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15/5/8

母に抱く殺意 第1章

Image by Olia Gozha

その日は、ある日突然訪れた。

年の瀬の近づいたある朝、私の携帯が鳴った。

父の携帯からの着信だった。

こんな朝からいったい何だろう?と半分寝ぼけて出た

「はい・・・」

「高橋夏子さんの携帯ですか?」

父とは違う声色に、一気に目が覚めた

「はい、そうです」

「お父さんが職場で倒れて、病院へ運ばれました。○○病院へすぐに来れますか?」

「・・・・」

事態が呑み込めず絶句してしまう

「はい、すぐに行きます。20分くらいで行けます!」

父が出勤後ロッカーで倒れしばらく誰も気が付かず発見が遅れ、発見した人が応急処置をして救急車を呼んでくれたことを話してくれた

母や姉に連絡したものの、連絡がつかず、私に連絡が来たのだった。

隣で寝ていた夫を起こして、運転してもらい病院へ向かう。

“大丈夫だよね…、生きているんだよね…”

状況がわからず不安と動揺で、涙がとめどもなく溢れた。

夫が励ましてくれたが、言葉が耳に入らなかった

病院の救命救急部へ着くと、父の職場の人が数人、状況を説明してくれた。

まだ救命処置をしていて、すぐには父に会うことは出来なかった

姉の携帯へ連絡をしながら、伯母へ連絡を入れる

伯母には、私の結婚式で半年前に会ったばかりだった

「はい、●●です」伯母の聞きなれた落ち着いた声

「夏子です。父が職場で倒れて…(感情的に昂ぶりすぎて次の言葉が出てこない)」

「なっちゃん?弟は大丈夫なの??」伯母の声は一気に高くなった

「蘇生はしたけど、まだ危ない状態で、父に会えてなくて、母や姉も連絡つかなくて…」心細い気持ちが溢れだす

「連絡つかないなんて、どうなってるの?!肝心な時にいないのね!弟と妹に連絡するから、容体を連絡して。すぐにそっちに向かうから」

「はい。すみません。また連絡します。」

そういって、電話を切ってしまった。

看護師に案内され、ICUに入り、やっと父に会うことが出来た

複数の点滴、心拍のモニター、繋がれているいくつものチューブ類、忙しく行き来する看護師。

心拍のモニターの表示される波動が不規則で、父の状態を物語っていた

素人目にも、父の様子がおかしいとすぐに気付いた

父は、ただ上を見つめ、ただ何かに反応している……話しかけたが、父が私のほうを向くことはなかった。

主治医は、家族全員が揃ってから容体の説明をします、とだけ言った

父のそばに座り、恐る恐る手に触れた。

手を握ることも躊躇われるほど、父の命の灯が儚く見えて、怖くてそれ以上触れなかった

やっと姉と連絡が付き、母と一緒に旅行から戻る途中で、すぐに向かうと言って手短に電話を切った

姉と母が到着する小一時間の間が長く感じられ、ただ父の傍で茫然としていた

姉と母を出迎え、言葉少なにICUへ。

母は、父の肩を大きく揺すって話しかけたが、父は、反射するように瞬きするだけだった。

やっと聞けた主治医からの説明は、

「心室細動で倒れ、床で頭を強打、脳内出血を起こし、脳全体が腫れている。3日くらいは不安定な状態で危篤状態が続くかもしれない、どのくらいの時間、血液の循環が悪かったのかも不明なので、先の回復はわからない」

そんな感じの説明だったはず。

叔母に話すためメモをとっていたが、何を書けば良いのかも判断できない状態だった

父の会社の方への対応は、母に任せ、伯母に容態を連絡したら、叔母、叔父もすでに向かっているとのことで、病院の入り口で迎えることになった

簡単な手荷物だけで、叔母と叔父がタクシーから降りてきた

「なっちゃん、大変だったね、兄さん、どうなの?」

訛りのある叔母の言葉は暖かく、安心して涙が出た

父の状態を説明して、ICUの入り方を説明して、父に会ってもらった

叔母は普段の大きな声で、父の肩を優しくゆすって話しかけたが…やはり反射のような瞬きを繰り返すだけだった

伯母夫婦も病院へ到着し、親族控室に、私と夫、母、姉、伯母夫妻、叔父、伯母の8人が揃った(姉には夫と子供がいたが子供が幼いため、夫と子供は帰宅)

姉が伯母たちのために、飲み物や食べ物を部屋の中央置いた

8人もいるのに誰も話さず、皆が下を向き、重い空気だけが漂う

その時、母が姉の買ったおにぎりを食べ始める

それを見た伯母が「何なのよ!」と言いたげに私を見て、私と目があった

呆気にとられたが、言わずには居られなかった

「こんな時に、よく食べられるね!」

食べる手をとめて母が言った

「朝から何も食べてないのよ。お風呂入っておいてよかったわ」

重かった部屋の空気が一気に凍りついた

倒れてからもう10時間以上経っていたが、父はまだ生死の境にいる。

伯母たちも食事のことなど考えられずに今日は過ごしただろう

母に掴み掛りたい気持ちを抑えて右手を強く握りしめた

父が倒れ、これから先に起こる出来事を暗示するような出来事となった

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