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15/6/5

【第16話】『最後の挑戦へ』〜死に場所を探して11日間歩き続けたら、どんなものよりも大切な宝物を見付けた話〜

Image by Olia Gozha

9日目…





朝起きて早速、宿のじいさんオススメの女将が始めた屋上ガーデンに行ってみた。 


通っていいのか戸惑う程、荷物が無造作置かれた薄暗い階段を上っていくと、 

屋上ガーデン→



と書かれている。




通っていいらしい。




僕は扉を開け、屋上に出た。



朝独特の水分を含んだヒンヤリとした空気がとても心地良かった。 




屋上ガーデンは、元々女将がガーデニングが趣味で始めたらしいが、

思っていたよりも遥かに本格的だった。



色とりどりの草花がとても美しかった。 




そして、この景色。


昨日は夜の到着だったため、全く見ることが出来なかったが、


紅葉を始めた北アルプスが壮大で、思わず、



「すげー」



と声が漏れてしまった。




あんな山を登る人がいるんだから、

そんな人たちはもっとすげーと思った。




朝から良いものが見れた!



見に来て正解だったな!




そう思った。






何より、今日も天気が良い!



今日僕は、何を見て、何に出逢い、何を感じることが出来るんだろう?



1日約25kmの道のりは、体力的に本当にキツイのだが、


そんなことよりも、新しい景色、新しい経験、

新しい感情を知ることが出来るのが嬉しかった。



生きていく答えが見つかる気がして、前へ進みたくて仕方がなかった。



だから、今日も僕は歩く。



前へ進むために。


答えを見付けるために。


弱い自分に勝つために。




今日のゴールは白馬。




そう、長野オリンピックが行われた場所だ。



「ふなきーふなきー」




の場所。




それくらいしか印象はないが、

日本中を湧き上がられせた誰もが

一度は聞いたことがある場所へ行くことに、

どこかワクワクしていた。






148号線、千国街道。



日本海までは、この道をひたすら進む。








今日も神様に見守られている。



昔からずっとそこにあって、そこには新しい道も建物も造られない。



神様は、ずっと人々を守ってきていて、


人々もまた、神様を守っていた。



神様は目には見えない。



実際にいるかどうかも分からない。



でも、こうして目に見えるカタチで大昔から残されているということは、


きっといるんだと思う。



誰かが信じている以上、存在しているんだと思う。




そして僕もその一人になった。




神様が守っていてくれていると思ったら、

勇気のいることだって出来てしまう。



たとえ倒れてしまっても、神様が助けてくれると思ったら、

安心して前に進むことが出来る。



自分一人では出し切れない力を、

神様という存在のおかげで出し切ることが出来る。



だから、今日も僕は全力で、


何が待ち受けていようと、一歩を踏み出すことが出来る。




「神様、ありがとう!」




道祖神たちにお辞儀をし、僕はまた、一歩を踏み出した。




おっ!




しばらく歩くと、標識が現れた。






糸魚川まで74km。



もう完全に射程圏内だ。



遥か遠くに思っていた日本海が、


80kmを切った場所にある。



自分の家よりも、日本海に行く方が遥かに近いところまで歩いてきていた。



ゴールが見える位置にまで来ると、さらに力が湧いてくる。



僕は、嬉しくなって、写真を撮った。



これまで、標識や、橋、景色や、面白いもの、あらゆる写真を撮ってきた。



全部自分一人で撮ってきた。



この時、セルフ棒なんてものは無いから、


片手にカメラを持ち、感覚だけで写真を撮っている。




自撮りの技術はかなり上がったと思う。笑 




この時も距離と角度を変えながら、写真を撮っていた。




すると…




一台の車が停まった。




窓が開き、サングラスを掛けたイケメンの兄ちゃんが、



「どこまで行くの?」



と声を掛けてきた。




写真のポーズが、ヒッチハイクしているものだと思ったらしい。




「すみません!写真撮ってただけです。」




そう言うと、




「そうなんだ…」



「頑張って…」




と何とも哀しそうに、去って行った。




「申し訳ないことをしたな…」 




と思ったが、



わざわざ車を停めて、乗せようとしてくれたことがめちゃめちゃ嬉しかった。



僕には、「歩いていく」という確固たる決意があったから、乗れなかったけど、


また誰かが手を上げてたら停まってあげて欲しいと思った。




「やっぱり手を差し伸べてくれる人はいる」




僕は確かにそう思った。



今日も良い日だ!




最高の景色






しばらく歩くと、景色は森の中になる。



マイナスイオンたっぷり感満載の道に入った。





湖の上で人々がボートを漕いでいる。



何とも楽しそうな光景だった。



僕は、歩いていた道路から、


小さな階段を下り、湖の周りを歩くことにした。





紅葉を始めた山々、



太陽の光に照らされる湖、



心地良い風、



何とも贅沢な景色だった。



自然と気持ちも高鳴った。



歌い出したくなるくらい最高の気分だった。






この旅至上、1番美しかった景色。



外国の映画に出て来そうな、こんなにも壮大な景色を見たのは生まれて初めてだった。



「あーっっっつ!!!!」



と叫びたくなるくらいの壮大な景色だった。






美しい景色は、いつも僕を元気にしてくれた。



ただそこにいるだけで、気分は晴れ、


過去の辛かったことも忘れてしまう。



この先にもっと素晴らしい景色があるんじゃないか?



という、ワクワク感で溢れる。



この時だけは、自分が最強になった気がした。



自然のパワーを感じた。





ほんの数日前までは、



美しい景色=死に場所候補



だった。



でも、今は違う。




美しい景色=また来たい場所




になっていた。





この時すでに、



生きるか、死ぬかの答えは出ていたのかもしれない。 


でもまだ、その答えに100%納得した訳じゃなかった。




僕は弱い人間だ。



この時の答えにまだ自信が持てなかった。



きっと元の世界に戻ったら、この答えは最も簡単に書き換えられてしまう。



だから、強くならなきゃ。



強くなりたい。



そう思った。





木崎湖を通り過ぎ、中綱湖、青木湖を通り過ぎた。



青木湖も実にいい景色だった。






この小さな桟橋で、はじさんの奥さんへ誕生日メッセージムービーを撮った。



なぜならこの日、



はじさんの奥さんの誕生日だったから。



そして、はじさんの苗字が青木だから。



何ともナイスなタイミングだと思い、



この桟橋に立ち、一人でムービーを撮った。



「誕生日おめでとう!」



「僕は今、青木湖に来ています!」



的な感じで。




録画を開始し、セリフを言っている途中で、



ケータイが、

「容量が足りません」 


となった。



「くそ!こんな思い出いらねー!」


と思いながら、


その場で、過去のいらない写真を削除しまくった。


そして再度ムービーを撮った。 



一通り撮り終え、Facebookを通してUPした。




すると、今度は、



「ファイルが大き過ぎます」



となった…。




せっかく撮ったのに送れない…。




ここで諦めてもいいのだが、



僕は諦めなかった。




また再度桟橋に立ち、



新しいテイクを撮った。



多分8テイク目くらい。



桟橋に立ち、一人でブツブツ言っている。



完全に変態だ。



しかし、幸いなことに誰一人いなかったから、良しとしよう。




一人で恥ずかしい思いをしたが、



無事にUPも出来た。



後日、奥さんの友達からの評判も良かったと聞き、


変態だったけど、やっぱり諦めなくて良かったと思う。





一仕事終え、僕はまた歩き出した。




右側の山の斜面を利用し、畑仕事をしている若い人達がいた。



こんな素晴らしい景色を見ながら仕事が出来るなんて、うらやましいと思った。




「仕事」と言うと、



毎日スーツを着て、満員電車に乗り、


お客さんと会い、いつも数字に追われる。


仕事が終わらないからと毎日残業をし、プライベートな時間も無い。



そんなイメージがあった。



実際に僕がそうだったから。



でも、目の前にいる人のように、


大自然に囲まれ、生きるために絶対に必要な食べ物を作る。



太陽と共に働き、月と共に休む。



こういう仕事もあるんだと思った。



実際は、この人達もサラリーマンとは違った大変なことがたーっくさんあるんだと思うが、


自然と共に生活していることが羨ましかった。



僕は、自然と共に生活することに憧れを持った。



考えれば考える程、



今の自分の仕事は、僕には合ってないと思った。



僕は元の性格は、明るいし、人見知りもしない。


笑いのツボはめっちゃ浅いし、ノリだっていい。


こんな性格だったから、周りの人にはよく、


「営業向いているね!」と言われた。



でも僕は、やっぱり向いてないと思う。



だって好きじゃないから。



これ以上の理由は無いと思う。



仕事は、人生の中で最も時間を割くものだ。



その多くの時間を、好きじゃないことに費やすのは、本当に勿体無いことだと思う。



勿体無いと言うか、僕には耐えられない。



好きじゃないことよりも、好きなことをやっていた方が楽しいに決まってる。



好きじゃないことをやり続けた結果、病気になったんだし。




「仕事辞めよう。」




僕は、そう決めた。




しかし、仕事を辞めると、完全に収入源が無くなる。



他の会社に再就職をするにしても、履歴書に傷が付くかもしれない。



でも、そんなことはどうでも良かった。



だって、嫌なんだもん。



うつ病になった事実だって無くすことは出来ない。



どうやったって、再就職するには、狭き門になっているのは変わりないんだ。



だったら、好きなことをしよう!



いつか絶対死ぬんだ。



それまでに、1つでも多くの好きなことをやろう!



やりたいことをやろう!



僕は、そう思った。




この旅も、



僕がずっとやりたかったことだ。



やりたかったことを実際にやってみて、


たくさんのことに気が付いた。



美しい景色、



人の温かさ、



自分の体力、



歴史、



自然の厳しさ、素晴らしさ。



当たり前のことが当たり前じゃないことに気付くことが出来た。



それは、今まで当たり前に出来ていたことが、

当たり前に出来なくなったからだ。



そう、適応障害になり、会社を休職し、婚約破棄になり、

うつ病になったからこそ、気が付くことが出来たんだ。




僕はきっと、間違ってなんかいない。




ずっと昔の、嫌だったことだって、辛かったことだって、


全部間違ってなんかいない。



それが一つでも欠けていたら、今、僕はこの場所に立ってはいないし、

このことにも気が付けていない。




今の僕にはなれてないんだから。




トンネルの恐怖再び…?





青木湖を通り過ぎると、トンネルがあった。



佐野坂トンネル



トンネルの中は真っ暗で、出口は見えない。



歩道もほとんど無い。



このケースは笹子トンネルの経験から、非常に危険なトンネルだ。



僕は、今日も無事にゴールに辿り着くため、危険な道は避けたかった。



トンネルの左に小道がある。



草がボーボーに生えていて、先日の一日中降り続いた雨の影響か、

大きな水たまりがあり、

地面はぬかるんでいた。



しかし、


この道を行けば、トンネルを迂回出来るのでは?


と思い、トンネルを避け、この道を進んだ。



しかし、行けば行くほど、道が逸れていく。



でも希望は捨てなかった。



道は繋がっているはずだ。




………。





この道は完全に違う!




結局、全然違うところに出てしまった。



仕方なく、元の道へ戻る。



そしてまたトンネルの前に来た。



笹子トンネルがフラッシュバックする。



ヘッドライトを装着し、深呼吸。


覚悟を決め、


歩道の無い真っ暗なトンネルへ入った。




すると…




50m程でトンネルを抜けた。




完全に取り越し苦労だった…。



いや、あの小道を入ったのは、完全にムダ苦労だった…。





先が見えないのは怖い。



真っ暗なのは怖い。



歩道が無いのは怖い。



トンネルは怖い。




笹子トンネルの経験が僕に、こういう先入観を植え付けさせていた。





経験は、とても役に立つ。



しかし稀に、その先入観が仇となることもある。



環境が変われば、同じ結果になるとは限らないのだ。




この一件で、こんなことが分かった。



ムダ苦労はしたが、



いい勉強になった!



いい経験になった!



良しとしよう!




白馬村へ






トンネルを抜けると、そこは白馬村だった。



標高818m。



白馬駅に向かうため、佐野坂という大きな坂を下る。



道の両サイドにたくさんの木々が茂り、自然の中をひたすら下っていく。





やはり下り坂はキツイ。



9日目、僕の体は、ボロボロだった。



荷物の重さで肩コリはヒドく、



両足にはサポーター、冷やさぬようにホッカイロを貼り、

応急処置用のサロンパスを常備している。



ところどころに出来た靴擦れにテーピングを貼り、

痛みを何とか誤魔化して歩き続けてきた。



こんな今にも爆発しそうな足を慎重に前に出し、一歩一歩下っていく。



でも不思議なことに、気持ちだけは元気だった。



旅に出る前は、気持ちが元気じゃなくて、動く気にもなれなかったのに、


今は、どんなに体が痛くても、気持ちだけが元気で、前に進むことが出来ている。



やっぱり気持ちって大切だと思う。





長い坂を下り切ると、一気に視界が開けた。



スプラッシュマウンテンで最後に落ちるところから見る景色みたいに、パッと視界が開けた。






両サイドが山に囲まれた、





the 盆地!




ただひたすらだだっ広い大地がずっと向こうの方まで続いていた。



初めて見る景色だった。



僕の心はまた元気になった。




とても気持ち良い景色を見て安心したのか、

僕は、モーレツにおしっこがしたくなった。



もちろんトイレなんか無い。





僕は罪深き人間です…。 



この綺麗な小川を汚してしまいました。




ごめんなさい。。。 



そして、この場所で休憩をすることにした。





これまでの旅の途中で、食べ物はほとんど口にしていなかったのだが、


気分が良く、お腹が空いたので、


昨日のスーパーで買っておいたクリームパンと、魚肉ソーセージを食べた。



広い空の下で食べるご飯は格別だった。



どんな高価なフレンチ料理よりも、

ここで食べる200円程度のクリームパンと魚肉ソーセージの方が贅沢だった。



少し休憩し、ストレッチ、


準備を整え、また出発した。






僕は車の通る道を避け、田んぼに囲まれた真っ直ぐに伸びる道を歩くことにした。



お腹も満たされたし、最高の気分だ!



こんな時は歌う。



イヤホンから流れる曲の歌詞を覚えていなくても、

関係無しに、知ったかぶりして歌う。



どうせ周りには誰一人居ないんだから。



歌いながら歌詞を間違えて、一人で笑う。



結局、歌詞が「ラララー」になって、また一人で笑った。



完全に変態だった。



それでも、気分が良かった。



この自然の中にいることが、楽しくて仕方がなかった。



ここまで一人で歩いて来たことが、嬉しくて仕方なかった。




しかし、雲行きが怪しくなってきた…。



天気じゃない。



僕のお腹が…。



僕のお腹は、ところてん方式で、


入れれば、出る。


食べれば、出る。



その即効性たるや半端じゃない。



モーレツにう◯ちがしたくなってきた…。



近くに駅がある。



が、無人駅。



トイレも無さそうだ。



それより、このままでは汚点を晒すことになる…。




少し先に綺麗なお店らしき建物があった。



「そうだ!トイレを借りよう!」



こんな格好でお店に入るのも恥ずかしいのに、



「トイレ貸して下さい!」



なんて、う◯ちしたい感丸出しの発言なんて出来ないよ…



と一瞬思ったが、



僕のお腹は、溢れ出る冷や汗と共に決壊寸前だった。



気付けばお店に入っていた。




キッチンに女性がいる。



「すみません。」



恥ずかしさからか、声が小さくなってしまう。



「すみませーん!」



気付かない…。



「すみませーんっ!!」





「えっ?」




やっと気付いてくれた。



「トイレ借してもらっていいですか?」




「どうぞ!その先の扉!」




「ありがとうございます!!」





ふぅー、間に合った。



やっぱりウォシュレットは日本の誇りだよ。



素晴らしくスッキリした!




「ありがとうございます!助かりました!」




トイレから出ると、



おばちゃんは、テーブルに何かを準備していた。




「お焼き食べれる?」




お茶と、具がおからで出来た肉まんみたいなお焼きを出してくれた。




「さっきは気付かなくてごめんね!」


「ヒマ過ぎてウトウトしてたよ!笑」




実に明るいおばちゃんだった。




「いいんですか?」





出すもん出して、貰うもんだけ貰ってって最低だけど、


こういう時は、遠慮しないで頂いた方がいい。




「ありがとうございます!頂きます!」




おばちゃんに、感謝した。




それから、おばちゃんと色々話した。




どこへ行くのか、



なぜ旅をしているのか、



うつ病になった経緯、



旅であったことなど、



今までのことを話した。




おばちゃんは、



「全然うつ病になんて見えないよ!」



「あなたは間違ったことしてないし、まだまだやり直せる!」



「あなたなら絶対に大丈夫よ!」



塩尻のビジネスホテルのおばちゃんと同じことを言ってくれた。



嬉しかった。




もしかしたら僕は、そう言って欲しくて、自分のことを話したのかもしれない。



そう言ってくれることを期待していたのかもしれない。



それでも、おばちゃんの言葉が素直に嬉しかった。



自信が持てる気がした。





僕は、会社を辞めようと思ってるとも話した。



自然に触れて生きたいことを話した。



すると、おばちゃんは、



「起業しちゃえばいいじゃん!」



と言った。



このお店も、若い人達が集まり、自分達で食物を作り、

それを使った無添加の商品を売っているお店らしい。




「あなたなら出来るよ!」




そう言ってくれた。



さらに、七倉荘の話をし、


ペンションをやってみたいとも話した。



すると、




「この辺いっぱい空いてるペンションあるよ!」



「こっち住んじゃいなよ!」




と言った。



起業とか、ペンションとか、自分にとっては遥か遠くの認識だったが、


かなり現実味が増した。



やろうと思えば、場所はある。



実際にやってる人がいるんだから、僕にだって出来ないことはないと思えた。




「真剣に考えます!」




やりたいことを自由にやるには、会社に縛られてたら不可能だ。





「起業か…」





そういや小学生の頃から、根拠もなく「社長になる」って思ってたな。



そんなことを思い出した。





「今日、泊まるところはあるの?」




おばちゃんがそう尋ねた。




「まだ決まってないです。」




そう言うと、




「近くで知り合いがやってるとこがあるから、連絡しよっか?」




と言ってくれた。 



とてもありがたい話だったが、


今日のゴールは白馬駅。



まだ先だ。



歩ける体力も残っている。



行けるとこまで行きたい。



その旨を伝え、残念だがお断りをした。



最後に一緒に写真を撮り、心から感謝を伝えた。





「白馬までもうすぐだから!」



「あなたはもう大丈夫!!」



「頑張って!」




おばちゃんは背中を押してくれた。




「ありがとうございます!」



「頑張ってきます!!」




そう言って、お別れをした。




また素敵な人と出逢った。



きっかけはう◯ちだったけど。



ここにもいつかまた戻ってこよう。




「あの時、背中を押してくれてありがとう!」




と伝えるために、必ずまた戻ってこよう。



その時また、一緒にお焼きを食べられたらいいな。



そう思った。



おばちゃん、本当にありがとう!





今日のおやじ。




白馬駅までもう少し。



今日も僕は、自分のゴールへ辿り着くんだ。






日本海まで51km。



この文字にテンションが上がる。



やっとここまで来た。



僕は確実にゴールへ辿り着くことが出来る。



嬉しかった。




何も出来ないと思っていたのに、


今の僕は、確実に何かを成し遂げようとしている。




僕にだって出来る。



僕はもう、大丈夫!




そう思った。




しかし、足が痛すぎて前へ進めない。


辺りも段々暗くなって来た。






足の痛みに心が折れそうになるが、

それでも一歩ずつ。


めちゃめちゃゆっくりではあるが、前に進み続けた。


左手には、あのジャンプ台が見える。


「ふなきーふなきー」


のジャンプ台。



僕だって、出来るんだ!


諦めなきゃ、ゴールに辿りつけるんだよ!


絶対に諦めない!


何としてもゴールに辿り着いてやる!



もはや気持ちだけで歩いていた。




そして、白馬駅に辿り着いた。


今日もゴールに辿り着いた。




しかし、もう動けなかった。


足が痛過ぎて、立ってることさえも出来ないくらいな状態だった。


外は寒く、駅の中の待合所に座り、休んだ。


時刻は17:45。


もう真っ暗だ。


今日はまだ宿も決まっていない。


どうしようかと思うが、体が痛くて何も出来ない。


宿を調べる気にもなれなかった。


そこにふと、観光案内所が目に入った。


ここで宿を聞いてみよう。


そう思い立ち、駅を出てすぐの観光案内所に体を這うようにして向かった。


「ここから近くて、なるべく安い宿ってどこですか?」


今思うと、結構ワガママな人間だ。


でも、この時はこれが限界だった。


観光案内所のおじさんは、


「昇盛館だったら、自転車のお客さんも多いし、安いんじゃないかな?」


僕はこの言葉を信じた。


「じゃぁ、行ってみます!」


「ありがとうございます!」


そう言って、観光案内所を出た。


そして、昇盛館に向かった。


本当にすぐそこだった。


昇盛館の入り口は引き戸になっていて、宿というより、家だった。


開けるのに少し戸惑ったが、もう体が限界だ。


ここに泊まるしかない。


そう思い、扉を開けた。


ガラガラ


「すみませーん!」


玄関から一番近い部屋からおじさんとおばさんが出てきた。


娘さんらしき若い女の子がテレビを見ていたが、僕が来たことで扉を閉めた。


「今日泊まれますか?」



「今日?」


「だ、大丈夫……?」


おじさんとおばさんは、目を合わせ、明らかに戸惑っている。


「急にすみません。日本海まで旅をしていて、観光案内所の人にここの宿を紹介されたもので。」



「へぇーモノ好きがいるもんだな!」


おじさんがそう言った。


酔っ払ってるのか、酔っ払ってないのか分からないようなおやじだった。



「あっ、ダメだ!お客さん来ないと思ったから、お風呂溜めてないわ!」


おばちゃんがそう言う。



「ダメかぁ…」



と思ったが、



おやじが、


「風呂なら温泉券あげればいいだろ!」


「近くに温泉あっからよ、連れてってやるよ!」


と言った。



どうやら泊まっていいらしい。



「◯◯〜部屋準備して!お客さん!」



部屋でテレビを見ていた娘さんに声を掛け、娘さんはちょっと不機嫌そうに、



「どこの部屋?」



と言って、階段を上っていった。



何だかすげぇ、申し訳ない。


こんなに歓迎されない宿は初めてだった。


料金は先払いだった。


思ったよりも高かったけど、

急なのに対応してくれたから、ここに泊まることにした。



「洗濯機ってありますか?」



昨日の七倉荘で洗濯が出来なかったため、今日こそは洗濯をしたかった。



「洗濯機は置いてないのよ〜」



おばちゃんはそう言ったが、



「◯◯さんとこのコインランドリーがあんべ!」



とおやじが言った。



すると、おばちゃんは、その◯◯さんに電話をかけ、営業時間を聞いてくれた。



この一連のやりとりが、マンガに出てきそうなくらい、愉快な家族だった。


仲の良さそうな家族だった。



「ありがとうございます!お世話になります!」



そう言って、部屋の鍵を貰った。



「準備出来たら、温泉連れてくからよ、声かけてくれ!」



おやじはそう言った。


客を客として扱わないような、面白いおやじだった。



部屋に向かう途中に、娘さんとすれ違ったが、完全に無視だった…。


きっと思春期のお年頃だったんだな。


タイミング悪くてごめんよ…。


少し悲しくなったが、部屋に荷物を置き、

お風呂セットを手にして、おやじに声をかけた。



「じゃ、行くか!」


「こっち乗ってくれ!」



軽トラに乗り、少し離れた温泉まで連れてってくれた。


車を運転してるから、恐らく酔っ払ってはいない。


シラフが酔っ払いのようなおやじだ。


道中、


「ここの中華屋美味いぞ!安いし、量もすげぇんだ!」


何ともありがたい情報を教えてくれた。


そして、温泉に着く。



みみずくの湯


「帰りは歩いて帰って来れるよな!」

「今来た道戻ればいいから!」

「帰り遅くなるならよ、静かに扉開けてな!」

「鍵は開けとくからよ!」

「じゃ!」


そう言って、おやじは帰っていった。


実に笑えるおやじだ。


丁寧に対応するのがバカらしくなってくる。


ギャグマンガのおやじだった。



しかし、温泉は最高だった。


地元の人はもちろん、外国の人もいたし、結構賑わっていた。


脱衣所で登山帰りだというおじさんとも話した。


たわいもない会話だったが、見ず知らずの人とも自然と会話が出来るようになっていた。


お風呂上がり、久しぶりに炭酸を買った。




METS


シュワっとしたい気分だった。


そして、置いてあった10分100円のマッサージ機に横になった。


もう自分の力ではどうにもならないくらい身体中が痛かった。



「おっ、おう、いてっ、いててっ」


と悶絶した10分間だったが、おかげで体が結構楽になった。


METSを飲み干し、おやじが教えてくれた中華屋に行くことにした。


みみずくの湯までは車で5分くらいだった。


何気に結構な距離がある。


薄着で来たのは間違いだった。


いや、元々雨具以外長ズボンは持ってきていない。


実に寒い。


歩くのが精一杯で、走ることは出来ない。


あったかいラーメンでも食べたいなぁ。


そう思っていた。


そして、おやじ教えてくれた中華屋に着いた。



………。



今日は定休日だった。



………。



おやじ…。



休みじゃねぇか…。



仕方ねぇ、違う店を探すか。


その前にコインランドリーに行って、洗濯中にご飯を食べよう。


そう思って、コインランドリーに向かった。


コインランドリーに向かう途中、店を探したが、

店どころか、コンビニすら一軒も無い。


空いてる店が無い。


白馬は、8時になると眠ってしまうらしい。


洗濯しながら、どうしようか考えた。


コンビニも無ければ、夜ご飯が無い。


そうこうしている内に、洗濯が終わった。


洗濯物を乾燥機にぶち込み、また考えた。


とりあえず、フラついてみよう。


そして一軒の居酒屋を発見した。


仕方ないから、そこに入った。


居酒屋なのに、定食がある。


ラッキーだった。


僕は、チキンカツ定食と生ビールを頼んだ。




9日目にして、この旅で初めての外食だった。


店のご飯とはいえ、人の作ったご飯は美味しかった。


久しぶりの肉、温かいご飯。


実家にいた頃は当たり前だったものが、今となっては貴重なものになっている。


ご飯を作ってくれるってありがたいんだな。


としみじみ思った。


予想以上のボリュームに、お腹はパンパンになったが、大満足!


ビールも入って良い気分だった。


そして、宿に戻る。


恐る恐る扉を開け、優しく優しく扉を閉めた。


忍び足で部屋に戻り、明日のことを考えた。



日本海までは、50kmを切っている。


このペースで行けば、あと2日で辿り着く。


しかし、ここから25km地点のところには、宿が一軒しかない。


満室だったら終わりだ。


この寒さじゃ寝袋だけじゃ凍死する。


それに、25km歩くと着くのは真っ暗になってしまう。


日本海に着いて、真っ暗だったら意味が無い。


かと言って、ちょうど良いところに宿も無い。


どうすっかなぁ…。


なんか毎日25km歩いて宿に泊まってってのも、つまんないよな…。


やっぱり最後にぶっ飛んだことしないとつまんないよな。


限界に挑戦しないと、意味無いよな。


初心に還ろう。


この旅の最後に、本当の限界に挑戦する!


ぶっ倒れるまで歩き続ける!


日本海までは50kmを切ってる。


42.195kmを走る人がいるんだ。


歩いて行けない距離じゃないはず。


そうだ!


明日、一気に糸魚川まで歩く!


そして明る朝、日本海を見てゴールにしよう!


それがこの旅のゴールだ!


この旅の終わりだ!


極限まで自分を追い込んでやる。


死ぬほど歩いてやる。


そして、弱い自分を倒す。


僕は強くなる。


最後にして最大の闘いだ。


ただ一つ、絶対にゴールする。


これだけは、絶対に達成してやる。



そうと決まれば、明日の朝は早い。


最大の挑戦への不安、期待、恐怖、

色んな感情が混ざり合い、興奮気味になったが、

ビールも入ったせいか、僕はぐっすりと眠りに落ちた。



9日目の成果!!


【歩数】

34361歩


【消費カロリー】

1168.2kcal


【歩いた距離】

24.5km


【歩いた時間】

9:15〜17:40







そして10日目…





さて、今日もスタートだ!


最後にして最大の挑戦。


限界を見に行ったろうじゃないか!


自分の限界をぶっ壊したろうじゃないか!



つづく…


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