早々、私は社長室に呼ばれました。




社長

「昨日はご苦労さん。会長から話は聞いたよ。大変だったね」





「今回ばかりは会長も懲りた様子でした。しかし何をするにも時間が無さすぎます。」




社長

「会長もあきらめるといっていた。せめて菊池さんだけ助けてもらえないか?と聞かれたけど何とかなりそうか?」





「わかりません。裁判はなるべく短期間で終わらせるように弁護士とも話をしておきます。ただ・・」





社長
「ただ?」





「私も証人として呼ばれるでしょうから、一度マニラに行かなくてはなりません」




社長

「証人?別に行かなくてもいいんじゃないか。無理にマニラに行って大丈夫か?危険じゃないのか?」




「いえ、詐欺師にはまだ私はただのマグロのバイヤーだと思っています。それに・・・」





社長「それに?」







「やっぱりこのままなめられっぱなしで奴らを野放しにしている訳には行きません」




冷静に対応してましたが所詮社長も海の男です。熱い話が大好きな事は私もよく存じ上げておりました。




社長
「わかった。それじゃ日程が決まったらいってくれ、出張扱いにするから」




正直言って菊池さんを助けられる自信もありませんでした。しかし同じマグロを生業としているものとして日本人が水産詐欺で騙されるのはどうしても許しがたいものがありました。しかも今回は多くの日本人が騙されています。


根拠はありませんが、戦いは始まったばかり。




まだまだ逆転のチャンスはあると思っていました。




何とかなるだろう!




船だけに・・・




乗りかかった船だっ!






その日の午後、会長の弁護士さんに船頭あてに内容証明付き郵便を出してもらうようにお願いしました。


船頭は私たちが初めてマニラに行った日の夜、儲けの分配方法でもめて怒って日本に帰ったそうです。日本に到着した日、船頭から私宛に連絡が来ました。


しきりにガマ社長や女形社長の悪口をいい、被害者は自分だと訴えていました。早く働きたい、新しい就職先も紹介してほしいとお願いをされていました。


あまりにも変わり身の早い船頭にあきれながらまずは船頭にターゲットを絞りミッション開始です。




こちらにも後がありません。来月には手形の決済日がきます。ここでなんとしてでも現金をつくらなくては・・・



はやる気持ちを抑えつつ船頭からの連絡を待つしかありませんでした。



会長の会社が倒産すれば、当然菊池さんを助けられる術はありません。邪魔者を刑務所に押し込んでガマ社長達は船を自由に使うでしょう。


しかし、せっかくつかんだ金づるをそうやすやすとは見切りは付けたくはありません。しぼれるだけ絞りたい。スポンサーである会長の資金力がすべてのカギで彼らもまだまだ様子見の状況でした。


船頭からは新しい就職先の件で以前からたびたび連絡は取っていました。




こちらが協力的で友好的な態度を取れば必然的に色々な情報を入手できると思ったからです。




チャンスは船頭の電話からやってきました。




船頭「ナベさん、相談に乗ってほしい事があるんだけど」





私「私も丁度船頭さんに電話をしようと思っていました。船頭さんに言われていた貨物船ですが一人欠員が出て乗務員を探しているとの事でしたが興味ありますか?」




船頭「じゃ、尚のこと会って話がしたい。今日はどうかな?」




会長が内容証明付き郵便を送って3日目の事でした。船頭の暗い語り口から事態の深刻さがうかがえます。十分動揺している様子で有利に事が進みそうな予感は致しました。




船頭

「三千万円支払えって書いてあるんだけどどういう事かな?」



船頭には去年の夏から支度金を合わせて合計1700万円の支払いがあります。マグロを獲るためベテランの漁労長が必要だと女形社長から船頭を紹介されたそうです。年間1700万円払ってマグロを一匹も獲らない船頭。


当然、損害賠償も含め合計3千万円の請求を船頭がサインをした「1700万円の計算書」のコピー共々船頭には内容証明付き郵便で送っていました。





「会長は女形の社長とガマ社長に騙されたといっています。近く詐欺罪で告訴すると言っていましたよ。船頭さんも仲間だと思ったんでしょう。支度金含め一匹もマグロを獲らなかったんだから損害賠償の支払い義務も当然出てきますよね」




船頭

「おれはやつらとはグルじゃ無い。もらったお金だって給料だ。俺だってタダで仕事は出来ない。毎月100万円くれるって女形社長から云われたから俺は来たんだ。」





「それではきちんと裁判で主張すればいいじゃないですか?」




船頭

「いや、裁判はだめだ。長い間時間がかかりすぎる。それに俺はこの一年の間にあと半年間勤め上げなければ船員年金の対象者にならないんだ。それまで裁判を待ってもらうように会長に話そうか?」




何処までも身勝手な考え方をする船頭にほとほと呆れました。


しかし、船頭は明らかに自分が追い込まれている様子に怯えていました。

なんせ年間1700万円をもらって何も成果を上げていない。普通の企業では考えられない事です。


船頭もそのあたりのうしろめたさや認識はある様子で今回の内容証明付きの請求書を目の当たりにしても警察や弁護士に相談できずにいたようです。





「船頭さんがその問題を抱えている以上、いつ裁判に呼ばれるか分からないので乗組員のあっせんの話は出来ませんね。会長と話をして和解されてみては如何でしょうか?会長だって話せば分ってくれるはずですよ」




まるで砂山に棒を一本立ててそれを崩さないように慎重に慎重に外側から砂を少しずつ取ってゆく棒倒しをイメージしながらゆっくりと、時には大胆に船頭との話を進めていきました。




船頭「うう・・・・は・・半額じゃダメかな?」




私 「半額とは?」




船頭

「いや、だからさ、1500万円で何とか話付けられないかな?俺だってナベさんの紹介の船で働き始めりゃそれくらい何とかなるからさ、ローンで1500万円だったら会長だって話に乗ってくれるだろう?うん、それがいい。」




頭の中の棒がぐらっと傾きかけました。




はやる気持ちを相手に気付かれないようにするのが精いっぱいでした。ローンで押し切られたらせっかくの計画がすべて台無しです。


押し切られないように私の中で最後の切り札を出しました。これが通らなかったらすべてが終わりになります。




私「和解金のローンって聞いた事がありません。あくまでも現金一括払いです。きちんと会長と和解すれば私も何事もない事にして船の仕事も紹介出来ます。」




船頭

「・・・・・・・・・・・・」





「これがだめならこの話は無しにしましょう。船頭さんこの前5千万円の貯金があるっておっしゃったじゃないですか?」


「民事裁判なんかになったらその貯金だって凍結させられますよ。相手も弁護士さんを通すくらいだから本気の筈ですよ。」



「詐欺で訴えられて長い間裁判になって損害金まで全額で取られたらせっかくの船員年金もすべてパァですね。」




船頭

「・・・・・・・・・・・・・・・わ・・わかった、じゃ1400万円でどうかな?」




何処までもお金に固執する船頭でした。この期に及んで100万円値切るとは・・・しかし何とか作戦は成功しました。船頭と会長は1400万円を引き換えにすべて和解するとの合意書を交わしました。




変わり身の早い船頭はすぐに1400万円を振込み、しきりに会長にガマ社長や女形社長を「あいつらは詐欺師だ」といっていたそうです。


そして、せっかくの就職先はもっと若い乗り組員が希望したと先方から連絡があったと船頭には伝えました。



その後、必死になって船頭から毎日のように連絡が来ましたが、当然定年近い船員の就職先は厳しかったようです。




会長からは幾度ともお礼の電話を頂きました。会社も首の皮一枚で何とか倒産せずに済んだようです。

しかし、大きな問題は菊池さんの裁判です。フィリピンに人質を取られたまま戦うにはあまりにもリスクが高いからです。


前もってフィリピンの弁護士と打ち合わせした通り、私とガマ社長が同じ日に証人喚問で呼ばれました。




いよいよガマ社長との直接対決です。



10年も20年もかかるかもしれないこの裁判。落としどころが大変難しい裁判です。



続く・・・


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