手術を終え、数日が経った。
母は持ち前の回復力で、日に日に元気になっていった。
みんな少し安心している。
手術室から出てきた時は、お腹を切ってるわけだから、麻酔が切れると信じられないくらいの激痛。
まともに話せる状態ではなかった。
俺もちょっとずつ元気になっていく母を見て、少しホッとした。
それとは裏腹にあの言葉だけが、頭の中でこだまする。
主治医「100万人に1人の癌と言われていて。。日本でも症例がかなり少ないです。当病院では、この病気の治療の仕方を知っているものはいません。」
主治医「検査が分かるまで、2週間はかかるので、まだ分かりませんが、その可能性は非常に高いです。そして、ステージ的にもかなり進行が進んでいる可能性も高いです。」
。。。
実感がわかない。
こんなに日に日に元気になっていっているのに?
本当に現実なの?
それとも、あれは夢だったの?
未だ現実を受け入れられないでいた。
ただ、1つ感覚として分かったのは
心の窮屈感だ。
まるで、心が握られているようだった。
「100万人に1人って。。そんなこと有り得んのかよ!!」
まるで、自分がドラマや映画の世界にでも入りこんだようだ。
そんな珍しい病気が、なぜ?
よりによって自分の母に?
色んな思考がグルグルぐるぐる頭の中を巡る。
まあでも、まだわからない。
けど、
「日本に帰国することも考えなければならないな」
アメリカへの出発の時間はドンドン近づいていた。
東京での出逢い。
その頃、ネット上で話題になっていて、どうしても一度会ってみたかった人物がいる。
それは、長倉顕太という人物だ。
「会いたいなあ〜」
「あ、そうだ!どっちにしろ東京向かうんだし、一回メッセージしてみよう!」
始まりはこれ。
けど、これは1つの前兆だったのかもしれない。
「長倉さん!実は今日本に戻って来ているんですが、長倉さんにお会いする為に東京出発にしました!すごくいそがしいと思いますが、もし時間があれば、是非会って話したいです!」
そしたら、すぐに連絡が返ってきた。
「3月2日の午後なら少し時間とれます。いかがですか?」
マジか!!!
フライトは3月3日。
タイミング最高!!
ということで、夜行バスで東京へ。
ワクワクする。
いつも動画の中でしか、この人を見たことがない。
湧き出てくる高揚感を胸に、
ウトウトと、俺は眠りについた。
翌日、
東京に無事到着!
待ち合わせは表参道!!
「東京ワケわかんねぇ〜。ちゃんと着けるかな?」
「ん!!というか今日俺は何を話すんだ!」
(気付くの遅すぎ)
でも、自分の心が何かを訴えかけている。
「んーー、結局何を話したいのか分かんないけど、とにかくこういう流れになったんだから、思いっきりこの状況を楽しもう。」
ということで、自分の中で解決。
しどろもどろで表参道を歩いてると、
何とかたどり着いた。
予定よりも30分早く着いた。
長倉さん、いるかな?
Facebookでメッセージしてみる。
どうやら俺の方が先に着いたようだ。
「先に入っていて下さい。」
とのことだったので、先に入っておくことに。
すごくワクワクしている。
胸が高鳴る。
人生は前兆の連続で出来ている。
俺はそれを運命とも言うし、必然とも言う。
"偶然''という都合の良いものは存在しない。
なぜなら、その偶然が起きてること自体が、もはや奇跡なんだ。
何も考えずに、導かれるように行ったこの行為は、振り返ると、すべては繋がっていたのだと思わされる。
「こんにちは。」
え。。?
。。え!
長倉さん!
いつの間に。
「こんにちは!」
いつも動画の中で見る長倉さんだ。
彼が纏っている覇気、眼力から伝わるエネルギーが空気を伝って、体がビリビリと感じている。
会った瞬間に分かる、その圧倒的なエネルギーと自分との差。
思わず、笑みがこぼれる。
細胞が喜んでいるのを感じる。
長倉さんは淡々と話し始めた。
出版業界でのこと、今やってること、起業に到った経緯、これからやろうとしていること。
それは自分には、とにかく新しくて、まったく知らない分野のことも多々。
半分何言ってるか分からなかった。
ただ、体は感じている。
ネットで見ているだけじゃ、本を読んでいるだけじゃ、頭の中で考えているだけじゃ、絶対感じれないもの。
それが''ライブ感''だ。
百聞は一見にしかず。
ネットで完結できてしまえる時代だからこそ、''リアルに感じること''が大事だ。
俺が長倉さんと話した2時間半で得たことは知識じゃない。
脳は確かにパンパンになったし、得られたこともたくさんあった。
しかし、人間は忘れる生き物だ。
特に俺の場合、そもそも半分も長倉さんが何を言っていたのか分からなくて、頭の整理に困った。
けど、体が感じたあの感覚は、いつまで経っても覚えている。
長倉さんとの2時間半は一気に過ぎた。
めちゃくちゃ緊張したし、
半分何を言ってるか分からなかったけど、
カルチャーショックみたいなのを受けた。
今までの価値観をガラッと変えられるようなものがそこにはあった。
長倉さん!
ありがとうございました!!
そして、日本をあとにアメリカへ戻った。


