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15/7/30

もしかしたら、母は中国残留孤児になっていたかもしれない・・・。 戦後の満州から幼子を連れて日本に帰国した祖母の話。今、私がここにいることの奇跡。3話

Image by Olia Gozha



実直に任務を遂行する寅清は、軍曹になった。


一方、チヨは夫のいる満州へ向かう事を決意する。

周囲からは猛反対されたが、当時、満州にはたくさんの日本人が移住しており、日本語が通じると言われていた。この時二人にはまだ子供がおらず、自分ひとりだけの渡満であれば可能だとチヨは思ったのである。

「昭和20年8月時点で満州に住む日本人は推定155万人といわれていました」


昭和17年、黒龍江省に住んでいた日本の部落(おそらく開拓者)と生活を共にしていたチヨは念願の長男を出産「きよし」と名づけ、とても喜んだ。そして二人の家では満人を雇う余裕もあり幸せな生活を送っていた。

「日本人は現地に住んでいた中国やモンゴル人達の事を満人と呼んでいました」


戦時中の満州では日本語を公用語とし教育の場にも強制的に持ち込んで満人たちに学ばせていた。また、人や物を乗せた大八車を引く者のほとんどが満人であり、安い賃金でこきつかわれ、何か不都合な事があれば、日本人から足蹴りをされても文句を言えない立場にいた。

また、日本人開拓団と先住民との間の争いも絶えなかった。自らの土地を侵略され略奪された彼らは日本人に対して怨みを抱くようになる。

しかし、寅清は日本人も満人も皆、同じ満州国民であるという気持ちを持っていた。日本軍寄宿舎で給仕をしていた満人たちが常にお腹を空かせて食事を作り、兵士の残り物を口にしているのを知ったとき、自分はお腹がすいていないからといって手付かずの食事を下げさせたりした。チヨも満人との交流を図るため一言も話せなかった中国語を学び、満州引き上げ時には中国人を相手に流暢に話すことが出来るほど上達したのである。



昭和18年9月、防共協定国の一つであるイタリアが無条件降伏をし、その翌年、私の母「すみえ」が誕生する。この頃の日本は戦闘地区を拡大し各地で激戦を強いられていたが、あたかも快進撃を続けてるかのごとく情報を操作されていたといわれている。

同年7月満州に初めて米軍が飛来し鞍山、大連がB29からの爆撃を受けた。また、満州に駐屯した日本陸軍部隊(関東軍と呼ばれていた)は苦戦を強いられ南方へ転進。去り行く日本軍に満州在住の日本人は皆、不安の色を隠せなかった。昭和20年8月6日、広島に原子爆弾が投下、続いて8月9日に長崎にも投下され、多くの一般市民が犠牲となった。満州にその知らせが入ると間もなく、同日8月9日にソ連が参戦、午前零時を回ってソ連は満州に侵攻、全面攻撃が始まる。


しかし、この時、満州側には軍隊と呼べるものは無く、ほとんど反撃出来ずにソ連に侵略されていった。僅かながら満州にいた日本兵は悲惨なものだった。果敢にも敵に立ち向かう者もいれば、ソ連兵に捕まり捕虜となる者もいた。敵に追われ満州の荒野で自決する者もいた。寅清もまたこの時にソ連軍に捕まり捕虜になってしまったのである。同時期、満州国皇帝溥儀が日本への亡命に失敗しソ連兵に逮捕される。日本が終戦を迎える数日間、満州国内は混乱と殺戮の地に激変していく。ソ連の参戦を知った満人たちが日本人に対して各地で反撃をし始め、今までの不満や怨みを一気に爆発させていったのである。在住の日本人たちは、攻めくるソ連兵と怒りに満ちた満人たちの反撃に怯え、逃げ惑うことになったのである。

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