ネイルサロンで働く男性社員(素人:30代)
男性は基本的に女性のネイルに対して否定的だ。
かくいう自分もそうだ。
ネイルなんてあんなゴチャゴチャしたものにお金を出すなんて馬鹿げてる。
そんなことを思っていた自分が
なぜかネイルサロンで働いている。
理由は生きるために
家族を養うために。
仕事に対する考え方はこうだ。
お客様(上司も含む)を満足させるために、お困りごと(仕事)を解決する。
基本はこれだからこそ、なんでもよかった。そういう考え方だった。
しかし、現実がそこに在った。
ネイリストである女の子たちが話している会話がまったく分からないのだ。
ネイリストA「このさ~フレンチがめちゃむずかしくて~」
ネイリストB「わかるわかる!でも、こっちのスカルプとかもじゃない?」
ネイリストA「たしかに!間違いない!」
『(フレンチ???・・・・料理か?)』
『(スカルプ????・・・シャンプーか?)』
常に女の子たちの会話を聞いてる頭の中ではこんな感じだ。
まずお困りごとがどうこういう前に、意味がわからないのだ。
ネイリストC「このタイダイってどうなってんの?」
ネイリストD「それはここで、こうやって・・・・」
ネイリストC「あ~~なるほどね!ありがとう!」
恥ずかしながら、人生でタイダイって言葉は30過ぎて初めて聞きました。
ダイダイってずっとおもってたくらい、この時の女の子たちの会話をマジマジと
聞くまでなんの事いってるのかわからなかったです。
ネイリストA「ちょっとそこのバイオとって~~」
ネイリストC「あ~もうこれはいってないから、新しいのもらってくるね。」
『(バイオ??パソコンのVAIO?。。それともゲームのバイオハザード?)』
もはやこんな事ばかりを一日中やってた覚えがある。
ようはネイリストの女の子たちが言ってることが
モノのことなのか?
デザインのことなのか?
行為のことなのか?
なにもわからないのである。
逃げ出したくなる。
元々興味のある世界でもない。
それに辛抱強いほうでもない。
過去の悪い癖が出ようとする。
『俺の職場はここじゃないかも?』
甘い心のささやきだった。
でも、バカはバカなりに経験した逃げても壁って乗り越えられない事に気づいていた。
そして何より、今は妻と娘がいる事で。生きることに必死になるしかなかった。
恥ずかしさもありながら、年下の女の子ネイリストに尋ねる。
わたし「もしよかったら、あの・・・ネイルしてもらえませんか?」
ネイリストB「え?笠原さんがですか???」
わたし「はい、やり方とかまったくわからないし、やってもらった方がなんとなくわかることもあるとおもって。」
ネイリストB「・・・はい!いいですよ。」
意を決して、伝えた行動だった。
男性がネイルをする。当時からすればだいぶ気持ち悪い光景かもしれません。
しかも30過ぎのいいおっさんにやるんだから。
でも、このネイリストは気軽に話しかけながら、基本的な事から
難しい事まで沢山教えてくれた。
この日を境に
職場に来ることが少しだけ明るく
愉しくなった。
そんなことを繰り返しながら
気づけば、職場では普通に女の子たちをネイルのことで少しは話せる
気軽な関係になれた気がしていた。
それからというもの、ネイリストと一緒にサロンを良くする。
お客様に喜んでもらう。
その結果、売り上げが上がる。
そんな毎日が始まった。
そんなある日
また転機が訪れた。
うちのネイルサロンは全国展開しているサロンだった。
その中でも、とある地方の店舗が毎月多額の赤字を出している状況だった。
そこの立て直しに男性マネージャーに行ってほしいと辞令が出た。
もちろん、誰も行きたがらない。
かくいう自分だって行きたくない。
せっかく慣れてきたばかりのこの職場だし
家族を置いてなんていけない。
序列でも一番新人の自分なんかが行ってもどうにもならない。
お声かけもないとおもっていた。
会長「笠原君、いっしょに店舗立て直しの為に少しばかり出張につきあってくれないか?」
わたし「出張ですか?」
会長「そう3泊4日でまずは、視察として来てほしい。人手が足りなくてな。」
わたし「自分なんかが行ってもお役に立てるかどうか?」
会長「大丈夫だよ。君にもできる事は沢山あるから。それに、単なる出張だ。あまり深く考えることじゃないぞ。」
わたし「・・・はぁ、かしこまりました。」
こんなカンジで、この会社にはいって最初の出張が始まった。
とある地方の店舗は3店舗が近隣にあり、3店舗とも赤字も赤字
毎月300万を超える赤字
を出し続ける地区でした。
出張中は、その3店舗を視察し
自分なりにせっかく来たんだし、何かのお役に立とうと
問題点など、気づいたことを移動の車で会長に伝えていた。
夜になると会長は歓楽街に連れて行ってくれて、飲み食いをさせてくれた。
さすが会長ともなると、豪快で
普段いったこともないお店や女の子たちがいるお店につれていってくれたりした。
そんなことを毎晩繰り返す最後の夜
会長「どうだ?この地区、最悪だろう?」
わたし「・・・はぁ、そうですね。危機意識というかみんなバラバラという感じですね。」
会長「でもな、可能性はあるんだよ!こんな地区でもな。」
わたし「そうなんですね。」
会長「この数日お前と過ごしてわかったんだ。」
わたし「何をですか?」
会長「お前、この地区の統括マネージャーやれ。一気に飛び級の出世だぞ。お前ならやれる可能性があるんだよ。」
わたし「え???!!!そんな無理ですよ。いきなりなんでも、それに自分には嫁も子供も置いて来てますから!」
会長「バカ野郎!男がそんな小さい事でグダグダいうんじゃね~!嫁も子供も連れてくればいいじゃないか!家は用意してやる。これはお前にとってチャンスなんだぞ!」
わたし「・・・・はぁ。少し考えます。」
会長「安心しろ、悪いようにはしない。」
さんざん今まで飲み食いしていた手前
簡単には断れない自分がいた。
それに出世といわれればそうかもしれないし
チャンスかもしれない。
この人は俺を認めてくれている。
期待に応えたい。
そんな思いもないわけじゃない。
そんなことを考えながら出張からの帰路で悩んでいた。