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15/7/20

背中合わせの合鍵

Image by Olia Gozha

彼女はたまにアイコンタクトで“似合ってるよ”

みたいな視線を送ってきました。

その日以来、休みの日は彼女から食事を誘われて行くようになり、

自然の流れで付き合うようになりました…。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「背中合わせの『合鍵』」



〜〜〜〜〜〜

桜を見ると今でも思い出します………



水商売を始めた当初、 僕は短い期間で転々とお店を渡り歩いていました。

自分に合ったお店を探していたんです。

そうやって何件ものお店でお世話になり、人として大切なたくさんのことを学びました。



今回のお話は、僕にとって忘れられないあるお店でのストーリーです。。。

〜〜〜〜〜〜〜〜

僕がそのお店に入店した当初、まずは平社員からのスタートでした。

主任以上の役職をもらえるとネクタイをしてジャケットを着る事ができたんですが、


ヒラ社員の場合は白シャツに蝶ネクタイ。


その格好がダサくて嫌でしかたありませんでした。



早くネクタイをしたい。




そんな見た目からの欲だけで、僕はがむしゃらに頑張って、

すぐにホール長を経て、念願の主任になりました。


これでネクタイにジャケットが着れる!!


嬉しくてしかたありませんでした…。



当時の僕は三軒茶屋という場所に住んでいて、

近くには自由が丘というオシャレな場所があります。



自由が丘には近くに目黒川も流れていて、春になると川沿い一面が桜並木に。



夜のお店用のスーツは渋谷などで買っていましたが、ネクタイぐらいは自分へのご褒美として、オシャレな街、自由が丘で買う事にしよう。




そんな感じで休日に自由が丘から目黒川に向かって

散歩をしながらお店を探しながら歩いていました…。



???

「あれ??

リュウ主任さん…だよね?

なんだ!私服だからすぐには解らなかった!」



声の方に目をやると、働いていたお店の人気キャストでした。

僕と同じ歳でしたが、AKBのこじ◯るそっくりな、とても大人っぽくて色っぽい感じの女の子でした。




桐リュウ坂口

「なんで自由が丘にいるんですか?

自分はわりと近くに住んでるんですけど…」




こじ◯る似のキャスト

「私ね、自由が丘で昼は美容師やってるんだよ〜

で、今日はオフだったんだけど、お店に荷物を取りに来たの。

それでね、桜が綺麗だからブラブラしてたんだよっ。」


昼と夜の掛け持ちだったんだ…。

毎日のようにお店で顔を合わせていたのですが僕は全く彼女のことを知りませんでした。


美容師はなんだかんだ結構お金がかかるの!!と、少し怒った顔が可愛く見えました…。



こじ◯る似のキャスト

「桐リュウ主任君は何をしてたの?

まさか桜を眺めに来たとかロマンチック

な事を言わないでよね〜〜〜??」



僕は主任昇格の記念に、ネクタイを買いに来たと伝えました。




こじ◯る似のキャスト

「自分にプレゼント?

嫌だぁ。そんなの寂しくない?

じゃあ…、ここで会ったのも何かの縁だし、

いつも頑張ってくれてるから私が買ってプレゼントするよ♪」



いや、いきなりそんな訳にはいかないです!と断ったんですが…

どっちが給料多いと思ってるの〜?と自慢げに言われて…

お言葉に甘えて買ってもらう事に。




こじ◯る似のキャスト

「これがいい色だし絶対に似合うよ!!

大人っぽくてデキル男!!

って感じ。

じゃあこれで決まり!!」



本当はシックな暗めの色が良かったんですが、

彼女が買ってくれたのは。。。


桜の花と同じ、淡いピンク色のネクタイ…



しかも◯万円!!。。。すごい値段でした。




桐リュウ坂口

「あんな高いやつ。。。すいません…」




こじ◯る似のキャスト

「いいの、いいの!!

君は絶対に出世するから、

そしたら倍にして返してね♪」




その後なんとなく食事までご馳走になり…

主任昇格おめでとうと。



おかげで1人で寂しく祝う事もなく、楽しい時間を過ごせました…。



夜桜がとても綺麗に見えた1日でした………。



次の日から早速そのネクタイをつけて仕事に。

彼女はたまにアイコンタクトで

“似合ってるよ”

みたいな視線を送ってきました。


その日以来、休みの日は彼女から食事を誘われて行くようになり、

自然の流れで付き合うようになりました…。



しかしまだ僕は主任に昇格したばかり。

社内恋愛がバレると、

降格処分に罰金を払わなければなりません。

僕はまだぺーぺーで、夜の世界の内情も解っていなかったので…

会社にバレないようにいつもビクビクしていました。

彼女は常にナンバー入りしている人気キャストでしたし、

何処で誰が見ているか解りません。


結局、家で会う様になってしまい…


最終的に僕の家で同棲するように。




1Kの狭いおんぼろアパート。

彼女の家は広くて綺麗だったので、

僕は恥ずかしくて嫌だったのですが、

気を使ってくれていたのか…

『狭い方がいつもそばにいれる』

そう言って優しく笑っていました…。



会社に内緒でドキドキしながら刺激がある付き合い。

営業中などは、彼女の指名客が来て、

イチャイチャしているのを見るのがとても嫌でした。



完全に嫉妬心です。



僕も主任となって、女の子をお客の席に案内する

“ラッキー”(または、付け回し)と言う仕事をしていたので、

常に店の女の子と絡むポジション。

酔って「桐リュウ主任〜〜」といっって、抱き着いて来る女の子もいました。



しかし…



彼女はそれを見てもヤキモチを妬かないんです。



営業終了後に、店長や女の子達と飲みに行って遅く帰って来ても。

何も文句も言わずにいつもの優しい笑顔。



仕事だから気にしないよと…。



僕の方はといえば、今日のあの指名客の席で

ちょっとくっつきすぎだったとか…

アフターには行くななど…

まあ恥ずかしいぐらい嫉妬をぶつけていました…。




そんな関係が続いていたある日、




僕が自分の接客を見て苦しむようならお店を辞める、

そう急に彼女が言ってきました。




こじ◯る似の彼女

「貯金もできたし、美容師1本で頑張りたいからいいの♪」



そう言ったその日にキャバクラを辞めました。



店側は、売り上げをかなり出している彼女をなんとか引き止めようとしてましたが…彼女は僕に聞こえる様に




こじ◯る似の彼女

「大好きな彼氏が居るんで。

その人が本当に好きなんで辞めます♪」



そう言ってやめていました。



嬉しさ9割でしたが…




1割は、僕のせいで彼女に仕事を辞めさせてしまった。。。

そんな罪悪感でした……。




お店をやめた彼女は美容師1本となり、朝から仕事へ。




一方、僕はそのまま会社を続けていたので、

仕事が終わって帰るのは朝方。





それまでとは違って、完全にすれ違いの生活が始まりました。。。

ほどなくして、僕はマネージャーに昇格し、

女の子の管理をするようになりました。

せっかく彼女と休みを合わせてデートをしていても、

引っ切りなしに女の子から、シフトやお客、そして彼氏の相談などの電話の嵐。

そんな状況下でも彼女は一向に嫉妬をする気配がありません。




こじ◯る似の彼女

「仕事なんだからあたしに気を遣わないでね。

あなたは絶対に上に行く人間だから、今はきちんと頑張って、

女の子を管理したり仕事をしていかなきゃだよ♪」




いつもと同じ感じで笑顔でそう言ってくるだけ…。

店終わりに、女の子達と飲んで酔って帰って来ても!!

いつも笑って「お疲れ様」って…。




僕はそんな嫉妬をしない彼女の態度が、

段々と不安になっていきました…。




僕は大好きだけど、

彼女はもう僕の事が好きじゃないかもしれない…。




そして・・・僕は・・・




彼女をわざと嫉妬させるような行動をとり始めるようになりました…。


連絡もしないで家に帰らなかったり。

彼女の愛情を知りたい一心に。



勇気を出して、一言、「俺の事好き?」と聞けばよかったんですけど…



聞けませんでした………




僕の子供みたいな行動、それはだんだんと2人の間に距離を作り出し始めました。





お互いに微妙な空気で同棲が続き・・・






結局、別れる事になりました…。

切り出したのは僕です…。




別れ話の最中でも、僕は彼女から

【別れたくない】

との言葉を期待していました。

そう言ってくれればやり直せる。ずるい話しですよね…。




でも彼女は…

こじはる似の彼女

「わかった…。別れよう……」


それだけ言って…


そのあとは笑顔になって、

「今日だけ泊めてね!!」



そう言ってきました…。








別れが決まった晩。

小さいベッドでいつもの様に一緒に寝て、

最後の夜を過ごしました。


いつもと同1つだけ違ったのは、いつもは抱き合って寝ていたのに、


その日は背中を合わせて寝ていました……。



もう明日からは彼女は居ない。


最後の夜なんだ。


聞けなかった事を聞こう…。


僕は暗闇の中で彼女に話しかけました…。





桐リュウ坂口

「あのさ…。

俺、不安にさせる様な事をたくさんしてたよね…

俺の事本当に好きだったの??

嫉妬とか全然してなかったの…?」



暗闇の中、背中合わせに僕は彼女にそうききました。



その言葉に彼女は…






こじ◯る似の彼女

「嫉妬してたにきまってるじゃん…。

ずっと我慢してた…。

でも頑張って上に行ってほしかったし、

色々言って嫌われるのが怖かったから…

結局、嫌われちゃったけどね……」



そう言って小さく泣いていました…



いつまでも………
















いつのまにか眠ってしまい、昼過ぎに目を覚ましました。

彼女はすでに居ませんでした…



彼女の私物なども無くなっていて、

部屋がとても広く感じたのを覚えています…。



テーブルの上には合い鍵と手紙が。







こじ◯る似の彼女

『今でも大好きです。

でも、もうダメなんだと思う。

お互い言いたい事を言わなすぎたんだよね。

最後に背中をくっつけて寝たの…

悪くなかったよ…。

今までありがとう。

これからも応援してます…』












涙がでました…。




彼女は今でも好きでいてくれた。

別れる原因を作ったのは僕なのに…




なんの涙だよこれ…。




泣きながら笑っちゃいましたよ…


彼女と付き合ったのはちょうど1年。

自分の若さと弱さ醜さが刻まれた恋愛の記憶。
















僕は今でもたまにひとりで目黒川へと出かけます。




目黒川。




彼女と出会った時、別れた時、そして今日。




いつも綺麗な桜で僕を迎えてくれるのでした………

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