
再び警察署へ
2月28日の朝、再び警察署へ行くため、私はトラムに乗って街の中心部へ向かった。
学校はまた休むことになってしまったが、この時はとにかく早く警察に報告しなければとそれで頭がいっぱいだった。
警察署近くのGloria Jeansでチェルシーと合流し、警察署へ向かった。
窓口で昨夜Facebook上での嫌がらせの件で来たこと、担当してくれたマイクに会いたいと伝えると、マイクがやって来た。昨日とは異なり、すごくフレンドリーで優しい雰囲気だった。
マイク「気分はどう?少しは落ち着いた?^^」
私「全然・・・あの後新たな嫌がらせが判明したので報告に来ました。」
私は出会い系サイトにまで私になりすましたプロフィールが作成されていたこと、Facebookの偽アカウントと同様に私の個人情報が晒されていたこと、その情報を見た人物から電話があったことを話した。マイクは真剣に話を聞いてくれ、今回の件がサイバー犯罪担当のチームに伝えられたことを教えてくれた。
ただ、問題があった。
Facebook上での嫌がらせも、出会い系サイトでの嫌がらせもDeanaがやったことは明らかなのに、確実にDeanaがやったことを示す証拠が無かったのだ。
私はもともと日本でIT関係の仕事をしていたこともあり、嫌がらせを行った人物の特定が技術的にほぼ可能であることを理解していた。ただ、それにも各関係機関に情報の開示を求める必要があるため、非常に時間がかかるだろうというのうがマイクの見解だった。
マイク「捜査の進捗は必ず君に報告するよ。ただ、事件の性質上、どうしても時間がかかってしまうことを理解してほしい。」
そんなふうに言われてしまったら、何も言えないじゃないか・・・。
せっかく警察署まで来たのに、何も新たな進展はないままその場を離れるしかなかった。
決定的な証拠
警察署を出て、少し歩き始めた時、チェルシーがふと言った。
チェルシー「偽アカウントを作ったのがDeanaかって、私が本人から聞き出してやってもいいけど、どうする?」
チェルシーは頭が良かった。
彼女自身、Deanaのことを嫌っていたにもかかわらず、無視はせず、かといって優しく接するということもなく、深入りしない程度に接していた。
まさかチェルシーが私と連絡を取っており、一緒に警察署まで行ってるとは思いもしなかったのだろう。チェルシーがDeanaにメールを送ると、すぐに返事が来た。
チェルシー「今日、FacebookでMamiが何か書いてたんだけど、面倒な状況になってるみたいね。あなたは何か聞いてる?」
Deana「何が書いてあったの?」
チェルシー「心配しすぎて全然勉強に集中できないし、メルボルン離れるかもだってさ。何もあそこまで酷い目に合わせなくてもね・・・。てか、Mamiってもともとはあなたの友達だったんでしょ?」
Deana「私には関係ないことだし。」
チェルシー「わかった、わかった。確かに、あなたには関係ないことよね。この話はやめよう。ところで、最近はどうなの?もう何もかもが嫌だって気持ちはなくなった?人生悪いことばかりじゃないわよ。」
Deanaは私が憎いということだけでなく、人生が嫌だと言うこと、消えてしまいたいということ、街で見かけた見知らぬ人の悪口(特に人種差別的に、特定の国の人たちのことを悪く言う)といったネガティブなことを頻繁に口にしていたので、チェルシーはこのように聞いたようだ。
チェルシーの優しい問いかけに対し、Deanaからは答えにならない返答が返ってきた。
Deana「そうね!Mamiがいなくなったらハッピーだわ。ほんとMamiがメルボルンを離れてくれたらいいのに。あの子には耐えられない。気持ち悪い!」
Deana「チェルシー、あなたが言いたいことはわかる。でもMamiが憎いの。偽のFacebookを作ったのは私だって警察と日本領事館に報告したとか言ってたけど、日本領事館に何ができるっていうの?」
前にも書いたが、2月のはじめにDeanaと揉めて以来、私は一度足りとも彼女に連絡は取っていない。
にも関わらず、偽アカウントが作られた26日の夜、Deanaから「あんたは私が偽アカウントを作ったって言ってるみたいだけど、私じゃない」というメールが来た。そして、今回また同じことを言っている・・・・本当にバカなのか・・・こんな人間に振り回されている自分が惨めで、くやしかった。
チェルシーは話を続けた。
チェルシー「私からしたら、女同士なんて常にいがみ合ってるみたいなもんだって感じだけど。一体何がきっかけで、そんなにMamiを憎むようになったの?」
Deana「私のベストフレンドが私のことを嫌いになるよう、Mamiが仕向けたからよ!私に取って家族の次に大事な人だったのに・・・」
チェルシー「それって、アイのこと?」
Deana「そう、アイよ。私は誰に嫌われたって気にしない。でもアイは私にとって本当に大切な存在なの!」
ここまでの発言をして、嫌がらせをしたのは自分ではないとよく言えたものだ。
チェルシーはさらにメールを続けた。
チェルシー「アイとずっと友達だったなら、アイと知り合ってまだ日の浅いMamiのせいで友情が壊れてしまうなんてありえなくない?」
Deana「そう、ありえない。私がアイのことを悪く言ってるってMamiが告げ口したからこんなことになってしまったのよ!アイが約束に遅刻するっていつも私が文句言ってるって。そんなこと一度も言ったことないのに。アイが遅刻したって、私は気にしないわよ。」
笑わせるな!!!!!!!!!!!!一度も言ったことがないだと????
まさに、息を吐くように嘘をつく。
おかしい、絶対にこの女は異常だ。
私はチェルシーにメールを続けるよう促した。
チェルシー「アイはあなたのことをよく理解してくれてたの?」
Deana「ぜんぜん理解してなかったと思う・・・。」
チェルシー「はぁ??アイがあなたのことを全然理解してなかったのなら、どうして家族の次に大事な存在だなんて言えるのよ。」
Deana「それまでは気がつかなかったの!多分、アイは私のことなんて好きじゃない。だけど他にすることもないし、ただ暇をつぶしたくて私と出歩いてたんだと思う・・・。」
非常にわかりにくいやり取りだと思われるかもしれないが、実際Deanaからの返答はほとんど答えになっていないわ、矛盾しているわで、常人には到底理解不能だった。
これ以上、Deanaから役立つ情報を聞き出すことは無理だと思ったのか、チェルシーは一旦メールを終えようとした。(まあ、上のようなやり取りでDeanaの相手をすることに疲れていたからだとも思う。)
親友だ、家族の次に大事だと言って、でもアイは自分のことは別に好きじゃないと思うだって???
アイがたった1回待ち合わせに遅れただけで、クソだの男と会ってたからだのボロクソに言っておいて、文句を言ったことなんて一度も無かっただと?
Mamiが告げ口をしたから友情が壊れただって???
ふざけるな!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
チェルシーがメールを止めようとしているにも関わらず、Deanaは話を続けた。
Deana「Mamiと連絡取ってるの?」
チェルシー「私、あんまMamiとは付き合いなかったんだよね。いつも他の人たちと遊んでるし。だから、あなたなら何か知ってるかもって思って聞いたんじゃない。」
Deanaは相変わらず、チェルシーの質問には答えずに話し続けた。
Deana「Mamiが何を考えているのか理解できない。」
そして、次の瞬間。
ついに、Deanaは決定的な一言を発した。
Deana「なんで報告なんかしてんのよ。私があいつの偽Facebookアカウントを作ったってだけの話なのに。」
"偽Facebookアカウントを作ったってだけの話なのに。"
ついに、Deanaが自ら私の偽アカウントを作ったと認めたのだ。
チェルシー「うーん・・・コメントできない。でもなんで偽アカウントを作ったの?あなたは何がしたいの?」
Deana「復讐したい。」
チェルシー「偽アカウントを作って中傷することは罪になるってわかってるの?」
Deana「気にしないわ。」
異常だ。
Deanaがおかしことは、既にこの時点ではわかりきっていた。
だが、実際にDeanaの発言をリアルタイムで目にして思った。
本当にこの人は異常だ。おかしい。
今はネット上で攻撃されているだけだが、エスカレートしたら実際に何をされるかわからない・・・
やって良いことと悪いことの区別が全く無い・・・
怒りよりも恐怖を感じた。
Deana「Mamiがどうして日本領事館に報告済みだって言ってたのかが理解できない。」
Deanaはやたらと私が日本領事館に偽アカウントの件を報告したことを気にしているようだった。
おそらく、警察は動かない、もしくは留学生の私がまさか地元の警察署へ行き被害を訴えるなんてしないと思い込んでいたのだろう。
だが、オーストラリア人であるDeanaにとって、日本領事館は未知の領域である。そのため、日本領事館が何ができるのか、どうして私が領事館にこの件を報告したのかやたらと気にしていたのだと思われる。
チェルシーとDeanaの会話は続いた。
チェルシー「もう嫌がらせはやめる?」
Deana「偽アカウントはもうクローズしたわよ!私はただどうしてMamiが領事館に報告したのかを知りたいだけなの。」
Deanaは偽アカウントを"クローズ"したと言ったが、これはおそらく1つ目の偽アカウントのことを指しているか、2つ目の偽アカウントを一時的に無効にして非公開にしていたので、おそらくこの"クローズ"という表現を使ったのだと思われる。
チェルシーとの会話が刺激になったのか、Deanaはこのやり取りの途中から私の偽アカウントを再開したり、再び無効にしたりを繰り返すようになった。
偽アカウントが再開されている隙に、チェルシーはさらに質問を投げかけた。
チェルシー「今まさにその偽アカウントを見てるんだけど、この晒されてる携帯番号って誰の番号なの?」
Deana「Mamiの番号だけど。」
チェルシー「あと、なんかHIVに感染してるだとか、妊娠してるだとか書いてあるけど、これはさすがにまずいんじゃない?」
Deana「当然の報いよ!」
また、Deanaは私の動向を非常に気にしていたようであった。
Deana「Mamiは他になんて書いてるの?」
チェルシー「出会い系サイトにも偽のプロフィールを勝手に作られたって。作ったのはあなただろうって言ってるみたいよ。」
Deana「ウケる(笑)」
チェルシー「まさか、これもあなたの仕業だって言わないでよね。」
Deana「わかった、言わないわ。」
チェルシー「・・・・・・・あなたがやったの?」
Deana「言わないって言ってるでしょ。」
Deanaは、この後も他に私が何をFacebookに書いていたのかチェルシーから聞き出そうとしていた。
チェルシーは、ここで機転を利かせてある男性の名前を出した。
チェルシー「そうそう、Facebookでロブと何か色々たくさん話してたわよ。」
ロブ(仮名)とは、Deanaと私が一緒に参加したイベントの常連メンバーのオーストラリア人男性で、Deanaはロブのことが気に入っており、明らかに狙っていた。チェルシーはロブの名前を出してDeanaを動揺させ、さらに情報を引き出そうとしたのだと思う。(ちなみに、ロブはDeanaのことを非常に嫌がっていた...)
Deana「あいつロブと何話してたのよ?」
チェルシー「なんか嫌がらせが今どんな状況なのかとか聞いてたみたい。」
Deana「もーーーーー、もっと詳しく教えて!」
チェルシー「うーん、言っていいのか(笑)なんか、どうやったら今回の問題を解決できるののか2人で話し合ってたみたいね。かなり親密そうだった。」
Deana「ちょっと、なにそれ!もっと詳しく聞く必要があるわ。」
チェルシー「2人だけで話そうって言ってたわね。」
Deana「あっそう!別にいいわよ。あの2人何かあるのかもね(怒)」
チェルシー「へー、意味深(笑)あなたロブのこと狙ってるの?」
Deana「ただの友達よ!!」
このやり取りの後、Deanaは直接ロブ本人に連絡を取り、私と話したかどうか確認したらしい。
Deana「ちょっとチェルシー!ロブはMamiと話なんてしていないって言ってるんだけど。なんでこんな嘘つくのよ!」
チェルシー「あーーごめんごめん。Mamiと話してたのはロブじゃなくて、サムだった(笑)ロブとサムがごっちゃになってたw」
サム(仮名)は、私の友人のオーストラリア人男性で、同じくイベントの常連メンバーだった。確かにサムと私は仲が良かったのだが、ただの友人同士で、それ以上の付き合いは一切無い。
Deana「へーーーー(笑)あの2人付き合ってたりして。ロマンティックカップル(プッ)Mamiはもうサムとセックスしたに違いないわ笑」
これ以上、くだらない話に付き合うのは時間の無駄だった。
チェルシーはそこでメールの返信を止めた。
私「チェルシー、あなた本当にすごい!探偵になれるって(笑)本当にありがとう!!これ、証拠として使えるわ!!!」
私がそう言うと、チェルシーは笑顔を見せた。
事件の少し前に知ったのだが、チェルシーと私には共通点があった。
チェルシーもその前の年まで、シドニーの専門学校でグラフィックデザインを勉強していたのだ。事件当時も、時々フリーランスでデザインの仕事を受けているようだった。
メルボルンの専門学校で、グラフィックデザインを学んでいた私。
後にロンドンでグラフィックデザインを学び、デザイナーとして働くことになるアイ。
既にデザイナーとして仕事をしていたチェルシー。
事件に関わった私たち3人に共通する、"グラフィックデザイン"というキーワード。
この共通点が、後々私を堪え難いほど苦しめることになった。



(実際のチェルシーとDeanaとのメールでのやり取りの一部。これらを含むスクリーンショットを警察に提出しました。)