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15/6/25

おばあちゃんのたまご焼き

Image by Olia Gozha


「えりちゃん、今日もお弁当全部食べたね、美味しかった?」


「うん、ママの作ったたまご焼き、だーい好き!」


空になった娘のランチボックスを洗いながら、あの日のことを思い出す。


子供の頃、両親が共働きだった私は隣に住むおばあちゃんの家へ毎日のように遊びに行っていた。


「おばあちゃん、いつも面倒かけてすみません。」


そう言って仕事から帰ってきた母が迎えに来てくれるのだが、私はいつまでもおばあちゃんと遊んでいたかった。


昔から偏食がはげしかったが、おばあちゃんが作ってくれたおかずだけは残さず食べることができた。


「夕ご飯が入らなくなるから、すこぅしだけね。」

と、ほんのちょびっとだけ小皿に盛られるおかずたち。


中でも甘いたまご焼きが本当に美味しくて、もっとちょうだいとせがんではおばあちゃんを困らせた。


四角いフライパンをあたためて、たっぷりのお砂糖とちょっぴりお塩も入れた黄色いたまご液を少しずつ固めながら焼いていくのを見ているだけで幸せな気持ちになった。


仕事ばかりで全くかまってやれなかったことを不憫に思ったのか、めずらしく母親が仕事を休んで運動会に来てくれることになった。

あなたの大好物のたまご焼き、たくさん作って見に行くからね。

その言葉がとても嬉しく、いつも以上にリレーの練習を頑張った。


当日、大きな風呂敷を持って立っていたのは母親ではなくおばあちゃんだった。急な仕事が入り、来られなくなった母の代わりにお弁当を作って持ってきてくれたのだ。


しかし、母親お手製の色とりどりのお弁当を楽しそうに食べている同級生がうらやましくなり、


「なんでママじゃなくておばあちゃんが来たの?おかずも煮物ばっかりで飽きたし、こんなのもういらない。」


ふんわりと焼けた甘いたまご焼きに箸をつけることなく、おばあちゃんに背を向けた。


少し胸が痛かったけど、それきりおばあちゃんに謝ることもできないまま時は流れた。


今、遠いところにいるおばあちゃんはもうたまご焼きを焼くこともできないし、私のことだって忘れてる。


何度やってもあの味にはならないけど、私は今日もおばあちゃんに教わった通りにたまご焼きを焼き続ける。














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